第33話
四階にも人がいないのを確認して、三階と同じ方法で魔物を倒して収納し、採取もしていきました。
次の五階まで、広場の位置は『降りる階段の横』なので、道も階段前に繋ぎました。
ちなみに、三階の広場を確認したけど湿度が高く、中には誰もいませんでした。そして宝箱には岩塩が五個入っていました。エリーさんとキッカさんに渡そうとしたけど、二人からは辞退されました。
「それはエアちゃんが持ってなさい。この先、必要になるでしょ」
「そうですね。このダンジョンは下層に向かうにつれて、体力的にも精神的にも辛くなっていきます。絶対無理はしないで下さい。このダンジョンは『途中で諦める』ことを教えるために50階層になっているのですから」
「エアちゃん。このダンジョンはね。まずは初心者の『甘い考え』を叩き直すためにあるの。その上で『今の実力』を知るために存在しているわ。ランクやレベルが上がる度に此処へ来て、ペース配分を身に着けていくのよ。そしてキッカの言った通り、途中で諦める勇気と、自分自身の甘さを思い知るための場所よ。だから、少しでも無理だと判断したら広場に入って。たとえ、そこが転移石のない場所でも待っててね。必ず迎えに行くから」
「はい。分かりました」
エリーさんとキッカさんからは、「四階の広場に寄らずに五階へ進んで」と言われました。
「たぶん、フィシスたちと一緒に治療院の連中が来る。アイツらに関わると、エアちゃんが持ってる薬草などを、根こそぎ『無償提供』と言って奪われるだけだから。ポンタの所で話を聞いたでしょ」
「『王都治療院』は特にひどい。彼処は、回復魔法を使える一般人がいれば、魔力が尽きるまで
「エアちゃんは回復魔法が使えるでしょ?だから、連中とは関わらないほうがいいわ」
二人の心遣いに感謝てす。そしてきっと、フィシスさんたちから同行者の存在を伝えられて、私を守ろうと考えてくれたのでしょう。
・・・そして、今も『行為』を受けている被害女性たちの姿を、私に『見せないため』でしょう。
「エリーさん。キッカさん。私はこのまま五階に進みますね」
広場の前で二人にそう声をかけると、「気をつけてね」「無理だけは、絶対にしないで下さい」と言われました。
「はい。ありがとうございます。では、行ってきます」
二人と別れて五階へ続く階段を降りて行きました。五階に着く直前に、「お前ら!何やってるんだ!」と怒鳴る声が聞こえました。
気にはなったけど、エリーさんたちは私に『見せたくない』と遠ざけたのです。だから、
15階まで、魔法で無理なく降りて来ることが出来ました。広場も確認して、人が居ないことを確認し、宝箱の中も回収して行きました。
事前に聞いていた通り、10階を過ぎると、広場に転移石がありました。ただし、すべての階ではありません。11階以降は、15階まで転移石はありませんでした。
今の時刻は11時を少し回った所です。休憩しようかと思ったけど、広場の床はビッシリと苔が生えており、休憩するには不向きです。
・・・他の冒険者には。
苔をすべて回収して、広場の中の湿気を風魔法で広場の外へと吹き飛ばしました。これで、これから来る人たちは安心して休憩出来るでしょう。
それにしても・・・苔が広場の床だけでなく、壁や天井に隙間なくビッシリと生えているのは異常ではないでしょうか?
「こりゃ何だ?」
『エリーさん。15階広場の四隅に『水属性の魔石』が埋められています。そして16階及び20階の広場で4階と同じことが起きています』
エリーさんにメールを送って、私は結界を張り休憩の準備に入りました。広場内に
『エアちゃん。何があったの?・・・それとも『これから』?』
さすがエリーさん。ですが『現在進行形』ですね。
『いま私がいるのは15階の広場です。広場の天井や壁、床にビッシリと苔が生えていました。それはすべて片付けて、空気の入れ替えや乾燥をさせています。状態から怪しいと思い調べてみたら、四隅の地面に水属性の魔石が埋められていました。あまりにもおかしいので、下の階を探知したところ・・・。ちなみに15階の転移石ですが『不可視』の魔法が掛けられています。16階と20階に囚われている人たちは、此処に転移石がないと思って、下へ向かったのではないでしょうか?』
『エアちゃん。悪いけど、私たちが動くから手を出さないで』
『はい。魔石は
『それは『証拠』になるわ。・・・
私の身元なら、王城の連中が知ってるでしょうねぇ。
不審者扱いでお城に呼ばれたら、城を半壊させて『手を出したらただで済まない』と脅してやりましょう。
彼らはすでに『聖女のひとりを死に追いやった』のですから。
・・・そういえば『聖女召喚』を公表していませんね。
ひとりを死なせ、もうひとりを城から追い出したのですから、何も言えませんよね〜。
でもアホンターレは『死ねない罰』になるハズ。第二王子なんだから、非公表では出来ないでしょう。確か国王は『聖女を死なせた』との理由から引きこもりをしていると言ってましたね。宰相たちも『甘い考え』をお持ちのようですし。
では国王にも、近々罰を受けてもらいましょう。
『エアちゃん。今は何処?』
今度はフィシスさんからメールが届きました。エリーさんと一緒ではないのでしょうか?
『15階の広場で休憩しようと思って準備をしている所です』
『ごめんね。すぐに移動してもらえる?エリーがエアちゃんの気付いた魔石の話をしたら、審神者がエアちゃんに会って話したいと言い出して、エリーとキッカたちを連れて下に降りたわ。今なら追いつけると思っているみたいなの。私たちも少し遅れて動くことになってる』
・・・仕方がないですね。お好み焼きを二つ折りにして、食べながら移動しましょう。
前日のユーシスくん作のサンドウィッチは、味わって食べたいですし。
『分かりました。休憩は21階より下の広場でします。今日明日は報告をしない方がいいですか?それと、フィシスさんたちも今日は泊まりですよね?私は早めにテントを張りますから、夕ご飯をあとで送っておきます。何人分、用意したらいいですか?』
フィシスさんにメールを送って、結界石を回収しました。ちなみに此処の宝箱には『無属性の魔石』が五つ入っていました。そのひとつは『乾燥』の魔石です。広場の乾燥はこれを使ったことにしましょう。
魔法の
二つ折りにしたお好み焼きを片手に、16階へ向かいました。エリーさんたちは15階の広場を調べるでしょう。そんなに慌てる必要はないと思いますが、何事も用心は大事です。この世界にはアルミホイルもラップもビニール袋も存在するので、お好み焼きはホイルに
そのまま、雷属性で魔物を感電死させていきます。緊張感ないですね。特に此処の16階には、女性に乱暴を働いている集団がいるのに。
ちなみに、広場入り口に張ってある『魔物避け』には不可視の魔法が掛かっているため、外の様子は分かりません。もちろん、中の様子も分かりません。ただ、音や声は聞こえます。・・・中の悲鳴も。
私の魔法は
此処の広場は道の途中の壁際にあります。大きめの岩がちょうど目隠しになりそうだったので、その岩に沿って道を作って通り過ぎました。
いくら『外の様子が見えない』とはいえ、連中が『新たな
道は元に戻してあります。四階までは「エリーさんたちのために使った」のであって、それ以降は『私はエリーさんに報告したけど、来ることは知らない』ためです。私はエリーさんに『水の魔石が埋められていて、広場の中が苔で覆われていた』という報告と、いま送った『16階の広場から悲鳴が聞こえました』です。後ほど『20階でも悲鳴を聞いた』と連絡する予定です。
審神者は人型『ウソ発見器』でしょう。でしたら、もし問われても「エリーさんはフレンド」であり、「何か気付いたら即連絡」と約束していることを伝えればいいでしょう。ウソではありませんから。それに、今までも連絡をしてきたため、エリーさんが駆けつけてくれたのは事実です。・・・それでもしつこく言ってくるのなら、私は『伝家の宝刀』を抜きましょう。
「私の存在は国王が知っている。もし私に指一本でも触れたり、掠り傷でもつけた時点で、お城が吹き飛ぶ。・・・『国王が聖女を殺した』ことを国内外にバラされてもいいなら構わんが?ついでだから、『二度と聖女が召喚出来なくなった』事実もバラしてやろう。これはすべて『穏やかに過ごしたい』という私を追い詰めた『
そう言って、審神者を追い詰めてやる。もちろん、それは『最終手段』だ。何の権限で、他人の『隠したいこと』まで聞き出そうというのか。
これは『事実』だ。それは審神者なら分かるだろう。・・・そして私が『本気だ』ということも。
さて、それを知って審神者は国王・・・いや、今は引きこもりか。ソレの代わりをしているという『まだマトモな王太子』に伝えたらどう出る?
私の言葉を聞けば、宰相連中みたいに『お花畑の脳みそ』でも、私が許すなんて甘い考えはなくなるだろう。
・・・ただ、エリーさんたちにもバレてしまう。
きっと大丈夫。たとえ知っても、変わらないでいてくれる。
それでも、『最悪な状態』で私の存在が暴露された場合・・・私はエリーさんたちのフレンド登録を削除して、王都から、この国から出て行くつもりだ。
フレンドのままでは迷惑をかけるからだ。だったら『他国』に逃げ込めばいい。『
本当は、今のまま『冒険者のエア』として自由にさせてほしい。アントやコカトリス、イノシシから王都の危機を救った『報奨』が貰えるのなら、『私に自由を』。
他には何もいらないから、放っておいて。
19階まで来ると、再び悲鳴が聞こえました。助けを求める女性たちの声と、そんな女性を嘲笑する男たちの声です。
エリーさんに『助けを求める女性たちの悲鳴と、男たちの笑う声が19階からも聞こえます。ですが、19階の広場には誰もいませんでした』と送りました。
魔物を倒して『収納』で採取と回収、広場の宝箱の中身の回収をしてから20階に降りると、やはり声は広場から聞こえました。広場の結界は『魔物避け』なだけで、声は筒抜けなのです。
・・・それくらい知っていると思いますが。
エリーさんには『声は20階の広場からでした』と送りました。広場の入り口に『
降りるときに、広場に掛けた魔法を解除しました。途端に男たちの嘲笑う声が聞こえて、思わずエリーさんの言うことを忘れて乗り込みそうになりました。
偶然でしょうか。エリーさんから『エアちゃん。辛いと思うけど、絶対手を出さないで』とメールが来ました。やはり魔物を倒したあとを来ているので、エリーさんたちは早く到着するようです。
21階に来たら水鳥が現れました。天井が高いため、普通に飛んで移動して来たのでしょうか?それとも、『水の流れ』と一緒に来たのでしょうか?此処には滝と小川があり、木々も育ってて完全に『水辺』でした。水が流れているということは、地下水か外から川が流れ込んでいるのかも知れません。
此処でも、魔物は一瞬で感電死させました。この方法では心臓が一瞬で止まるため、他の部位に問題は出ませんが、心臓や内臓は食用に向かないようで回収されません。
採取をしていると、鳥の巣もあったのでしょう。たまごも収納されています。
食用だよね?と思い、アイテム名の『水鳥のたまご』をタッチすると、鑑定のアミュレットが『アヒルのたまご。食用。コッコより黄身が濃厚』と教えてくれました。アヒル以外にガチョウのたまごとウズラのたまごもありました。
アヒルもガチョウもウズラも、魔物ではありません。家畜だったのが川から流れてきたようです。
エリーさんが私に『鑑定のアミュレット』を持たせた理由がよく分かりました。でも『コカトリスのたまご』の一件がなければ、何でも『食べられる』と思い込んで調べようとしなかったでしょうね。
川には魚がいたようで、切り身で収納されています。種類は鮭とブリに鯛にカツオとマグロに鱈。・・・この川は淡水ではなく海水なのでしょうか?
広場に入ると、ウッドテーブルセットやキャンプセットが放置されていました。鑑定のアミュレットで調べても、所有権が放棄されています。つまり『
宝箱を開けてみると、そこには見事な
「そりゃあ・・・こっちの方が相当価値があるよねぇ」
そう言いながら、すべてを収納ボックスに入れました。売れば高値で買い取りしてくれるでしょう。その上で、新しいキャンプセットなどを購入すればいい。
そんな欲から、捨てていったのでしょう。
ふと気になって宝箱を調べると、この宝箱はニセモノでした。国が用意した宝箱には、裏に見えないように隠された紋章がついています。この宝箱にはそれがありません。
エリーさんの話では、そんな宝箱を見つけたら、『持ち帰って渡してほしい』とのことでした。
収納を試みると、問題なく収納ボックスに入りました。国が置いている『正規の宝箱』はもちろん収納出来ません。此処のダンジョンでも同じですが、『まいかい あると思うな 宝箱』だそうです。この『まいかい』には、『毎回』と『毎階』の意味があるのでしょう。本来ないはずの場所に、こうやって『不正の宝箱』が置かれてしまうようです。
収納ボックスに入った
そのため、テントの中で結界を張ってから、解呪をしてみましょう。
・・・これは『王都治療院』の差し金でしょう。呪われれば、治療院へ行って解呪してもらわなければなりません。その時にお布施という名のぼったくりでもしているのでしょうね。
広場を出て、すぐに22階へと降りました。此処はまた、湿度の高い岩だらけのフロアに戻っていました。21階に戻って、ゆっくり休憩をしたくなりました。
王都を追われたら、21階で過ごすのも良いかもしれません。広場で冒険者の回復をしながら、時々魔物を倒して食材を確保して、『取引店』から必要なものは購入すればいいだけです。
・・・ちょっと前向きに『引きこもり計画』を考えてみてもいいでしょうか?
さすがに25階まで降りてくると、疲れてきました。現在時刻は、14時になろうとしています。
エリーさんからはメールはありません。そしてフィシスさんからは『報告はなしでいいわ。その代わり、シェリルの所で『報告会』をするからね。料理は、可能なら私たち五人分でいいわ。でも疲れているなら作らなくていいからね』とのことでした。
『報告会』は、私の冒険のことと『ボンクラ』たちのこと。そして『水の迷宮』で起きている様々なことでしょう。
此処で休憩を取りましょう。さすがの審神者でも、立て続けに被害者が出ていては、そんな人たちを放置して私を追いかけてくる事は出来ないでしょう。
これでやっと、ユーシスくんのランチが食べられます。
25階から30階の広場までは、一時間も掛からないで着きました。勝手に道を作っているので、最短距離で移動出来るのが大きいでしょう。
こんなに無茶をしたのは、少しでも審神者から離れたかったのが一番の理由ですね。
私に興味を持たなければ、こんなことしなくても良かったのに・・・
広場に結界を張って、途中で拾ったテントを確認。所有者を私にしてから中に入ると、様々な家具や調度品が残ったままになっていました。中には
部屋の中を鑑定すると、装備品などはすべて私名義に変わっていました。テントの所有権を放棄した時に、中のものもすべて所有権が放棄されてしまったのでしょう。
そして、私がテントの所有者となったため、テントの中にあるものの所有権も私に移ったのですね。
・・・・・・普通に考えれば、アイテムや装備品をこのテントに入れてしまえば良かったのではないでしょうか?
実際、私の収納ボックスの中身をテントに入れておくと、収納ボックスに空きが出来ます。洋服など、しまっていても問題ないものはすべてテントの中です。
このテントの持ち主だった人たちは、欲に負けて、そんな事すら分からなくなったのでしょうか。
部屋の様子を見てみると、複数の女性たちで使っていたのでしょう。ただ、この中にあるものはすべて新品になっています。所有者が変わると、新品になるのでしょうか?
テントから出て、収納ボックスに戻しました。暇な時に中を片付けて、『ゲストハウス』にでも使いましょう。
同じく放置されていたウッドテーブルセットを出してみましたが、最初に見た時と違い、やはり新品です。中古でも使用感がないのはいいですね。
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