第300話
「はぁ……やっと落ち着けるってもんだねぇ~。ん~……っ! ぷはぁ!」
アレクサンドラが空き教室の机の上に寝そべりながら伸びをする。
さっきまで学園に来た客達が群がってて学園内回れねぇわ会話もままならねぇわで大変だった。
なんとかアレクサンドラが学園長に連絡して休憩場所を確保してくれなかったら今もまだ揉みくちゃにされてたろうよ。
「すみません。わざわざご都合していただいて」
「良いさ。半分はミーのせいだしね」
半分。これはもう半分が客達のせいって意味じゃない。原因がこの場にいる人間に限られているという前提で半分ってことだ。
え~……つまり。
「まさか私たちまであんな風になるとは思いませんでした……」
そう。もう半分は俺たちのせい。
俺と結嶺も交流戦で戦ってたわけだしな。そこそこ派手に。
俺だけのとき無事だったのは他のヤツらと違って普通の召喚魔法師らしく後ろに控えていたから。
御伽と憐名もだけど……あいつらはまた特殊だからなぁ~……。目立つ目立つ。
ってことで俺だけ影が薄くて、結嶺とセットでやっと「あ、あの兄妹じゃん!」的に認識されるわけだ。
つまり結嶺がいなければ俺は人に群がられることはなかった。許すまじ結嶺。
「私たちっていうか俺はおまけでお前がいなかったら気づかれなかったけどな」
「うっ。すみません……」
「でもよく見たら結構イケメン……かも? とか言われてたじゃん? 誉められてるじゃん良かったじゃん?」
「よくみたら、かも、
嘘だけど。
よく知らん他人だろうが妹だろうが
……まぁ、あの人だったらちょっとはテレるかもしれないけどな。絶対にそんな言葉もらえないけど。
「はぁ……。もう無駄話はやめようぜ。つか、そろそろ……話しても良いだろ?」
「なにをですか?」
「お前が俺に会いに来た理由」
「……っ」
ここに来るまで、多少のトラブルがあってゆっくり話す時間が取れなかったので聞きそびれてた。というのもあるが、それ以上に結嶺はこの話題を避けてたように思える。
あいにくと、俺に隠し事や嘘は通じなくなってるんだ。悪いな。
それに一応理由もわかってる。わかってはいるんだが、本人の口から確認を取りたい。
「あ、ミーがいると言いにくい? なんならはずしても良いんだぜプリティガール?」
「だ、大丈夫ですよ!? べ、別に大した理由はありませんし。た、ただ休みが取れたのと、たまたま公開日が重なったのでせっかくなら兄様に会いに来ようと……」
はい。わかりやすく動揺してるな。
普段からチラホラ出ちゃいるけど、こいつは人前だと兄様じゃなく兄さんと呼ぶ。理由は恥ずかしいから。
だけど今は気づいてないのか恥ずかしがる素振りはない。そんな些細なことに気を回す余裕がないからだろ?
「……父親から連絡が……いや、命令が来たんだろ?」
「……っ!?」
どうしてそれを? ってところか。つまりあの猿おじの情報は正しかったんだな。
残念だ。あぁ、実に残念だ。
「あいつ。コネ作りのために魔帝――クレマン・デュアメルとお前を勝手に婚約させるつもりなんだろ?」
「「!!?」」
結嶺とアレクサンドラが驚いた顔をする。
結嶺は図星をさされてだろうがアレクサンドラは信じられないからだな。
俺もまだ15才の結嶺と三十路超えたおっさんを婚約させてコネ作るって時代錯誤甚だしいことをしでかすとは思わなかったよ。
あのクズ。俺の妹をくだらねぇ研究のために売りやがった。
好き勝手して母さんを殺しただけじゃなく今度は妹の人生までテメェの小せぇプライドのために狂わそうってんだな。すでに結嶺の人生はお前のせいでかき回されてるってのに。
あぁ腹立たしい。本当に腹立たしい。
昔のことなんて、思い出したくなかったのに。こんなことされたら嫌でも思い出しちまうだろうが。
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