第473話

「もむもむ」

 ん? コロナ?

「もむもむもむ」

「……なに?」

 餅をもちもちしながら背中向けて左右にタンタンステップ踏んで何がしたいのお前。

「……あ~。お前のほうか」

 背中にいる着物の中に潜んでるヤツが用あるのね。

「ぷはぁ! なぁ、父よ。気づくのが遅いぞ」

「うるせぇ。だったら気配を絶つな」

 マジで一瞬わからないくらい気配だけじゃなく視覚も空間曲げてまで巧妙に隠れやがって。曲がりなりにもリリンのガキだけあって小賢しいヤツだなおい。

「で、なんだよ。そんなとこに隠れやがって」

「わざわざ叔母君おばぎみに見つからないようにしてやってるのにその言いぐさはないと思うよ。前うっかり電話越しにやらかしたのを思い出して気を遣ってあげてるというのに。この場で泣き叫んでやろうか? びぇ~んつって」

 あったなそういやそんなことも。

 なんなら結嶺の当たりがキツい理由の一因でもあるんじゃないかそれ?

 ……ちょっと腹立ってきたな。余計な手間増やしやがって。

「コロナ、そのまま座ってこっち寄りかかっておいで」

「もむもむ……ん~」

「おふぅっ」

 俺とコロナに挟まれて赤ん坊とは思えない野太い声出たな今。ざまぁ。

 だが俺の溜飲はこんなんじゃ下がらねぇぞ。

「ぅぉ……ぉ、おい我が父よ。加減を間違えるなよ? 今デコピンしたら本当に泣き叫ぶからな?」

「つまり叫ばないようにやれと?」

「つまり首が飛ぶじゃないかやめてくれ」

「んみぁ~」

 灰音が背中でモゾモゾ動くもんだからコロナが気持ち悪そう。

 当人は体勢変えたお陰か楽になったみたいで一息ついた様子。

「ふぅ……。とりあえずどうするよってこと。前の電話越しパパの件は置いといても叔母君と私は顔を合わせる機会はいくらでもある。いつまでも隠れてられないよ。そこまで集中は維持できないよベイビーバブちゃんなもので」

 マナは俺のを使えば良いけど単純に灰音自体のスタミナの問題ってことか。

 確かにアレを抜きにしても顔合わせは必要。

 でもタイミングとか説明が色々なぁ~……。

「あ、また面倒だなぁ~とか思ってるでしょう? 分かりやすすぎるぞ父よ」

 やかましい。俺はそういう人間なんじゃい。

 面倒とわかっててもちゃんと説明するって。けどまずはタイミングをだな――。

「そういえばなんですけど、この前電話したとき『パパ』って聞こえた気がしたんですけど」

「あ~灰音ちゃんのことぉ? 坊とリリンちゃんの稚児やねぇ~。二人に似て可愛いんよ。はれ? 今どこにおんのやろ」

「――」

「……」

 カ~ナ~ラ~! あいつなにしてくれてんだよマジでぇ~!?

 ある意味タイミングバッチリだけど言葉選べお前ぇ!!!

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