第553話
冷や汗を垂らしながら学食へ向かい、男二人は隣同士、女子一人と向かい合って席につく。
「え、あれって……」
「だよね?」
「男子と一緒なんてめずらし」
たったそれだけでざわつくのだけれど、夕美斗ちゃんは学年ではある意味で一番有名。同時に他の学年にも顔が利くから無理もないね。
というのも彼女、剣道柔道は有段。百メートルを十三秒台。高跳びは百七十。球技も全般いけちゃうっていうフィジカルお化け。
ついでに親戚付き合いが濃いので有段レベルのじいさんばあさんの囲碁や将棋など相手もしてるのでなまじ高校レベルじゃ相手にならない。彼女ともごくたまに打ってるしね。
で、そんなポテンシャル持ってるものだからよく他のクラブの助っ人を頼まれるので先輩方にも当然顔覚えられちゃうわけ。
にも関わらず弓道部で大会に出るつもりは毛頭ない。
というか唯一大会に出られるほど上手くないのが弓道で、他のクラブに助っ人行ってたら練習時間もそのぶん減る。なので中々上手くならないという悪循環。
でもそれはそれで楽しんでるみたいだけどね。そんな半端な人生も良いだろうって。
困りごとがあるとすれば勧誘が酷いことだけれど、しつこいようなら二度と助っ人をやらないと言えば他のクラブも黙っていられるわけもない。その一言で勧誘はピタリと止みましたとさ。
さて、前置きはこのくらいで良いかな。彼女にとっての本題は
「それじゃ、いただきます」
「「い、いただきます」」
男二人がどもったのは……まぁ、ちょっとね。驚いてるだけ。
なにせ相対する
「えっと……普段からこんなに食べてんの?」
「あむ、むぐむぐ……まぁ、うん。そうだね。よく動くからこのくらい食べないとカロリー足りなくて」
「
(思春期女子を逆張りしたようなやつだな……)
ダイエットと称して食事をとらない子もいるからねぇ。余計太りやすくなるだけなのに。何事も半端な知識でやるもんじゃないね。
ちなみに才くんはお弁当を持参+マイクくんに買わせたフルーツヨーグルト。そのマイクくんはタマゴサンドとコーラ。……本当にお金ないんだね。体格良いからお腹減るだろうに。運動後だし。
「むしろ二人はそれで足りるの?」
パクパクズルズル食べながら男子サイドへ心配の眼差し。特にマイクくんにね。
「ん~……実は金欠でこれ以上はね。
「……そっか。じゃあ、これ。少しでも足しに。タマゴサンドに挟んだらほら。親子サンド……とか?」
「――――」
そう言って夕美斗ちゃんがつまんだのは切り分けられた照り焼きチキン一切れ。
そしてそれをまじまじと見つめるマイクくん。
だって、よく考えてみれば。
(女子が女子の使用済みチョップスティックでテカテカのチキンをこっちに……っ)
ってことだもんねぇ。
というか君、その考え方はなんか日本人っぽいよ。被れ過ぎ。
「……良かったなマイク。タンパク質だぞタンパク質」
「……ハッ!? あ、あぁ、そうだな。じゃ、じゃあ遠慮なく」
「うん。どうぞ」
タマゴサンドを開いて差し出し、そこへチキンが置かれる。
「あ……。あむ」
「Oh……」
置く際に箸がタマゴについてしまって、手を戻すと同時に箸を口へ。
(あ、ちょっと行儀悪いかも)
若干ねぶり箸っぽくはあるからね。だもんで少しだけ照れ笑い。
「………………あむ」
そして諸々の仕草を眼にしたマイクくんはタマゴサンドを口にして――。
「どう?」
「Really good……」
感無量。
美人の唾液と笑顔で感無量。
賢者タイムはとっくに終わってるのに再び訪れそうな勢い。
「そっか。なら、良かった」
「ありがとう……。本当に、ありがとう……」
トドメの
いや~。いいね~。青春だねぇ。この二人は本来彼なくして知り合う可能性皆無だったし。運命と言っても良いくらいだねぇ。
んで、そんな二人のやりとりを見せられている彼はというと。
(このまま有耶無耶になんないかなぁ~……)
まぁ、そうね。彼はそういう奴だね。
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