エピローグ
第48話 偽りの神
景色が変わった。
一面真っ暗な世界。
その中に俺、ユパンキ、光の柱だったもの。
更に面接の時以来の志村氏が何故かいる。
光の柱は今は光をかなり失い、単なる金色で高さ3メートルもない円筒形になっているけれど。
そして俺の全身が動かない。
俺だけで無くユパンキも同じようだ。
「蓮沼さんはもう少しお待ち下さい。現在他の部分との分離を再確認しています」
志村氏はそう言いながら手持ちのタブレットのようなものを操作している。
「現状を簡単に説明させていただきます。ここは隔離サーバの世界、外に繋がる全ての回線を物理的に切断した状態です。
蓮沼さんが
なるほど、それで動けないまでも見たり聞いたり考えたり出来る訳か。
そう思ってふと気づく。
ここは外部との接続を全て物理的に断たれたサーバの世界だよな。
なら俺の本体が外の世界にいるなら今の状況は知覚出来ないはずだ。
接続が遮断されているのだから。
何故『俺』がこの辺を知覚出来ているのか。
答えはおそらくひとつしかない。
志村氏が頷く。
「その通りです。私も蓮沼さんも元々仮想世界の住人、プログラム的な存在です」
彼にはこっちの思考が読めているようだ。
「その通りです。現在このサーバで実行中のプログラムの全ては私の管理及び解析下にありますから。
さて、解析は全て完了しました。それでは問題のあるこの大物以外を動かすことにしましょう」
何も無い場所に床面が現れると同時に身体が動くようになった。
転びそうになるのを何とか立て直す。
ユパンキも俺と同じような事をしていた。
奴も何とか転ばずに済んだようだ。
「お前が偽りの神か」
ユパンキの台詞に志村氏は頷く。
「ええ、正確には偽りの神の一柱とでも言うべきでしょうけれどね。ついでですからちょっとだけお話をしていきませんか。もはや急ぐ用事も無いでしょうから」
「我は負けた訳か。偽りの神に」
「まあそうですね。そんな訳で嫌でも私の話を聞いて頂きますよ。ただ立ったままでは何ですからある程度の環境は準備させて頂きましょう」
その台詞とともに椅子とテーブルのセットが現れる。
「どうぞおかけ下さい」
俺達が腰掛けたのを確認した後、志村氏の話が始まる。
「この世界、いや『アウカルナ世界群』がどのような目的で作られたかは私は知りません。ただこの世界が数多くの世界を内包した世界群と呼ばれるような存在であること。そして実態はコンピュータ群の演算で構成された仮想世界群であること。それらの事を私達が認知したのは私の世界の時間で約100年程前になります。
私達の世界は神とか魔法と呼べる存在が全く存在していない科学偏重の世界でした。蓮沼さんが以前いらした世界がもっと合理的に進んだ先の世界と考えて頂ければいいかと思います。ユパンキ司教ことエフレムさんには想像しにくいかもしれないですけれどね。
それらを知ることが出来たのは私達の世界の科学技術がおそらくこの世界群を作った、この世界の外の世界の科学技術を超えたおかげでしょう。世界群の発見、仮想世界である事の証明は当時の私達の世界でもかなりの騒動を引き起こしたと伝え聞いています。
そんな訳で世界の探求、この世界及び世界群の調査研究が始まりました。その中で我々はいくつかの世界の危機に気づいたのです。発生を許してしまうとその世界ばかりか我々の世界を含んだ世界群全ての存続に重大な影響を与える事案。それらの発生が幾つか予測される、または既に始まる兆候が観測されている事を。
それらの事案は世界によって『大魔王』、『バイド』、『Keter』等と呼ばれ、どのようにすれば避ける事が可能か検討されました。その方法の一つがエフレムさんおっしゃるところの『偽りの神』としての世界の監視と誘導です。蓮沼さんには『運営』としての、と言い換えてもよろしいでしょうね。
そのような事案の一つがあの『プルンルナ』世界で発生するだろう、そんな予測がなされました。それで今回、このような結果になった訳です」
「ならこの
敵の男、本名はエフレムというらしい奴がそう叫ぶように言う。
「
エフレムさんには外部の世界からの召喚門と理解して頂いた方がいいでしょうか。ここと別の世界群等からこの世界群に予期せぬ存在を召喚する召喚門と。
この後修正パッチを作成して世界群を構成する隅々まで行き渡らせます。これで同様の事案は発生しなくなる予定です」
エフレムの表情に浮かんでいるのは絶望だろうか。
それとも別のものだろうか。
「では私が教えを受けたあの存在は?」
エフレムの問いに志村氏は首を横に振る。
「私達にもわかりません。この世界群の中の存在なのか、それこそが本当の外の世界の住民なのか。
世界群の中の存在なら自殺を願うようなものです。
外の世界にこの世界群を維持したくない方が存在するかは不明です。我々の技術をもってしても外の世界への意味を持ったアクセスは実現されていません。その辺が判明するにはきっと更に長い時間がかかるでしょう。おそらく私を含めたこの3人が確認するのは不可能かと思います」
「それらの存在は何を望んでそんな事をしようと企んだのだ」
再び志村氏は首を横に振る。
「私達にはわかりません。その相手の所在もその正体も目的も。
ただ私達はただ淡々とこの世界群を維持する行動を続けるだけです。私達が生き抜く為に」
周辺の世界が明るくなっていく。
視界が段々光に包まれて何も見えなくなっていく。
話はこれで終わりのようだ。
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