第112話


エリーさんから送られた村の記録は酷いものでした。

いくつもの建物は崩れ、田畑は黒焦げ。人々は疲労困憊していました。


「王都から救助隊が来た!」


誰かの声で人々は・・・。我先に『要望』を訴え出しました。秩序なんてありません。止める声も届かず、自分の欲望だけを訴え続けています。


「いい加減にせんかー!!」


アルマンさんの怒鳴り声で静寂が戻りました。冒険者の皆さんは大丈夫でしたが、貴族たちは村人に馬乗りになられて身包みぐるみを剥がされそうになっていました。

衣類でお腹が膨れるのでしょうか?映像を見る限り、盗賊に近い状態だったようです。

それにしても・・・。


「エアちゃん。メールでいくつか確認したいって言って来てたけど」


「いま何処ですか?話をしても大丈夫ですか?」


「結界の中だから大丈夫よ。一緒にキッカもいるわ」


「・・・。エリーさん。テントの中か『周りから見えない場所』でお願い出来ませんか?」


「エアさん?何かあったのですか?」


「私の話を聞いて、周りに目が行かないと言い切れますか?」


「・・・無理だわ。自分で自覚していなくても目で追ってしまうわ」


「そうですね。今もエアさんに言われて、無意識に周りに目を向けてしまいました。すみません。エアさん。移動してからまた連絡します」



エリーさんから再度連絡つうわが入ったのは5分後でした。



「エアちゃん。今はテントの中よ。結界も張ってあるから何を話しても大丈夫」


「ではお聞きします。まず、今回は『ゴブリンの襲撃』で間違いはないのでしょうか?」


「それは分かりません」


「・・・分からない?」


「はい。魔物の襲撃は深夜。そのため誰も『魔物の姿を確認していない』のです。ただ、『村の外から火球が飛んできた』という証言は一致して届いています」


「襲撃は『火球』だけでしょうか?」


「はい。夜のため、水と雷が使われれば目立ったはずです」


「それでは次に・・・」


「待ってエアちゃん。今の話の理由を聞いてもいい?」


「いえ。後にしてください。・・・それで。村に着いた時に貴族が男たちに襲われていましたね。貴族たちの服は『食べ物で出来ている』のでしょうか?」


「そんなはずないでしょう?」


「では、あの時は何故『身包み剥がされていた』のでしょう?」


「え?」


「あのような『キンキンキラキラ』の服が食べ物のように見えましたか?それとも、あの服に『お腹を満たすもの』が隠されているように見えましたか?・・・魔物にはあの服を纏った連中にくが『脂が乗っていて美味しそう』に見えるのでしょうが、私には『脂身ばかりで不味そう』にしか見えません。お二人にはどう見えていましたか?」


「エアちゃん・・・。私は屍食鬼グーラじゃないのよ。キッカだって屍食鬼グールじゃないんだから・・・。って、キッカ?何を考えているのよ」


キッカさんが黙りましたね。ではもうひとつ。


「エリーさん」


「ん?なに?キッカは今『思考の泥沼』に入っちゃったから役に立たないわよ」


「エリーさん。『攻撃を受けて崩れた建物』って元は何でしたか?」


「え?・・・えっと、冒険者ギルドと商人ギルド。それと物見やぐらと守備隊詰め所。治療院を兼ね備えた教会。ああ。職人ギルドを兼ねた『何でもよろず屋』もそうね」


見事にかたよってますね。


ヤスカその村では、24時間年中無休のギルドや守備隊詰め所も『夜間営業は致しません』なのでしょうか?」


「・・・・・・え?」


エリーさんまで黙ってしまいました。


「エリーさんが言ったんですよ?「人的被害はなかった」って。何故ですか?セイマールに向かった時は、小さな村でも24時間で働いていましたよ?・・・そうでしたよね?キッカさん」


「エアさん・・・。それは・・・」


キッカさんは何か言いにくそうです。


「『ゴブリンの棲息地に近い』以上、24時間で警戒しているのが当然ですよね?それに気付いていますか?『王都と連絡が取れる』可能性が高い施設だけが攻撃を受けているんですよ?」


「エアちゃん・・・」


エリーさんの声が震えています。


「エリーさん。キッカさんも。・・・怖がらせてすみません。実はすでに手を打ってあります」


「エアさん?」


「今頃、事前に事情を話したアルマンさんが、「寒いから」と言って皆さんと共に『癒しの水』で作ったスープを配っています。対象は村にいる人全員。貴族も含めてです」


「エアさん!」


「大丈夫です。貴族は『おとり』です。連中が真っ先に完食すれば、村の人たちも同じ鍋のスープを疑うことはないでしょう。もちろんエリーさんたちも食べて大丈夫ですが・・・。『戦闘態勢』でいてくださいね」


「待って下さい!エリー。サリーが慌てて入ってきた」


ガサゴソと音がすると、「エリー!キッカ!大変だ!」とサリーさんの声がしました。結界を解除したのでしょう。


「魔物だ!村の中に魔物が現れた!」


「なんだって!」


「現れたのは『グール』でしょう?」


「エアさん・・・。なんで、それを?」


其方そちらに一部以外の残ってた皆さんが向かっています。・・・そろそろ着く頃です。後発部隊にはすでに説明は済んでいます。あとでどうなったか連絡下さいね」


そう言って通話を切りました。何時までも話していては魔物討伐が出来ませんからね。

それに、アルマンさんには説明してあるので、指示は大丈夫でしょう。

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