第333話

「あ、天良寺君」

「……よう」

 部屋に戻る途中。廊下でジュリアナと鉢合わせる。

 一応顔見知りだけど、特に話すこともないしあいさつもそこそこに――。

「誰かに用でもあったんですか?」

 帰してはもらえない様子。

 えぇ……。なんで会話続けようとするの~?

 俺たち別にそんな仲良くないじゃん……。

 ちょっと病院送りにしたりされたり。他校との交流戦に選抜された程度じゃん。

 なんなら割りと一緒にいる面子はいるが、基本的に俺に友人はいないぞ。胸を張って言える。

 ミケが悲しそうな顔をする光景がうっすら見えたが気にしない。それは幻想なのだから。キリッ。

「……?」

「あ、いや。アレクサンドラにちょっと」

 いけないいけない。つい自分の世界に入って目の前の女子を疎かにしちまった。

 ダメだよな。女の子をぞんざいに扱っちゃ。あの世のミケに怒られちまう。生きてるけど。

「それは……なんだか意外ですね。天良寺君はあの方を苦手にしてるとばかり」

「まぁな。でも俺にも色々事情があるから」

 よくわかるね? 苦手だよめちゃめちゃ。

 だから相手してきて疲れてるんだよ。精神的に。ってことで早く帰してもらえません?

「事情……ですか?」

 疑問符ってことは話を続けるということかな? つまり答えは否と。なんて酷い女だ。

「……? もしかして、それは……」

 ジュリアナの視線をたどるとどうやら俺の手を見ているみたいだ。正確には手に持ってる物。ついさっきアレクサンドラからもらった紙製の封筒だ。

「なるほど……。そういうことですか」

 なんかよくわからないけど納得してくれたようで。

 さすが魔帝の知り合い。これがどんだけヤバイ物かわかるようだな。

「じゃ、そういうことだから」

「あぁ! ま、待ってください! まだお話は終わってませんよ!?」

 いやそもそも始める気もなかったんだけど? お前が。勝手に。始めたんだよ? そこんとこわかってますぅ~?

「……まだなにかあんの?」

「……人付き合いが嫌いなのはわかりましたけどもう少し待ってください」

 わかってて引き留めるのか。なかなか良い性格してるね?

 これで下らない用事だったらさすがに怒るよ?

「えっと……たしかこの辺に……」

 引き留めたかと思えば今度はゲートを開いて手を突っ込んでる。

 本当。何がしたいのお前。

「あ、あった! ありました!」

 ゲートから手を戻すと、手には封筒が握られていた。

 紙の封筒が握られて……る。

「はぁ!?」

 思わず声を上げちゃったけど無理もなくね!?

 だって紙の封筒……。しかも俺がアレクサンドラから受け取った二つと同じ物だぞ!?

 ってことはつまり――。

「そ、それ……」

「魔帝フランク・ブルーノ様から貴方へ」

「……」

 と、とりあえず受け取って中身を確認。

 入っていたのは思った通りの紹介状と、手紙。

『改めて、ジュリを助けてくれてありがとう。これはお礼の品だ。さすがに本人に聞けばわかることをチラッと教えただけじゃ足りない気がしたものでね。年寄りのお節介をさせてもらうよ。気に入ってくれると嬉しいな。君と妹さんに幸よあれ』

 俺の方こそ感謝する。二枚でも十分かもしれないが三枚もあれば絶対に釣れる。結嶺を解放することができる。

 知的なゴリラ。いつかお高めのバナナでもお歳暮に送るよ。住所知らんけど。

「私は中を見ていませんが、きっと今の天良寺君は大変な状況にあることはわかります。でなければそのような代物を渡すわけありませんから」

 だろうな。

 で、だ。一つ気になるんだが。

「……ところで、なんでこれ冷たいんだ?」

 まるで氷みたいに冷たいんだけど。冷凍庫にでもいれといたのかこれ?

「必要になったらお渡しするつもりだったんですが、保管のことを考えたときに大事な物だしカーレンに守ってもらおうかと思って。かといって森に置いていたら虫が湧くし、いけないと思って氷の洞窟に保管していました」

「……あ、そう。お気遣いどうも」

 いやもうそんなことするくらいならすぐに渡してくれれば良かったと思うんだ? 必要になったからとかじゃなく。

 まぁ、ナイスタイミングだったし文句は胸に秘めといてやるけど。

 ただ、もう一つ気になったんだが。そっちの植物は寒さに強いのか?

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