第617話

 才と言っても過去でも現在でもない。未来の彼。

 アノン曰く。才と神薙羅の繋がりを確実のモノとするためと、彼女へのサービスとのこと。

 しかしこれは名目で、実際は子供を作らせて新しいサンプルを手に入れたいというのが本音。

 だから未来の、過去に少しだけ干渉できるようになったアノンはそう動いた。

 彼も彼で……少しおふざけが過ぎたというか。

 彼女の城に忍び込み、影で縛り上げ、気を失うまで凌辱し、それを数日続けて落として。

 当然している時に面を奪って、口説き文句を囁き続けたからこそ落とすことができたのだけれど。

 そして、神薙羅という個体が孕むまで行為は続いて。

 子供ができた頃に彼は回収された。

 別れ際に彼女は再会の約束をしてもらって。子供と共に待つと決めたのだけれど。

 アノンは彼を回収後すぐにあのデートの日同様に彼女に接触して、記憶を封じ、子供を奪った。

 その子供は……少し触れるならば、今の才が生まれる少し後に政府でいじられて、その後政府はシステムによる干渉を受けてその子もそちら側についている……といったところ。

 その末路には近い将来まみえることにはなるだろう。

 さて、ここまでくれば何故あのとき、あそこまで狼狽したのも頷けると思う。

 と、ここまで知れば。


『――というわけだ』

「ん。おおきに。参考になったわ」

(話がほんまなら、このあと試せそうやし。えぇたいみんぐやわ)

 話を聞いて、得心する部分がちらほら。

 特に、才については今よりもずっと強い存在感があったし、女慣れしている感じもして違和感はあった。愛しい気持ちは同じように抱けたけれど。

 まぁ、それは置いとくとして、他に一つ気になったのは。

(魄が……ね……前のうちの娘が多く混じってるんか……)

 少し……やりづらくなった。

 けれど、ある意味で殺す理由も増えた。

(あそこまでいってもうてるなら……いや、言い訳はいらん。殺すべきとうちが思うから殺す。それだけや。腕を戻すため、より強くなるためにもあの子とは決着つけんと)

 身内を殺し、今までは温情で残してきた。

 でも。

(繋がらせた時、嫌な感じがした……。アレが白の、神のやったんやな。あそこまで深く混じりあって……)

 もし、ただ頭がおかしいだけならば関係も直せたかもしれない。身内殺しは許せないけれど、反省させられたかもしれない。でも、これから戦うであろう敵が混ざり、そのせいが省みることができなくなっているならば。

 もし、さらに影響を強く受けて自分達に牙を剥くならば。

 もし、愛しい人にまで毒牙を伸ばすならば。

(本来ならば、もっと早う殺すべきやった……でも……)

 一番懐いて、一番子供として愛していたから。今まで手を出せなかった。

 それも、もう終わり。

(我が子と、また別れをせなあかんね)

 悲しい顔を一瞬浮かべ、すぐに冷たい目になる。

 情はある。今でも愛する気持ちは残ってる。

 けれど、システムに侵され過ぎた存在ならば、殺意が上回る。

 故に今が清算の時。他の汚物も含めて処理をして、次の戦いに備えなくてはいけない。


 時に、子殺しと身内同然の味方殺し。どちらが罪深いだろうか。

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