第615話

 まだ聞いてないだろう? 何故だ?


 それはね……っと、場所を作ろう。このままじゃここを見ている傍観者たちにとっては不便だろう?


 我は構わんがな。どちらの意味でも。


 そうだろうね。じゃ――。



「好きにさせてもらうよ」

「ふん」

 やっぱり。形を作っただけの疑似空間は嫌いか。私のテリトリーだから私に包まれているようで不快なのね。

「そら、早く教えろ」

「まったく……君は本当に私の予想を超えて先へ進んでいくね。ありがたいことに。では、彼女が何故彼をもっと昔に知っていたかを話そう――」



「なるほどな……」

「なにが?」

 そこはすでにアノンの世界ではなく、元の場所に戻ってきている。

 そして、リリンはアノンから聞いた話を自分なりに整理し始めた。

(コロナがこいつに懐くのは娘としての因子が強く働いて、ロゥテシアもそう。そして、この我も。花菜という存在が強く影響しているが故にこいつとの触れ合いを喜んでいたんだな。マナの相性が良いのもアノンの影響というのは気に入らんな)

 不快な世界にいたからか未だ機嫌が悪く、眉と口を歪めつつも思考を続ける。

(ヤツは触れなかったが……いや、もしかすると触れる前に我が割り込んだのかもしれんが……フム。まぁ気にせんでいいだろう。コロナはアイツらの力の影響が出たからと言っていた。じゃあ娘の因子を強く持つロゥテシアは何を持っている? なにがどう強くてあいつの元へ来ることができた? いやなに。娘が母に教わるように煙魔――いや、カナラに師事していたが故に強い因子を持つことはわかるんだがな。膂力もあるし。で、ヤツの毛並みで気づいたことがある)

 そう。それは。

(アイツは紫色の毛並みをしていた。人型のときも髪は紫がかっている。つまり、情報にまつわる黒や白と並ぶ紫の力を持っているのでは?)

 と、仮説を立てると。

(ロゥテシアは一瞬自分自身を作り上げる。あれは空間を歪ませて矛盾を成立させているだけと思っていた。が、それは紫で誤認されているとすれば……。そして、紫の力で自らを一時的に自分を複製した……とかならば矛盾を成立させるより余程筋が通る)

 事実そう。ロゥテシアの本来の力はそれであっている。

 他にも色々と考えられる余地はあるが、一番の疑問はロゥテシアの力だったのでこれで良いとして。全体を軽くまとめると。

(アノンとシステムの干渉合戦。そしてのこちらの物理世界での領土の奪い合い。そのための個体へい集め。それに我らも入っているのは癪だし、我がこいつを気に入ってるのもアノンの所為というのはもっと癪ではあるが)

 例えそれが植え付けられたものであっても。偽りと呼ばれるものであっても。誰かの意志、意図、目的であったとしても。

「おい」

「ん?」

「……んむ」

「んっ」

 才の顔を寄せ、唇を重ねる。アノンの話を聞いたからか、ついそうしてみたくなってしまったよう。

「なんだよ。こんな露骨なの……」

「いやなに。原因がわかると素直にしたくなるモノだとわかってな」

「はぁ?」

 リリンにとって、真偽なんてどうでも良い。

 ただ、いつも才に気を遣って自分を抑えなくちゃいけないことに疑問を抱いていた。

 でもそれが花菜という女性の思いで。我慢するのは花菜の思いで。

 でも、なら何故主導権を握りたがったのだろうか。それはきっと。

(我のしたいことだからだろうよ)

 したいという気持ちが誰のモノかは知らない。されるのが心地よいのも確か。

 それでも、リリンにとって自らするのはリリンという個体が故の個性と結論付ける。

(本物の子作りは落ち着いてからすれば良いとして。他のことはもう少ししたいようにしてやるかな)

 体を重ねるのは神薙羅の手前控えてやるとして。ほぼ自分ではあって、自分に気を遣うのも不思議な気持ちだけども。

(他に気を回してやるか。まずはそうだな……あいつに少しだけ話しておいてやるか)

 そしてリリンは神薙羅へと意識を繋げる。

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