第484話

「おい。いるか」

「え、あ、ぉえ!? お、お姉様!?」

 兄妹が戯れている頃。

 こちらの姉妹もまた顔を合わせていた。

「久しいな愚妹リリアン。……ほう、以前よりまた成長しているな」

 常夜の世界。その城の一室で退屈を貪っていたリリアンに会いに来たリリン

 大浴場から直に来ているので部屋は濡れるわ服は着てないわだが、この二人に人間の感覚を求めてはいけない。

 後片付けなど、家畜このほしのにんげんに任せれば良いのである。

「此度はいかな用事で?」

「フム。なぁに。少々貴様の様子見をな。ことだし。場合によってテコ入れも良いだろうと思い立っただけだ」

「……? はぁ。よくわかりませんが他でもない私のために足を運んでくださっただけで恐悦至極にございます! それでそれで、どうでしょう? 今の私は。お姉様の目から見て!」

「フン。悪くない。十二分にテコ入れをしても良いと思えるほど成長している。我ら血族の中で二番目に異質と言えような」

「一番は当然お姉様。しかしどのような形であれ次いでに並べるのは嬉しいです!」

「そうか、ならばそれを二人きりにしてみたいとは思わんか?」

「え?」

 キョトンとするリリアンにイヤらしい笑みを向けてリリンは続ける。

「血族皆貴様が食いつくして、我ら以外絶やしてはどうかと聞いている」

「……! そ、それ……は……」

 想像するだけで昂る。

 自分達はその星の頂点に位置する生物。序列を作るとしても同種間のみで、他種が入る余地を作らない。

 誰も自分達の種を潰えることは叶わないし、他の星から侵略されたとしても返り討ちにする程度には強い種族。

 そもそも食事を必要としない不死身の生物。殺すことそのものが難しい。不可能に近いだろう。

 ……例外があるとすれば、同種の手によるもの。

 仲違い。共食い。名前などどうでも良いが、なんらかの理由で同種で殺し合いになった場合ならば死ぬこともある。

 何故ならばリリンたちはマナに敏感だから。密度のあるマナを叩き込まれれば不死身の体は機能不全を起こし、その間に食われ取り込まれるなり。またマナで圧し潰されれば死ぬ。細胞は不死をかなぐり捨て、苦痛からの解放を願う。

 故に、リリンは同種から恐れられているし。リリンならば自分以外の同種を滅ぼすのも容易い。

 そう、リリンならば。

(お姉様ならどんな生物だって殺せる。でも……)

「お姉様……。魅力的な案ですけど。血族を私が食らうとは……些か難しいと言いますか……」

 リリアンは強い。リリンが関心を抱くほど成長も続けている。

 けれど、それでもなお。強さの序列をつけるなら良くて上から五番目辺り。リリンと自分を除いた血族皆殺しなど無理な話。

「それに食らうって。そりゃあムカつく兄弟姉妹は何人か食い殺しましたけど。それでマナも増えましたが……。でも、これ以上身内食いは他も黙ってませんよ。お姉様がいただくならば喜んでその身を差し出す兄弟姉妹もいましょうが。もし、今以上の力を欲するなら私よりもお姉様が食べてみては?」

「いや、生憎と我はグルメでな。美味いもんしか口にしたくない。それに、そのやり方は適してないしな。やっても大して変わらんよ」

「そう……ですか」

「が、お前は違う。お前は食らえばその分強くなる性質タイプだ」

「それはそうですけど……」

 先も言った通り。これ以上の身内食いはリスキー。序列が上のヤツらから危険視されるだろうし、目をつけられたらリリアンが殺されかねない。

(お姉様以外に食われるのも殺されるのも嫌だし……)

 リリンが一言食いたいと言えばすぐにでもその身を捧げるが、他は絶対に嫌。それがリリアンの意思。

 リリンもそれら全て承知しているし、その上で身内全てを食らい。と言っているのだ。

 しかし一つリリアンと違う思惑がある。そのたった一つ認識の違いがある。

 それを飲めば、十分リリアンはリリンを覗く血族皆殺しを完遂できると踏んでいる。

「なぁに。問題ない。なにもいきなり動くのを食う必要はない。狩らずとも食い物は転がってるものだ」

「……というと?」

「我が今までに磔にした愚者バカ共を先に食えば良いだろう?」

「――」

 今までにリリンに楯突いて怒らせた血族たちは数十人は存在する。

 そいつらは漏れなく体をバラされて再生しきれないよう枯れ樹に磔にされている。

 そう。生きたまま、だ。

「あれ、全部食えば引っくり返るよなぁ?」

「……」

 リリアンは特異な細胞を震わせ、質の悪い脳みそを使って、粗末な計算をしてリリンに答える。

「はい。それならぜ~んぶ殺せます。父でさえも」

 序列二位ちちを殺せる。それはリリンも至っている解答。

 時間はかかりはしたものの、自分と同じ答えを出したリリアンに満足して。リリンはゲート開き入っていく。

「では次会う頃には終わらせておけ。我ら以外もういらないから遠慮なく食らうと良い」

「はぁい♪」

 ゲートに消え行く敬愛する姉の見送りを済ませると、リリアンはすぐに城を出る。

 生き地獄を味わっている兄弟姉妹たちへ引導を渡しにいくために。

(クハハハハ♪ 生きた死体も。元気な血族たちもぜーんぶ食べて。我が種は私たち二人きりになる……)

 未来予想図に酔いしれながら、殺意を振り撒く愚かな妹は、姉の真意に決して気付くことはない。

 そも、リリンの思惑に気付ける者なんて。今この世にはいないけれど。

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