第544話
「はら? こんな時間に来たんね」
「時間があったので……」
「ふふ。そっか。どうぞ」
訪れたのは昼前。両親と幼馴染みと別れて各々勝手に散策することになって、彼は真っ先にここに足を向けた。
そわそわして、熱が一部に集まって、期待が分かりやすく出てるねぇ~。彼女も当然気づいてるよ。
この彼女の観察眼は今よりもあるからね。
でも、時間的に彼女はすぐに手を出すつもりはない。ムラムラはし始めてるけどね。数千年分の性欲が出てきてるわけだからさ。
でも耐える。理性もまた常人とは桁違いなのであーる。
「こんな時間やし。まずはなにか食べる? 少し早いけど」
「え、えっと……はい」
彼女に逆らえるはずもなく。少しだけ肩透かし。
でも、彼女の声から歓迎されてるようだし。今日もあわよくば……ってな感じでまだ希望はある。
っていうか、彼女もお昼食べたあとに彼を食べるつもりだしね。お互いに求めあって良い関係を作りつつあるよ。
「さ、て。なにか食べたいもんはある?」
「え、えっとー……なんでも。はい」
「そう? ほんなら適当に持ってこさせるね」
部屋に招かれて、お猪口で日本酒を飲む彼女に尋ねられるも、特になにもないとのことで彼女も適当にスマホで連絡をいれる。
「……あの」
「ん? なに?」
その様子を見て、色々と聞いてみることにする。
元々避妊なしでの行為について聞くつもりだったしね。ある意味ちょーど良い。
「その……お姉さんってお金持ち……なんすか?」
「おねえさ……ごほん。そないな年でもないけど」
「え、まさか年下……?」
「ぎゃーく。思とる倍以上は上と思ってええよ」
「え」
(ってなると三十代……。嘘だろ? 全然見えない……。物腰は大人っぽいけど、見た目十代でも通じるぞ……)
(ま、四十でも大分さば読んどるけどね)
うん。わかったと思うけど、彼らには差異があるね。年齢に関して。
彼女は彼のこと二十歳以上と思ってるし、彼は彼女のこと三十路と思ってる。
彼の勘違いは良いとして、彼女のはちょっとあれね。
「ほいでお金持ちって、なんでそう思ったん?」
「いや、良い部屋にいるし。あと、なんか深夜に風呂貸しきってたり……」
「あ~。まぁ、そうね。なるほど。うん。そうよ。お金持ちやよ。……う~ん。誤解させへんように言っといたほうがええか。簡単に言うとこの旅館を経営しとる人――」
(え、じゃあオーナー? でも三十とかなら任されたりもあり得るのか。たしかこの旅館の経営って父さんのとこの親会社の財閥だかだから……。そかのお家のお嬢さんってこと――)
「より偉いと思ってええよ。一応いっちゃん上かな」
(どころじゃなかった!)
間違っちゃいないけど彼を萎縮させることになっちゃったね。さて、そんな事実を知った彼は本気であれについて聞かなきゃいけないよね。
「あ、あ、あ、あのっ。そ、そんな大事な人なのにその……」
「ん?」
「よ、良かったんですか? お、俺昨日も一昨日もその……つけてなかったっていうか……」
「つけてない? なにが? なにを?」
「え、えっと…………………………ゴム」
「……?」
ゴム。と聞いてまず彼女は頭を見る。髪をまとめるほうのゴムかと思ってるんだけど。上じゃなくて下なんだよねぇ。
「その……避妊しなくて良かったのかなって……」
「…………………………あぁ!」
ようやくなにが聞きたいのか気づく。でも、今度は別の意味で首を傾げることに。
というのも。
「ふぅむ。
「え、そりゃあ……」
片や行為がそもそも子作りのためだし、使わないのが普通で。
片や子供ができたら責任なんて取れない未成年。
いや~見事にすれ違ってるねぇ。問題ないけど。
(この人……絶対箱入りだ……。だからこんな危機感がないんだ……)
と、思った彼はまたまた頭を下げて。
「も、もし子供ができちゃったら出来る限りのことしますから! お、俺、まだそんな大したことできないけど……」
「ぅえ!? ま、まぁしてればいずれできるやろし。できたら嬉しいと思うけど……。諦めとったし……」
「……っ。本当にすみません! 最初から取り返しのつかないことしでかしたのはわかってるんですけど……俺……俺……っ!」
顔を真っ青にしながら頭を下げる彼。どうしたら良いかわからないんだね。子供だし。
で、彼女は彼女でそんな彼の様子にオロオロ。
「き、気にせんでええってば。もしできたらうちだけで育てれるし。あ~ほら! ご飯来るまでにお酒でもど?」
「い、いえ俺お酒は……」
「あ、苦手やったりする?」
「あーいや。俺、まだ未成年なので……」
「
「は、はい。今年で十六……あ、いや十七です」
「…………」
彼女の生きてきた時代では十二にもなれば、いやもっと幼い時に嫁いで初体験をすることもあったことは知ってる。
が、同時に今の時代が十八ないし二十歳以下は子供ということも知っている。
ので。彼に向き直り三つ指をついて。
「スゥー……。本当に申し訳ございませんでした……」
あらまぁ。綺麗な土下座だこと。
そして二人はお互い頭を下げ合い。食事をして、たくさんおせっせしたのでした。
仲良きことは美しい。彼らは爛れすぎてるけど。
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