第578話
「で? 例のあの人ってことで良いんだよね?」
「……まぁ、うん」
十分布団にくるまって体温を取り戻したので会話の続き。
といってもまだ肩にかけてるけどね。冷えは完全にはおさまらず。
「どういう経緯でそうなったの?」
「そりゃあ……なんつーか……」
言葉は濁りつつも彼女が会いに来たところから簡潔に説明。
最初は驚いていたけれど徐々になんとも言えない表情になりつつ。
「なんていうか……すごい人ね」
「そうだな」
「もう結婚前提のお付き合いしかなくない?」
「それは……どうなんだろ……」
少なくとも将来は安泰。完全な逆玉。けれど素直には喜べるわけもない。
だって彼は至って普通なんだもの。性欲とか勢力含めてね。今の彼の場合同年代の平均よりちょっとあるくらい。
彼女と出会う幸運に巡りあっただけの子供。
そこまで彼が悟ってるわけでもないけど。少なくとも自己評価は高くない。
だからこう思う。
「あの人が自分の魅力に気づいたら俺なんかすぐに捨てて他のイケメンとか金持ちに乗り換えるんじゃって」
「……なくはないと思うけど、金持ちはないんじゃない? お金は十分あるんでしょ?」
「まぁ……」
「それに、すんごい……も、求められたんでしょ? 今度は向こうから」
「お、おう」
二人して顔を赤くしてるけど。良い雰囲気ってわけじゃないのがなんとも。他の人に見られたら誤解されそうだなぁ。
「と、とにかく。好かれる努力しようよ。これから長い付き合いになるかもなんだし。兄さんはその人と仲良くしたいんでしょ?」
「そりゃ……ドストライクだし。特別な人だし」
「特別って……そりゃあ初めての人だもんねー。レ○プ魔クソ野郎」
「お前……」
「きゃ! 見ないで! 孕んじゃう!」
「もう帰れよお前。てかそんなこと言うなら初めからくんじゃねぇ。ほら出てけ」
「いや! やめて! 近づかないで! いや、ほんとにやめて! 窓開けないで寒いから!」
「こっちだって寒いわ! 早よ帰れ!」
「こ、これがどうなっても――」
「……っ」
「あ、こら!」
「こっちの台詞だコソドロムッツリスケベ!」
人質も無事解放……というか手から弾いて部屋に転がったところで。結嶺ちゃんも追い出すことに成功。
「ひぃ! ひぃ! さぶぶぶぶぶ!」
「はぁ~……さびぃ……っ!」
お互い窓を締め切り、布団にくるまって暖を取る。
ほぼほぼ同じ絵面で仲の良さがわかるねぇ。微笑まし。
「ったく……ん?」
カーテンも閉めてるとスマホが点滅。開いてみると。
『私もいつでも相談にのるから』
「…………なんなんだよあいつは」
他意はないよ。ただ、仲良くなれば話してて面白い兄貴分に良い人ができて舞い上がってるだけ。
「幸せになってね~……ふぐぐぐぐぅ!」
良い独り言呟くのは良いけど、そんな力強く鼻かみながらだとなんともなぁ。
いやでもなんか。そういうとこ彼と似てるね。さすがは妹分。
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