第576話
「とりあえず。少なくとも今日のところは対策しようがないので、後日相談ということで返事は適当に」
「適当て……」
「それよりも」
「それよりもて……」
「どんなお名前を?」
「へ? あ、それなぁ~♪」
あからさまな話題逸らしにまんまと引っ掛かる百戦錬磨の傑物というか怪物。良いのだろうかそれで。
「ふんふんふふ~ん♪」
良いんでしょうね鼻息荒くしながらノリノリだもの。
「まずな? 女の子の名前考えててん」
「そうですかぁ~。もし女の子が生まれるなら大女様に似てなんでもできる子に育つんですかね~」
「……うちに似てほしくはないね。ブス言われていじめられたないやんか」
「いじめっ子はオタクなんて比べ物にならないくらいの犯罪者予備軍なのでスパッとかっさばけば良いんですよ」
「物騒やね」
「貴女の過ごした時代ほどでは」
「まぁそやけども」
「さぁほら。そんなどーでも良いことに引っ掛からず。どんな名前を考えたんですか?」
「あ、えっとな? まずこれ」
仮命名『鈴凛』
「これは……なんて読むんでしょう?
「ううん。
「……ん? なんて?」
「りりん♪」
「なんでそんなちょっとキラキラネーム気味の……」
キラキラっぽく感じるのは語感とあれだろうね。リリスの子供という意味のリリンがうっすら知識としてあるからかもね。
リリスってのはあれね。女の悪霊とか夜とかアダムの最初の妻だったりとか色々言われてる結構ヤベェやつだね。うん。ある意味ピッタリだよ。
「ぐろーばる社会やから」
「見目の良し悪しの前に名前でいじめられますよ。というかそもそも日本語が現在世界でもっとも異質な言語とも言われてるのに。世界を意識するなら日本語っぽいのが一番個性的ですよ」
「ほ、ほうかな? 結構良い名前やと思うんやけど……」
「どんな意味を込めたんですか?」
「凛っとしたかっこええ子になってほしくてやね」
「じゃあ凛で良いじゃないですか……捻らないでくださいよ……。他はどうですか? ちょっと心配になってきましたが」
「えっと……これとか?」
仮命名その二『陽環』
「今度はなんですか?
そう思った理由は皆既日食のときなんかで見えるわっかがあるからなんだけれど。さぁ答えはどうかな?
「ううん。
「あ、普通なんですね」
残念だったね。
「うん。太陽みたいに明るく。環は和。和やかに柔らかくゆー意味込めてん」
「でもやっぱり捻りは入れるんですね……。他には?」
「じゃあ……これ」
仮命名その三『紫亜』
「これはさすがにわかります。
「うん。正解」
「意味は?」
「これはあんま捻っとらんよ? 紫って大人っぽい印象あるやんか? せやから落ち着きがあって、お世話好きな子になってくれたらなーって」
「な、なんか最初だけおかしいのは気のせいですかね。後半二つまともなのに。心配して損した気分です」
「どういう意味や」
「心配は長女だけで良かったです」
「……三姉妹産んで名前これにしろゆーフリ?」
「違います。長女は救ってやってください。長女だけは」
「そもそも姉妹ちゃうねんこの名前」
そうね。因果はあろうとも姉妹にはならない名前たちよ。
姉妹以外には……なったけどね。ふふ。
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