第103話


新年の祝賀パーティの中止を貴族たちに認めさせるのは大変な作業になる筈だった。新年最初のパーティは貴族にとって、自らを着飾り優越を競い、その年の順位ランクを決定させるために見栄を張る場だ。

・・・それが連日連夜続くのだ。


何処どこぞの貴族は上質な生地を使っている」


彼処あそこの貴族は高価な宝石をふんだんに使っている」


其方そちらの貴族の刺繍は見事な出来だ。お針子を特定して我が家の専属に囲うことは出来ないだろうか」


そんな馬鹿げた品評会ことのために国庫が開かれ大金が湯水のように使われる。

わざわざ冬が来る前に領地へ戻り、新年初日の祝賀パーティにあわせて王都に来て、パーティ後にまた領地に戻る。その移動の費用が国庫から出されていたのだ。それも『雪が降り不便な中を来るのだから』との理由から、申請額の5割増しで支払われて来た。

・・・彼らは国庫を何だと思っているのか。

すでに財務課は審神者によって取り締まられ、内務大臣が処断済みだ。政務自体に問題は起きなかったが、退官者は少なくない。

ダンジョン管理部と同じく不正が蔓延はびこっていた。

内務省は内務調査部を設立。文字通り、調査専門の部署だ。大臣を最高責任者に任命したため、貴族の買収もないだろう。過去の記録も調べてすべて公開するつもりである。



新年の祝賀パーティの中止を止めようという貴族たちの陳情書が連名で届いた。

その理由があまりにもお粗末チンケな内容だった。中でも一番多かったのは『祝賀パーティ用に前々から衣装を用意しており、今さら中止にされても困る』というものだった。

戴冠式後のパーティで「新年の祝賀パーティは開催しない」と伝えてある。聞き逃した以上、自己責任でしかない。

何より、前王及び第二王子によって生命を落とされた聖女をいたむ心はないのだろうか。



貴族の中には、「それでしたら『聖女様に認められた冒険者』と『薬師と錬金の神々から祝福を受けた者』を招いて盛大に祝えばいい」と言い張る人もいたようだ。


「『薬師と錬金の神々から祝福を受けた者』に我々は接触することが出来ないことを忘れたのではあるまい?」


「しかし王命おうめいを拒めば『不敬罪』になります!その者も流石に生命を失いたくない筈です!ならば此方の招聘しょうへいに応えるでしょう!」


「図々しくも『神の祝福を受けた』との理由で我ら貴族を見下しておる。ドレスコードも知らぬであろう無礼者の顔を拝んでやろうではないか」


「祝福を受けた者は女だという。ならば陛下が王命で後宮にでも召し上げれば良い。それで丸く収まるではないか」


貴族の中には、あまりにも低俗な考えしか出来ない者が後を継ぎ、家名を落としているようだ。


「そうか。では今の提案に賛成の者は起立してくれ」


宰相の言葉に起立したのは51名。そのすべての名をわきに控える書記官が記録する。すぐに宰相に名を書いた紙を手渡すと、リストを確認した。


「近衛騎士団。いま立っている者たちを一人残らず捕らえろ。歯向かう者には容赦するな。神に歯向かう者だ。手荒な真似をしても構わん!」


近衛騎士隊長の声で、隣の部屋に控えていた騎士団が雪崩れ込み、51名全員を捕縛した。


「離せ!離さぬか!」


「陛下!何故なにゆえこのような無体むたいを・・・」


「お主らは神の決定に意を唱えると申すのであろう?」


「神が『貴族はその者に接触することを許さぬ』との誓約を認め、貴族院も法に含めた。にも関わらず、『王命で従わせる』?『陛下の後宮に入れる』?お前たちは神の定めに背くのであろう?ならば捕まえるのは当然ではないか?」


「お主らはしらなかったようだな。・・・陛下も接触が禁止されておることを」


そう。王族も貴族と共に『接触禁止』の対象だ。そして・・・国王も『王族のひとり』なのだ。



この騒動で51貴族は領地に戻されて謹慎。王都へは5年間入ることは許されない。また、後継者のいる貴族は当主交代となった。

王城で役職のある貴族が役職を失わないためだ。



その騒動により、貴族は序列を落とされた。そしてバカにして見下してきた冒険者が序列第二位のランクに上がったのだった。

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