第532話
「それで、いったいどういうわけなんですか。あの状況。ただごとじゃないって話を逸してるんですが」
「どうって言われても……なぁ?」
あのままというわけにも行かず。とりあえずとして彼と彼女はお風呂へ。
と言っても彼は完全に寝入ってるから彼女が彼の世話をしたんだけどね。
その間いつ起きるか気が気じゃなかったけど。杞憂に終わったようでなにより。
で、今彼は彼女の部屋。彼女の布団の中でぐっすり。
彼女と女将は彼が寝てる横でお話し中。
とはいえ襖で隔ててるし大きな声を出さなきゃ問題はないね。
「服脱いで、これから入ろうゆーときにあの子が入ってきて。そのまま押し倒されてあれよあれよとってだけなんやけど」
「そこがおかしいんですよ。抵抗してくださいよ」
「こっちも混乱してたんよ。それにあの子盛大に寝ぼけてはったし、下手に暴れて正気に戻られる方があれかなーと」
「寝ぼけて女性に暴行加えるくらいなら正気になったほうがマシでしょうにっ」
「いや若い子やし、
「なんで擁護してるんですか。貴女はいいんですかそれでっ」
「この年で生娘のがあれやない? そう考えるとうちにとっちゃやっと散らせてラッキーみたいなこともちょろっと思ったりしたもので」
「いくつになろうと無理矢理は万死ですっ。初めてなら特にっ」
「ゆーて顔見られとうなくて必死やったから初体験というやつを済ませたのに実感なしやけどね」
「尚更ダメじゃないですか。思い出深きものにしてください」
「この年で思い出深き初体験とか……(笑)」
「……もっとご自分を大事になさってくださいよ。はぁ、もう良いです。このあとのことを考えましょう」
価値観の違いに苦悩を漏らしつつ。とりあえず本人は気にしてないようだし言及も控えつつ。話題を変える。
「まず、彼が目を覚ましたらどうするかです。事実は事実として伝えるべきと思うんですが」
「いや~。寝ぼけて廊下に倒れてたから風邪引かんよう連れてきたとかでええんやない? どうせ夢かなんかと思っとるやろし」
「女性へ乱暴を働いといて言い訳なんてさせてはいけません。無自覚の行いとしても」
「相手がうちやなかったらうちもそう思う」
「例外は認めません。言うべきです。そして、自らの行いを反省させるのが大人の勤めでは?」
「そう言われると……一応悪いことやし反省したほうがええなーとは思うけどもやね」
「一応は要りません。普通に悪いことです。なんなら犯罪です。私としては警察につき出したいくらいです」
「そらいくらなんでも厳しすぎ……」
「なわけないでしょうが。妥当です」
「……お、おぉう」
女将の気迫に気圧される。ま、これに関しては彼女がおかしいのでかばえないね。
「ではどっちか選んでください。事実を伝えて謝罪させるか。警察を呼ぶか。証拠なら彼の着てた浴衣に貴女の血がついてるので十分でしょう」
「……う。わ、わかった。わかりました。言う通りにします。はぁもう。おっかないんやから」
「大事なお人を汚されたのだから普通の対応かと。仮に私が知らない男に乱暴されたらどう思われますか?」
「千切るかな」
「……何をとは聞きません」
「ナニも千切る」
「言わなくて良いです」
「そう言われると少しは気持ちもわかってまうね。ごめんね? ケロッとして」
「病まれるよりかは良いですが。ご自分を大事にしてほしいと切に願います」
自分で例えることで彼女も理解を示し、彼に謝罪させるという最低限自分の希望も通ったことで女将さんは安堵しましてと。
けれど、ここで終わりってわけでもなく。彼女も彼女で最後に一つ条件を出すわけさ。
「謝らせるのはわかったけど。あの子とはうちだけで話すわ。他の人にも知られたってなると、羞恥心やらなにやら余計に増してまうからねぇ」
「……わかりました。それくらいならば呑みます」
子供が悪いことをしたとき、他の誰かの前で叱られたりすると罪以外へ気持ちが向いてしまうし。なによりいらない傷を負ってしまう。罪悪感以外が割り込んでくる。
それと同様に、他の人にも悪事を知られている。また、状況が状況だけに裸やらなにやらを見られたってとこにも意識が向くだろう。
それらは不純物。それ故に彼女はこの提案を出し、女将も彼女の意を汲んで受け入れる。
(はぁ……。まったく。お優しいんだから)
自分が子供の頃。身内に叱られるときはいつも二人きりで、他の人はいなかったことを思い出して少しだけ微笑む。
ふふ。いつの時代も彼女は愛されてるね。
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