第621話
「…………」
やつれた顔で屍を抱き、何刻が過ぎたろうか。
辺りの死体から嫌な臭いがし始めるも。呆けたまま動かない。
「…………」
涙は出ないけれど、いざ本当に殺してしまうと虚無感が酷くて。知らず知らず温もりを求めてしまっているのかもしれない。
その腕の中のモノは、もう温かくなることはないけれど。
「――おい」
いつの間にか、神薙羅の背後に一人近づいていた。
「おい。聞こえてるだろう」
耳には入っても言葉の意味を理解しようとせず。体も動こうとせず。
「ん」
「は……リリンちゃん」
頭を影で持ち上げられて、ようやく反応した。
「迎えに来てくれたん?」
目はまだやつれたままでも、表情は少しばかり柔らかくなった。知ってる顔を見て安心したのかもしれない。
「まぁな。終わったのにいつまでも残っているから見に来たに過ぎんが」
「そらぁ。お手数お掛けしまして」
「構わん。我もソレに用があったからな」
「……?」
リリンの視線を辿ると、そこは腕の中。用があるというのはつまり。
「その死体をくれ。使いたい」
「…………」
腕に抱かれているのが神薙羅の娘と知っての言。それは神薙羅も承知している。
その上で無神経な発言をしていることも、当然わかっていて。
「そら叶わんねぇ。これでもうちの子やから」
「お前に侵されてほぼ人畜生になっているがな」
「ほんなら余計にいらんやろ? なんに使うか知らんけど、きちんと弔わせてや」
「いーや。ほしい。搾りカスだとしてもだ」
「……なして?」
リリンがなんの意図もなしでこんなことを言い出すとも思えない。理由があるのはわかる。でも、さすがに娘の体を渡すわけには――。
「
「……!?」
魄嚥桃とリリンの妹――リリアンが娘の因子を強く持っているのは事実。
そしてその言葉は揺らぐに足りていて。
「加えて、
「…………」
言ってることはわかる。しかしそんなことはどうでも良い。
娘の血肉が娘の因子を持つものに取り込まれる。それは見方を変えると生き続けるとも言えるのではと。思えてきてしまって。
切り捨てたはずの未練が、顔を出してしまって。
「わか……った……。持っていってええよ」
「あぁ、お前は帰って慰めてもらえ」
「誰に?」
「わかってるだろ?」
「ふふ……そやね……」
魄嚥桃の死体を渡し、煙を出して家に帰っていく。
「やれやれ。本当に感じとれんほど追い出したものだな。が、まだほんのり因子は感じ取れるか」
リリンも死体を吟味しつつ、
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