第60話
「まずは前の町長ギルモアの話からね。エアちゃんも知っているけど、ギルモアはブラームスの甥で、町長を継ぐために養子になった。それは13歳の時ね。ブラームスの妻子が流行り病で亡くなったから、後継者として弟を指名した。しかし弟はブラームスと5つしか離れていないため辞退した。そして、弟は長男に聞いたが『自分は町長の器ではない』として断った。そして次男がギルモア。オーガストは賢いとは言ってもまだ7歳の子供で、親から引き離すのは忍びなかった」
「彼はあの後、王都で取り調べを受けたけど『町長と言う立場を悪用した』だけだからね。三年間の犯罪奴隷の処分を受けたわ。下水道の掃除夫として王都の地下道に入れられてる。出て来てもルーフォートには戻れないわ。住む場所が限定されるの。ギルモアは北部にある農村の小作人に永久就職よ。『権力を悪用した者』は二度と権力が使えなくして『権力者に使われる側』になるのよ」
『目には目を』でしょうか。ですが自業自得です。子供時代から彼女を増長させてきたのはギルモアなのですから。
そして、さんざん『自分はメルリが好きだった』と繰り返していたのは、『女なら恋愛話、それも片思いで振り向いて欲しくて』という内容の話なら上手く騙せて罪が軽くなるんじゃないか、という作為があったようです。ですが、私には一切効かず、さらに正論を吐かれて・・・、
そしてメルリは犯罪奴隷ではなく借金奴隷として娼館に売り飛ばされました。若いから、頑張って働けば四十代。遅くても五十代半ばで社会復帰出来るでしょう。娼館では避妊薬が使われるそうです。裕福なお坊ちゃんの子供が出来たら後々面倒だから。そして妊娠や堕胎をしないため娼婦も身体を傷つけることもなく働けるそうです。娼婦は歩合制なので、稼げば稼ぐほど借金完済して自由になれるようです。五十代や六十代でも需要はあるらしく、「母性を求めてやって来る」そうです。
娼館に売られても、全員が娼婦になるわけではないそうです。
娼婦の着ている服は手作りだそうです。娼館に売られた女性たちの中でも裁縫上手な人たちが『お針子』として選ばれるそうです。お給金は、普段着1着で、娼婦がひとりを相手にして貰える額の20倍。仕事着になると1着50倍から100倍になるそうです。
衣装や、ハンカチなどの小物に施されるレース編みや刺繍が出来る人も、10倍から30倍の高給が貰えます。中には外部発注を受ける人も。2割は仲介料として娼館が貰いますが、残り8割が本人に渡されます。借金を早く返済したい人は、そこから娼館に返済するそうです。
娼婦以外は待遇も良く、娼館とは別棟に仕事部屋付きの個室を与えられ、自炊も町での買い物も可能。ほぼ変わらない日常生活が送れるため、借金を完済しても家族への送金のために残るお針子は多いようで娼館も家賃を払うなら、と許しているみたいです。中には独立して、様々な娼館から依頼を受ける人までいるそうです。
そして、娼婦とお針子は『同じ娼館に売られた女性』ですが、お針子は『職人』として認められているようです。
メルリは裁縫が不得手だったため、残念ですが娼婦だそうです。お針子なら、三十代ギリギリで社会復帰出来たでしょう・・・。
メルリの家族、と言うか、両親への罰は『一年間、二人の給与を全額冒険者ギルドへ渡す』という内容になりました。まあ『お前らの娘の再起を信じて職員が支払ったお金を返してやれ』ということです。家は持ち家のため家賃はなく、メルリには兄姉がいます。両親のお金がゼロでも、一年間なら生きていけるでしょう。いえ。散財し放題だった末娘が家を出たため、生活に困ることもなくなったのではないでしょうか?
「じゃあ。次はガータンの話ね」
ガータン自身はすでに鉱山に送られています。鉱山に確認したところ、間違いなくステータスは封じられていたそうです。借金奴隷から永久奴隷へと変えられる時は王都の奴隷商人だったため不正はなかったようです。
ただ、悪事に加担していた奴隷商人が売った奴隷たちの中で、ステータスが使える奴隷がいたそうです。彼らのほとんどが『収納ボックスの中身を失いたくなかった』というものです。
奴隷になれば、収納ボックスは中身ごと没収されます。奴隷から解放されれば、『買い取り』という形で手元に戻ります。
彼らは収納ボックスだけを提出し、ステータスの『収納ボックス機能』は使えるように奴隷商人に高額な金銭を支払っていたようです。ただ、話を持ちかけたのは「奴隷商人から」と証言がいくつかあがったそうです。
男爵家の子飼いです。始めは確かに奴隷に堕ちる貴族から話を持ちかけられたのでしょう。それに味をしめて、貴族相手に私腹を肥やしていたのでしょう。時にはガータンのように男爵の指示で、一定期間を過ぎるとステータスが使えるようにしていたそうです。そして、『鑑定拒否』の指輪をしてステータスが見えないようにしていたそうです。
それなのにステータスを見ちゃった私・・・。
そんな私を、危機感から誘拐して男爵邸に連れて行こうとしたけど、すでに私を見失い、町中を探し回っていたところをオルガさんたちに見つかり捕まったそうです。この時は『個人情報漏洩に関わる件』だったためバレないと思っていたみたいです。ですが、取り調べが王都で行われ、奴隷商人に『正しい手順』で永久奴隷に堕とされたため、ステータスが完全に封印されたそうです。
ちなみに子飼いだった奴隷商人も、奴隷を売却後すぐにステータスの封印が解除すると犯罪がバレてしまうため、封印を二ヶ月間に設定していたようです。
国内に散らばる全奴隷を調べるわけにいかず、以前『黒髪の聖女』騒動で私が提案していた飾り紐に『ステータス封印』機能をつけて、全員の足首に装着させたそうです。もちろん冒険者が登録抹消で付けられる『鉄の腕輪』と同じで『外せそうで外せない』そうです。
まだ奴隷に装着義務が始まったばかりなので、腕輪のように『足チョンパ』をした人はまだ出ていません。元冒険者の話があまりにも有名なのですが・・・。元冒険者みたいに挑戦して『伝説
そして、宿屋の女将でガータンの妻。彼女は『人身売買で得た金で夫の借金を返していた』そうです。
彼女は夫がメルリに手を出していたこと。個人情報漏洩の報酬として一千万ジルを提示していたこと。冒険者ギルドで私の誘拐が成功していたら、報酬を渡すと言ってメルリを男爵邸に連れ込み人身売買の被害者にしていたこと。
その企みを知り、泣きながらすべての罪を自白しました。だからと言って、被害女性の数と彼女たちの『癒えぬ心のキズの深さ』を天秤にかけても1グラムも罪が軽くなるはずもなく・・・。
『43年間の娼館奴隷』という判決が出ました。『43年』というのは、この事件の被害者41人と私、メルリの二人を足した数です。
彼女はすでに五十代です。娼婦として客が取れるのは六十代まででしょう。ということで、同居していた家族も共同で罪を償うことになりました。ただ、4人の娘のうち、末娘は手先の器用さから『お針子』に。すぐ上の次男が商館の料理人でしたが、両親の犯した罪により
長男はいません。元々、ガータンが借金を作ったのは、長男が起こした乱闘事件が原因です。正確には『巻き込まれた』に近いでしょう。酔っ払いに絡まれている女性を助けて相手を突き飛ばしたら、打ちどころが悪くて亡くなったそうです。助けた女性は恐怖からなのか、守備隊が来る前にその場から逃げ出してしまった。目撃者の証言からも『酔っ払いに絡まれていた女性を助けた』ことは認められました。しかし『先に手を出して殺した』のも事実です。そのため、『二年間の犯罪奴隷』の決定が
さらに殺された酔っ払いはエンシェント男爵のひとり息子。ガータンは多額の慰謝料を請求されて借金奴隷になり、エンシェント男爵の下男として悪事に加担するようになったそうです。
現場から逃げ出した被害女性はすぐに宿を引き払い、ルーフォートを出たそうです。男たちに絡まれても上手く躱す、その慣れた素早い身の
フィシスさんたちには『女性の心当たり』がありました。後に北部守備隊が北の町で捕縛した女性です。
町の貴族の『ボンクラ息子』を手玉に取り、金品を巻き上げて、気付かれそうになると町からいなくなる。そのボンクラ被害者は多数。北部の町で捕まったのは、その町の権力者は女性。そしてこの町でターゲットにしたボンクラ息子の母親だった。『長子継承』のため次期町長は姉だ。
それを知らない女性は、何時ものようにボンクラ息子に金品を強請った。それを母親と姉に相談。というか「今日仲良くなった女の子から、旅の途中で盗賊に襲われてお金がないから貸して欲しいって言われた」と話したのだ。
姉から「それは大変だったわね。じゃあ、此処へ呼んであげたら?」と言われて喜んで迎えに行った。女性は『家に入れば金目のものを盗み放題』とほくそ笑み、ボンクラ息子に連れられて町長宅へ。其処で待っていたのは町の守備隊。あっさり捕縛された。
「もし盗賊に襲われたのが本当だったら、門で訴えるか守備隊の詰め所へと向かっているはずですよね」
次期町長はその判断から守備隊を呼んだのでした。
スタンピードで通信が使えないためその後の情報はないが、この町の事件を問い合わせているため、
『ゴートゥーヘル』はまだキッカさんたちのテントにいます。日々、アルマンさんの『しごき』に耐えているようです。
他の冒険者パーティと違い、罪名は『人身売買未遂』のため南部守備隊で身柄預かりにするそうです。
「身柄預かりと言っても見習い扱いよ。守備隊配属で10年間働いてもらうだけ。10年後に正規隊員になるか。そのまま辞めて冒険者に戻るかは本人の自由よ」
「アルマンのしごきに耐えて、キッカたちの特訓に泣き言を言いつつ、ついて行こうとする根性を見込んだってところね」
・・・・・・ご愁傷さまです。
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