終わりのCOLOR

月🌙

第1話

 ――この世界には〝色〟が無い。


 昔はこの世界にも色があった。けれど、100年の世界大戦争の影響で、世界の色は失われてしまったのだ。

 預言者は言った「このまま行けば、世界は5年以内に滅びる。最後の時が来るまで愛しい者と過ごしなさい」と。

 色が無くなってしまった世界で暮らす人々――それは、人の心をもモノクロにして行った。

 色の無い世界に笑い声が無くなり、スラム街のようになってしまった街に〝僕〟は再び明るい希望を与えたかった。


 そして、僕は色んな知恵と知識を学び、書物を読み、色を取り戻す研究を今日この日まで、ずっとやっていた。


「ねぇ、ミリアム。あなた、何を作っているの?」

「これは色を取り戻す為の〝機械〟だよ」


 この赤毛の女の子の名前はエミリー。僕の幼馴染だ。

 エミリーは長い髪を耳に掛けながら、僕の手元を覗き込む。興味津々に見るその瞳は幼い女の子のようだった。


「ふーん。…!!これで世界の色を取り戻すの?」

「うん。今は、まだ調整中だけどもうすぐ完成だよ」

「楽しみね」


 カチャ、カチャ…と、調整する度小さく音を鳴らす。見た目はランタンに見えるが、これこそが世界に色を取り戻す為の大切な物になるのだ。


「うん。問題なさそうだ。後は、このクリスタルをランタンの中央にはめ込んで……よし、出来た!」

「これが世界を救うのね!」


 おめでとうと言いながら、自分のように喜んでくれるエミリー。


「でも、これだけじゃ駄目なんだ。これを使う為には君が必要なんだ」

「え、私が?」


 エミリーは困惑した様子でランタンを受け取ると、真っ直ぐな瞳で僕を見つめてきた。


「これは君の声に反応する。君は、この街の誰よりも沢山の感情がある。その感情を〝歌〟にするんだ。歌がこのクリスタルに色を与え、クリスタルから放出されるエネルギーがこの世界に色を取り戻す。僕に心の色を取り戻してくれたように、君がこの世界を救うんだ。大丈夫。君の側には必ず僕もいるから……」

「…………。わかった。私、やってみるわ」


 お互いに手を繋いで外へ出る。

 エミリーはランタンを両手に持ち深呼吸をすると、透明で柔らかい歌声を皆に聴かせた。

 エミリーが歌うと下を向いていた人々は顔を上げ、優しい歌声に耳を傾け始める。そして、ランタンの中に入っているクリスタルは淡い光を浴び始め、その光は虹色へと変化すると煙へと変わり、上部の穴から煙が放出された。

 やがて煙は空全体を覆い、エミリーが歌い終わると煙はスーッと消えた。

 その瞬間、人々は声を失う程驚いていた。モノクロだった街に色が戻っていたからだ。

 エミリーは花のような笑顔で僕に抱きついてきた。


「ミリアム、やったわ! 私達、やったのよ!」


 僕とエミリー、そして街の人々は歓喜し涙する。エミリーは僕から離れると手をぎゅっと握って来た。


「私達に使命が出来たわね」

「そうだね。他の街も救わないと」

「……もし、本当に最後の時が来ても、私達これからもずっと一緒よね? ミリアム」


 心配そうな目で僕を見つめるエミリーに、僕は優しく微笑みかける。


「うん。一緒だよ、エミリー」


 まだまだ世界はモノクロのままだ。だから、僕達は世界に色を取り戻す為の旅へ出かける。

 エミリーは歌を、僕は亡くなった父の形見であるアコースティックギターを持って……。

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