第46話 北征軍停滞地攻略
ロープに赤い結び目がついたところまで来た。
これで4番目。
つまりここが俺の待機位置という訳だ。
ロープの向こうは急激に低くなっていく谷。
霧が深くたゆたっていて奥が見えない。
ニルカカ開拓村だと今は乾季だが、ここは霧が出る季節なのだろうか。
気温もニルカカと比べて10度以上高くて湿度もほぼ100パーに近い。
不快指数は高そうだ。
だがロープの向こう側は不快なんて空気じゃなさそうだ。
汗が出てくるのは気温や湿度のせいじゃない。
深呼吸をして少し気を落ち着ける。
何も俺が先頭に立つ必要は無い。
俺と互角以上の魔法戦士が約80名いるのだ。
無理をしなくても何とかなる筈。
落ち着いて対処しよう。
右手下側の方から魔力を感じた。
浄化魔法が始まったようだ。
光が下から広がっていくのを感じる。
よし、まずはこれに合わせて。
『
『
ほぼ最強の浄化系呪文2発を放つ。
光圧と光の壁で霧で覆われた谷間が浄化されていく。
ドドドーン!
下で大きな音が鳴った。
戦闘開始の合図だ。
俺もゆっくり結界線を示す縄張りの向こう側へ。
浄化したにも関わらず何か冷気を感じる。
気温は高いのに何か冷たくてそれでいて重い空気を感じるのだ。
浄化しきれていない何かがいる。
ただいたとしてもさっきの多重浄化呪文で弱っているはずだ。
あくまで注意を怠らずゆっくり進む。
俺は功績点をあげる必要は無い。
ファナと平和に暮らせればそれでいいのだ。
熱帯雨林は案外下草が少ない。
獣道状になっている歩きやすい場所を選んでいく。
少し歩くとかつて人だったものが倒れていた。
ここで力尽きたようだ。
革鎧についた紋章は王国軍のもの。
だがその中身は既に肉部分が溶けかけて骨まで見えている。
見かけこそゾンビだが現状では魔獣化も魔物化もしていないようだ。
あるいは魔物化していたが先の呪文で浄化されて力尽きたのだろうか。
獣道を注意深く谷の中央方向へと辿っていく。
先程と同じような死体が増えてきた。
死体の位置や格好はバラバラだ。
どういう状況でこうなったのだろうか。
部隊が幕営している時に倒れたわけでも何かに襲われて戦って倒れたわけでもなさそうだ。
強いて言えばバラバラに逃げようとして倒れたという感じか。
案外その想像が当たっているのかもしれない。
俺達が街を落とした事で束縛が切れ、必死になってバラバラに逃げた。
だが何らかの呪文により魔物化し、それを自覚しないうちに先程の浄化呪文で倒された。
そう考えると何となく当たっているような気がする。
さて、そろそろ戦闘が始まってもおかしくない筈だが。
足を止めて気配を伺う。
俺の位置から見て右前方、谷の下側に動きがあるようだ。
だが派手な音だのは特にしない。
魔力が動いているのでわかる程度……
来たな。
動きと魔力で人ではないのがわかる。
『
浄化の効力もある雷撃呪文だ。
黒い煙を上げて敵は消滅する。
先程の魔法では浄化しきっていないようだ。
一度出現すると次々に飛来してくる。
ただ
明らかに魔の気を持っているので注意していれば見逃す事もない。
倒しつつ斜面をトラバースする感じで獣道を行く。
あちこちで同じような戦いが繰り広げられているようだ。
確かにこんな魔物相手では魔法が苦手な獣人では分が悪い。
でも今攻めているのは最低でも大魔法使いレベル。
周りが開けて来た。
どうやら谷部分まで来たようだ。
野営の跡らしい崩れた幕舎。
倒れて白骨化した死体。
あの結界線の縄を見た時から予想はしていたが、やはり北征軍は全滅のようだ。
既に俺以外の連中もここまで来ている。
辺りを探ったりときおり出てくる
でもまだ何かありそうな雰囲気だ。
重い空気がそれを告げている。
「どうやらこの魔法陣が魔の気の中心だな」
誰かの声が聞こえた。
右の方で何か発見したらしい。
「一気に浄化するぜ。
光の壁が右側に空高く広がったその時だった。
「ぎゃああっ!」
悲鳴が聞こえた。
何だ。考えるより前に身体が動く。
悲鳴を背に全力で逃げる。
光の壁が膨れ上がっていくのから何とか逃れる。
明らかに通常の
そもそも浄化呪文では人は倒せない筈だ。
魔物は倒れるし魔に染まった人間なら気絶位するだろうが。
何だ、何が起きているんだ。
逃げながら考える。
『
聞き覚えのある声が直接頭の中に響いた。
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