第332話

「っていうか最初からユーの手助けはするつもりだったんだけどね!」

「あ゛?」

「そう怖い顔しないでよ。調べたって言ったろう? 君の父親のことはよくわからなかったけど魔帝のほうは事実確認が取れたからね」

「っていうとクレマン・デュアメルのことか」

「そそ。ミーの一回りくらい上のおっさん。あのおっさん前々から噂はあったけどちょっと性癖に問題があってね」

「へ、へぇ……」

「なんでもサラサラ髪で自分より見た目年齢20下の処女しか興味ないらしいロリコン野郎だってさ」

 ん~なるほどぉ~? それで結嶺っていう餌に食いついたのか。

「つか、ずいぶん限定的コアな趣味だなぁ~……。不自然なくらい」

「まぁそういうのは人それぞれだしぃ? 気にするとこじゃあない。問題は、本人の意思を無視して話を進めてるところさ」

 アレクサンドラは目を細め、眉間にシワを寄せて嫌悪感を露にする。

 ……ちょっと、いやかなり怖い。

「いくら年下だろうが未成年だろうがそこに愛があれば応援するよ。禁断の恋上等さ。ただ、あくまで合意でなければ。本人たちの。当人たちの合意でなければ断固反対だね。妨害も辞さないレベルで」

 ……アレクサンドラはアレクサンドラで俺たちの会話に立ち会った時から思うところがあったってことか。

 正直他人がこの件にどう思おうがどうでも良いけど、今回ばかりは助かるね。魔帝の名前を借してくれるってことだろ? ありがたすぎるわ。

「ってなわけで、こいつを持ってきなボーイ」

 懐から取り出したるはこれまた珍しい紙製の封筒。

 いや封筒なんだから紙だろって思うかもしれないが、今の時代紙は希少なもんでまず紙が珍しい。

 それも古本とかじゃなくて新しく製造された紙での封筒。

 こんなの、国の重役でも滅多に使わない。

 つか、以外ではもうこんな代物ほとんど使われないだろうな。

 ハッキリ言おう。滅多にお目にかかれない超激レアアイテムに俺もやや興奮してます。

「薄々気づいてるだろうけど。これはミーと直々に交渉できる胸が書かれた書類が入っている。そう。魔帝への紹介状ってわけさ。いつもなら魔帝が他の魔帝へ紹介するために書いたりするんだけど。今回は特別に自分への紹介だね。自分が自分にとか意味がアンノウン」

 あの親父は魔帝とのコネを得るために結嶺を差し出す。

 そしてアレクサンドラへの紹介状もまた魔帝とのコネ作りに役立つ代物。つまりは結嶺と紹介状は現在同等の価値はある。

 が、あくまで現在の価値は、だ。

 仮に、紹介状の渡すから魔帝クレマン・デュアメルとの契約を反故にしろ。とでも言えばどうなるか。

 コネうんぬんどころの話じゃないわな。魔法師としてのあらゆる権利を奪われ、潰されかねない。

 魔法の研究が日の目を見る前に全部失う可能性がある。

 つまり、ただ交換条件として出すんじゃ話にならない。

 故に俺はこれを餌に一つの勝負を提案するつもり。勝てば紹介状。負けたら結嶺の自由。みたいな。

 これなら俺をなめきってるあの男のことだし乗ってくると……思う。

 オールオアナッシングであったとしても、相手はクズ・ゴミ・無能の俺。99%どころか99割得しかしない賭けだと思うはずだ。

 ……まぁでも。心配なのはこれで乗ってきてくれるかだけどな。

 あくまで用意できたのは同価値の物。それに希少とはいえ紙の書類なんていくらでも偽造できる。俺が持っていっても欠片も信頼度がないもんで信憑性皆無。

 確かめもせずに破り捨てられる可能性だってあるわけだ。

 さて、その辺りの対策はどうするか――。

「あ、念のため紅緒直筆の紹介状と偽造不可の契約書も用意したから。これで少なくとも交渉の場には立てるはずだぜ?」

 懐からさらに二つの封筒を取り出すあれ。

 ……あのさ? そんな便利な物があるんなら最初から出してくれません? 余計な策練ろうとしちゃったじゃんか。

 でも、まぁ。

「ありがとう。恩に着る」

 ここは素直にお礼を言ってやるよ。事実助かるし。

「ミーも紅緒も君の未来に期待している。その先行投資さ。だから、些細なトラブルで潰れてくれないでよ?」

 困り眉をしながらのウィンク。さすがに様になる。

 安心しろよ。ヤツが話に乗るまでが本当の勝負。お膳立てさえしてくれればこっちのもんだよ。

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