猫しか知らない犯罪

豆腐

プロローグ

あの日、何があったのか私には分からない。あの日、求められた理由も分からない。

よくあることではなかった。だが、人に甘えることが好きだった私が拒む理由もなかった。それだけのことだといえば、そうかもしれない。

 ただ、人が近づいてきたら、足に擦り寄って撫でてもらうのが性分なのである。あたたかいものは好きなはずなのに、外にいると色々なものが怖くなって、人にみんなが近づかないのも分かる。だが、大きな生き物の腕に抱かれて温かくなって、擦り寄って、しっぽを巻きつけて、これが私の生き方なのだと思っている。

 私は何かに巻き込まれたのか、関係していたのか、毎日のように来ていたあの人はもう来ない。これを寂しいというのか。犬のような嗅覚があれば人を追えるのかもしれない。しかし、私には起こったことを理解するための行動力がなかった。だから今日も、ただ人が通るのを待っているだけなのだ。

 なんだか最近、くしゃみの頻度が増してきたように感じる。流石に冬は寒い。今日もあの人は来ないのだろう。何があったのか真相を教えてくれる人は誰もいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る