6.ゴーレムを生んだ者

- まえがき -

ゴーレムの集落で雨をしのぐほとりとシリカ。


以前、この島に住んでいた蝶人によってゴーレムは生まれたと聞く。


そして、この雨は、森が起こしてるものではないかと、気づくシリカ。




#ゴーレムのもり


 ほとりとシリカは、ゴーレムについていくと、ゴーレムの集落に到着した。


 石を積んでくりぬいたような穴の中で、大なり小なりのゴーレムが雨をしのいでいた。じっとしているゴーレムたちは、岩なのか、ゴーレムなのかわからない。


 そのうちの一つにゴーレムが入った。他に誰もおらず、一体入っただけで、半分以上、場所が取られてしまう。


 二人は、雨が吹きかからないよう、奥に促された。


 石の天井は完璧ではなく、隙間を伝ってきた雨がポツポツと落ちてきていた。


 ほとりとシリカの雨でびしょ濡れになった服から、水が地面に抜け落ちていく。雨水とともに、土の中に染みこんでいった。


 まもなく服は乾いた。冷えた体の震えは、幾分おさまっていた。


「ヒガ、ホシイカ。キヲトリニイカセル」


 ほとりは、シリカと目を合わせて、首を左右に振った。シリカは、軽く頷いた。


「大丈夫だ」


 シリカが答えた。


 ゴーレムはそれ以上動くことはなかった。


 こんな雨の中に、乾いた木がどこにあるのだろうか。そして、どうやって火をつけるつもりだったのだろうか。


「どうして、大樹王を守ろうと」


 今度は、シリカが質問した。


「ナゼ、ソノ、シツモン」


「なぜって……。あんたたちが、自分の住む場所を広げるために、森を壊して、コルコポの精を追い出していたと思っていたから……」


「ダイジュオウノシジ。ワレワレヲ、マモルタメ」


「それって、どういうことですか?」


 ほとりが聞いた。


 ゴーレムたちは、大樹王のそばで静かに暮らしていた。大樹王と、前にここに住んでいた蝶人のおかげだと言う。


「ここに、蝶人がいたのか?」


 シリカが勢いよく聞き返した。


「オマエガクル、ズット、マエ」


 ゴーレムは、話を始めた。




#蝶人のリョーヤ


 もともとこの島には、ゴーレムはいなかった。


 突如、やってきたリョーヤという蝶人が、生命を宿す文字を土の塊に書いたことで、自分たちが生まれたと言った。


 ゴーレムは頭を下げ、額を見せた。そこに読めない文字が刻まれていた。


 リョーヤは、ずっと一人で、別の蝶人を連れてくることもなかった。海や川、森の中、山で絵を描いていることが多かった。その際は、ゴーレムを連れ、一緒に絵を描く場所を歩き回った。


 だが、しばらくしてリョーヤは何も言わずに、突然、この島からいなくなってしまった。海辺、森中を探したが、どこにもいなかった。


 もちろん、いなくなる理由は言っていかず、自分たちをこのままの姿にしたまま、どこかに消えてしまった。


 この話を聞いている時、ほとりはゴーレムの声に悲しさを感じた。


 ゴーレムたちは、どうして自分たちが生まれたのかはわからなかった。それは今もわからないまま、どう生きればいいかもわからない。ただ、大樹王のもと、静かに暮らすほかなかった。


 生命を宿されたが、生きる意味を知らされず、みずから見いだすこともなく、土塊に戻ってもいいと思っていた。


 川の氾濫で、激流に流されてしまった何体かのゴーレムは、土へと戻り、真似してそうするゴーレムもいた。


 しかし、大樹王に止められた。


 そして、川の氾濫を抑えるために、大樹王からここ一体を水害から守るよう指示を受けていることを話した。


「ムカシハ、モリモ、ゴーレムモ、シゼンイッタイダッタ」


「どうして大樹王が、そんな目に……」


 ほとりが聞いた。




#森の仕業


「ソレハ、ジュミョウ、ダカラ」


「もし、そうだとしても、わざわざそうする理由がわからない。若い樹木たちの方が、当然長く生きる」


 シリカが頭を巡らせて言う。


「ダイジュオウハ、トウセイガ、トレナイトイッタ。ワタシハ、ジャマ、ダト」


「大樹王が邪魔?」


 シリカは頭を傾けた。それはほとりも同じだった。


「まるで人間社会と同じようなことをするんですね、木も」


 ほとりが言った。


「そんなはずはないと思っていた。この雨を考えると、そうなのかもしれない」


 シリカは、地面の一点を見つめて、独り言のように言った。


「でも、この雨は偶然、長くこの辺りで降っているだけなんですよね」


 ゴーレムはわからないのか、何も答えなかった。動きを見せないと、ただの岩に声をかけているかのように思えた。


「樹木は、地中にある水分や自分に貯めておいた水分を葉から蒸発させることができる。


 蒸発するということは、水分を放出することだ。水分が空中でまとまれば、当然雲を作り、雨を降らせる。


 もし、樹木が、根を介して連携を取って、風を読んで、雲を生んでいるとすれば、この雨は」


「本当に大樹王を……」


「真意は、わからないけど、意図するなら、本当に。


 でも、このままじゃ、大樹王だけじゃなく、この一帯やここから下流は、土砂に流されて、森が削られてしまう」


 シリカは、つけていた仮面を外した。青ざめたような深刻な顔をしていた。


「これじゃぁ、自分で自分の首を絞めているのと同じだ。昔、住んでいたところと同じように……」


 シリカは、額を抑えて、過去の記憶を押さえ込もうとしているかのように、強く目をつぶった。

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