第612話

 お腹に押し付けられた触手は少しずつ進んでいく。

 服を貫き。皮膚を貫き。肉を貫き。やがて子宮にたどり着いて中のモノに触れる。

「……!」

 そして、我が子に触れた途端。体の芯に触れた途端。ようやく彼女は目覚める。

「ぁぁぁあ……っ。あぁぁぁあっ!」

「――――」

 既に手首の肉は先の白炎でほとんど焼かれてしまっているけれど、残っていた肉と神経で掌を握り込む。

 すると今度はの触れていた触手は《彼女の体から湧いて来た黒い影のようなモノ》に握り切られる。

 直接。それも肉体の芯に触れたことによる干渉を逆手に取ってコツを奪ったんだ。だから彼女は少しだけ、このタイミングで。このタイミングだからこそに近づくことができた。

 いや、ようやくは正しくないかな。本来数千年必要なはずと考えれば大分早起きか。

 でも。それでも。もう数分早ければ、もう少しだけ違った結末かもしれなかったね。

「――――」

 今の行動で危険と判断されたんだろうね。は自分と彼女を中心として数メートルほどに全ての力を集約し、爆縮させることにした。

 力は内にある点に集まるから、星に対するダメージはこれによってはないんだけれど。

 多少至った程度の彼女に耐えきれるわけもなく。

「ぁ…………」


 彼女たちの肉体の原型は、なくなっちゃった。



(ごめ……んね……守りきれなくて……)

 けれど、彼女はまだ生きている。

 いやこれ、生きてるって言って良いかわからないな。

 彼女の肉体でまともに残ったのは目と脳みそと子宮くらい。

 その子宮は先に燃やされていて七割ほどは無くなっている。

 そして、残りの三割は。

(ぁ……ぁぁ……)

 彼女の子に被さってるの。

 その胎児には鎖骨から上。額から下しか残っておらず。辛うじて心臓の上の一部が残り眼球も片方は蒸発してるけどもう片方はなんとか。あと脳も八割残ってるね。

 あ、そうそう。目が残ってるの。ここが重要なの。

(あえた……ね……)

 彼女にも目が残ってて。お腹の子にも目が残ってて。

(ほんまはちゃあんと産んであげたかったわぁ~……)

 けれどそれは叶わない。永遠に叶わない。叶わせてあげることもできたけど。そんなの私に得がないしね。ただ生き返すなんて。

(うちは駄目な母親やね……。駄目な女でもあって……)

 そうね。妊娠が遅れて彼が逝ってから懐妊するくらいだし。子供も守れなかったし。結果だけ見れば最低かも。

 まぁでも数千年の先取りをしてくれたからね。これから役に立ってももらうし。

 ちょっとはサービスしてあげようかなとも思うわけ。

(でも、少しでも……)

 そもそも私がほしいのはだし。

(会えて……よか……ったぁ……)

 さて。生き絶えたところで彼女の昔話。その一つはこれで終わりかな。

 では、終わったところでなにが始まるか。それが気になるよね?

 さぁ、続きを話そう。

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