第479話

「先の話の続きだが」

「はい? まだなにかあるんですか?」

 先に湯に浸かっているのは結嶺とリリン。それからカナラ。

 ロゥテシアは灰音の体を洗っていて、才とコロナはあとで入ってくることになっている。

 リリンはその間に、結嶺にもうひとつだけ。伝えたいことがある様子。

「まぁこれは見たほうが早いか」

 そう言うと、結嶺に見えやすいように手を広げ――。

「それ……はっ」

 グリモアを出す。

「言っておくが、ヤツのではなくこれは我のだ。ついでに……」

「……あ、はいはい。なるほどね」

 リリンの目配せで察し、カナラも手を出すとグリモアが出現する。

 召喚魔法に必要と言われているこの本は、政府から支給されるもの。

 ジュリアナのようにコネで先駆けて入手することも難しくはないが、原則としてそうなっている。

 けれど目の前にいる二人は手にしている。

 カナラは学生の身分もあるのでわかるが、リリンは契約者側なので支給される道理がない。

「あ、私はもらったりしてへんから」

「そう……なんですか?」

「あっこにいるのはまぁ、色々と裏で、ね。せやからこれは誰にもらったわけでもあらへんよ」

「じゃあどうして……」

「そもそも貴様、どうしてこれがグリモアだと?」

「え? だってそれは……なにもないところから本を……あれ?」

 ここで一つの疑問。

 何故なにもないところから出てきた本がグリモアだとそう確信を持てたのか。

 この謎にはすぐに答えがもたらされる。

「単純だ。こいつはの影響下に入っていれば誰にでも出せる。存在そのものにつけられた首輪みたいなものなんだよ」

「誰気でもある。もちろん結嶺ちゃんにも。せやからわかってまうんよ。これがそれって」

「……」

 ここにきてから色々と突拍子のないことを言われてきて、それでも尚慣れない。

 出された情報ものその全てが驚きをくれる。

「試してみろ。貴様にも出せるかどうか」

「この形を意識すればええから」

「……はい。やってみます」

 言われた通りにしてみると。数十秒ほど時間を要したが、グリモアが結嶺の手から現れた。

「本当に……」

 目の前で証明された事実で幾度も驚く。

 そして疑問も幾度も浮かぶ。

「でも、学校とかから本を渡されますよね? それってどこからきえ、どこへいくんでしょう?」

「あれはマナによって作られた半物質だよ。だから渡してすぐにマナに還元して消えることもできる。用意した連中もまたキナ臭いヤツらなんだ。それくらいできよう」

「なる……ほど」

 簡潔に述べられた答え。納得できるほどの説得力。否定する材料もなければする気もないけれど。心は反して疑い続けようとしてしまう。

 が、そんなことがどうでもよくなる事柄をリリンの口から聞いてしまう。

「グリモアがあるということは、貴様も喚べるんだよ。縁ある者を」

「……!」

 目を見開き、リリンを見つめる。

 なぜならリリンの口にした意味とは――。

「お偉いさんに許可を取らずとも。もらわずとも。貴様の手には既にあるんだ。ヤツがあぁなった原因が」

 それはつまり――。

「貴様にも、可能性があるというわけだ。人外へ至る可能性がな」

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