第417話

「やっぱり、貴女が出るんですね」

「なんだ? 予想通りとでも?」

「えぇ、まぁ」

 試合場に入った瞬間話しかけてきたな。しかも、リリンが来るのがわかってたみたいだし。

 マナは……A組だし当然多いけど。伊鶴のがあるし。質もそこそこ。

 でも、なんていうかマナうんぬんよりも……。態度というか姿勢というか視線というか。そういうのがおかしいなこの先輩。

「なんだったらあっちでもいいんだが?」

 親指でこっちを示すリリン。こっちつっても俺じゃなく。

「んぅ?」

 腰に抱きついてるコロナだけど。

 今日もひっついてるけど、何故かだっこではなく隣に立ってしがみついてるだけ。

 だっこねだるよりかは成長をうかがえる行動ではあるよねー。

 ……ただ。

「ふすぅ~……」

「やめれ」

「ぁぅ」

 背伸びして脇の臭いを嗅ぐのは如何なものか。そんな性癖せいちょう望んでないっちゅに。

 別に臭いなんてほとんど感じないだろうしさ。リリン同様。

「いえ、まだ本調子じゃないでしょう? それに、貴女自ら私の相手をするために足を運んだようにも思えるので。それで下がれだなんて無礼な真似はしませんよワールドエンド」

「ほぅ。そう呼ばれてると知って尚我とヤりたいと?」

「えぇ。とってもヤりたいです♪」

「……」

 二人の言葉が若干卑猥に聞こえるのは俺の心が汚れてるからだろう。

 ちょいとコロナだっこでもして父性を高め――。

「いーい」

 フラれた。はじめてフラれた。悲しい。

「なによりも、天良寺くんがどれだけ優れていても。契約者の相性を考えれば私たちに対抗できるのはたぶん貴女だけだと思いますし」

「だろうな」

 そ、そんな強いのかよこの人……。いや、相性つってるなら特殊な能力持ちってことか。リリンの影みたいな。

 あの影も物理的な威力全部なくせるってふざけた特性あるし。類似したもんなら少なくともロッテには効きにくい。

 まぁその影もマナで吹っ飛ばすことは可能だし。この人らの能力にも穴があるだろうから。俺の契約してる連中じゃリリンしかできないってことなんだろうな。

「ま、こちらが動く前に潰されたら相性なんて関係ないんですけどね」

「それもほとんどあり得んだろうがな。我含め相手を見る悪癖がある」

 た、確かに言われてみれば……。俺たち全員まず相手の出方見るわ……。

 俺はほとんどチキッて。ロッテとコロナはそれに合わせる感じ。リリンは単純に好奇心。

 よくよく思い返せばそんなこと必要な相手って最初期のジュリアナ戦くらいで。あとは先手取ればすぐ終わってたのもチラホラある気がする。

 最近はそもそも棄権も多いから気づかなかったけど。次からはある程度始まる前に見極めて初手で決めにかかるのもありかもしんない。

 リリンは……興味あったらやらないだろうけど。

「さて、そろそろおしゃべりは終わりにして――」

 ん? グリモアを出さずにゲートを開いたな。珍しい。

 で、肝心の契約者は、と。

「……」

 上半身は人間っぽくて濡れた布切れを着てる。下半身は蛇……っぽいけど羽毛がびっしり。先の方にはヒレみたいなのもあってラミアと人魚と鶏が混ざったみたいな姿だな。

「始めましょうか後輩。どうぞ先輩わたしを糧にするといい」


『二年A組稚沙木ちざきマーヤと一年E組天良寺才の試合を始めます』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る