第383話

「あ」

「……?」

 夕美斗が瞬に手のひらを向け、中断させる。

 夕美斗と同じ方へ向くといつの間にか父が立っていた。

「えっと……勝手に使ってごめんなさい。ちょっと瞬と遊びたくて」

「そうか……」

 久方ぶりの父との会話というだけでも気まずいのに、勝手に道場を使ってしまったので気まずさ三割増し。

 思わず顔がひきつってしまう。

「あ、それと。ただいま」

「あぁ……」

 気の抜けた父の返事がより空気を重くする。

 よくわかってない瞬はとりあえず打ち合いは終わりという雰囲気だけは掴み、ついでに夕美斗を掴む。

 夕美斗も応えるように頭を撫でている。

「……」

 娘たちの仲の良さげなその様子を見て、先程から気になっていたことを聞いてみることにした。

「お前たち。仲直りしたのか?」

「まぁ、うん。前に学園に遊びに来たときにちょっと」

「……召喚魔法師の学園に行っていたと思うんだが。まさか瞬と打ち合えるようになるとは思わなかった。異界の住人に全て任せる魔法と認識していたんだが、いったいどういうことを学んでいるんだ?」

「説明が難しい……かな。学園でも私のクラスの友人たちはちょっと他とは違うと言うかなんというか……」

「友人?」

「うん。その友達のお陰で瞬にちょっと近づけたんだ。本当彼には頭が上がらない」

(彼……そうか、夕美斗もそういう年頃か。わざわざ隠さなくても良いものを)

 盛大に勘違いする父。

 本当に友人……というか才としては友人未満な気もするが。

 どちらにせよ恋仲ではないのは間違いない。

 さらにタチが悪いのは恋人がいようと別に反対しない物分かりの良い父親と思っていることだ。

 いや実際出来たとしても普通に受け入れるのだろうが、出来ていないのにいるていで話すものだからややこしいことになっている。

 才と夕美斗と夕美斗の父が会わないことを祈ろう。

「まぁでも。一つ言えることは……学園には私よりもずっとすごい人がいるってことかな。私が知る限りでも二人くらいずば抜けてるし、内一人の妹さんも瞬くらい凄かった。他にも人域魔法師のほうにもすごい人たちがいたよ」

「……!」

 驚く。

 夕美斗の先程の動きさえ瞬と同等のレベルかと思っていたのに、夕美斗以外にも最低三人は瞬レベルの才能を持った人間が同世代にいるということに驚く。

 夕美斗の父はこの時ほど悔やむことはなかったろう。

 武術を嗜む者に瞬ほどの才覚がある人間はいないと決めつけて瞬の才能を磨くことも。

 一度の試合で夕美斗に見切りをつけてしまったことも。

 ちゃんと世界を知っていれば二人の仲がこじれることも――。

(いや、もう遅いな)

 彼は狭い視野で二人の娘の――仲睦まじかった姉妹に空白を与えることはなかった。

 もしかしたら夕美斗も瞬も今よりもっと才能を開花させていたかもしれない。

 しかし、この胸中を夕美斗が聞いたところで否と断じるだろう。

 何故なら夕美斗が強くなれたのは学園に行き、友と出会ったからだ。

 代えがたい相棒ニスニルと出会ったことに他ならないからだ。

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