第34話 私塾開講?

 予想外の事になってしまった。

 せいぜい子供5~6人程度のつもりだったお勉強教室。

 それがどう数えても15人いる。

 当然この数だと子供だけではない。

 いい大人も5人程混じっている。


 いや、いくつになっても勉強しようという心がけは立派だ。

 でもちょっとばかり人数が多すぎやしないだろうか。

 とりあえず昨日かなり余裕をもって机と椅子を集めてきたのは正解だった。

 2人で使うつもりだった家庭用テーブルが4人掛けになったけれど。


「それにしてもホセさん、家業の方は大丈夫ですか」

 大人のうち1人はあのホセである。

 クマにやられて左腕が外れかけていたあのごつい漢だ。

「ああ、この年だしいつまでも狩りをやっている訳にもいかないからな。せめて文字を覚えて伝票位書けるようにならないとな」

 その心がけは認めてもいいと思う。

 だからかなりまわりと釣り合っていなくても断りはしない。


「それではこの中で文字が書ける人はいますか。いたら手をあげて下さい」

 ファナだけ。

 他は誰も手をあげない。

 これは教え甲斐がありそうだ。

 あ、2人程追加でおずおずと手をあげた。


「ファナさんに教えられて、少しだけなら」

「私も」

 ミラちゃんとルスちゃんだ。

 よりにもよって一番小さいのが一番進んでいる模様。

 まあ仕方ない。

 大人も子供もみんな揃ってお勉強だ!


「それじゃファナは教えるのの補助に回ってくれ。お前はもう文字は大丈夫だろ」

「わかりました」

「あとはこれから勉強する紙と字を書く鉛筆を配る。この使い方から始めるからよく覚えてくれ」

 小学校1年レベルの授業から開始だ。

 鉛筆の持ち方を教えて、文字を書いて、その文字を読む。

 その繰り返し。

「今日から10日で基本的な文字を覚える。結構厳しいぞ、いいな」

 そんな訳で年齢層がバラバラな私塾が始まってしまった。


 ◇◇◇


 文字を書いて覚えるのは単純作業。

 故にある程度時間が経ったら飽きる。

 そんな時間には皆の興味が持てる講義を間に挟むことにした。

 魔法の授業である。

「まず一番簡単な火おこしの魔法の要領だ。用意した細長い棒を出してくれ」

 この棒は俺がわざわざ細工をして作った棒だ。

 グチャグチャの木の皮を使って隙間をある程度残しつつ圧縮して作った非常に火が付きやすい棒。

 これを使って魔法の練習をする。


「火をつけるにはいろいろな考え方がある。今回教えるのはその中でも色々応用がきく方法だ。まず棒は机の上に置いて、両手を前に出して手のひらをくっつけてくれ。そして手のひらをこすりあわせる。そうすると少し暖かくなるだろ。

 それと同じでこすれるとものは温かくなる。もっとこすれると熱くなる。更にこすれるともっと熱くなって火がつく。そんなイメージだ。

 さて、今度は目の前から30センチくらい離して棒を持ってくれ。今回は棒は縦向きで下を持ってくれな。この棒の上側先端をよく見る。神経を集中してよく見る。見ると繊維がぎっしり重なっているような感じに見える。これが相互に振動してこすり有っているイメージを強く持つ」

 誰かの棒にあっさり火がついた。

 何だ、ファナか。


「ファナはもう出来るから他の人を見てくれな。さて、ファナがやったように今言った今言ったイメージを強く持つんだ。そして木の繊維がずれて振動しているイメージを強く持つ。振動している、振動している、だんだん熱を持つ……」 

 また別の処であっさり火がついた。

 今度は……おいおいホセかよ。

「大人は反則だぞ」

「でも俺、魔法なんて使った事無いっすよ」

 ホセの台詞にがぜん張り切るその他の皆さん。

 最年長の癖に調子に乗るホセ。

 おいおいホセ大人げないぞ!


「さて、最初の魔法の訓練はこのくらいにしておこうか」

 時間にしてたった10分程度。

 それでもファナとホセの他に3人程着火に成功したのは褒めてもいいだろう。

 勿論褒められるのは俺だ。

 この授業の為に無茶苦茶着火しやすい棒をわざわざ制作したのだからな。

 ただ出来たのは3人とも年長者。

 やっぱりこの辺は所持している魔力量の差なのだろうか。

 大人なら魔法を使えなくても魔力はそこそこある筈だしな。


「次はまた文字の勉強に戻るぞ」

 せめて本日中に母音の記号と発音だけは終わらせたい。

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