第279話

 つーわけでやって来ましたEうちの運動場。

 これから鬼ごっこを始めるわけなんだけど。

「はぁ~……めんどくさ。なんでこの年になってこんな遊び……」

「いやいや。今のご時世五才児でもやらないだろ」

「せっかくの休みなのに~……。早く帰りたいなぁ~……」

 おうおう。いつも午前の一般教養しか学ばねぇサボり魔共が文句たれるたれてる。

 せめて死に物狂いで平日訓練してからと言いたいところ。

 だけどお前らは俺たちと違って息してるだけでも死に物狂いなんだろうな。そら週二日はしっかり休みたいよな。呼び出してごめんごめん。俺が悪かった。

「皆の衆! よくぞ集まってくれた!」

 伊鶴が声をあげると全員が注目。

 どんなに面倒でもさすがにクラスの中心になりつつある伊鶴は無視できんわな。だから集まったんだろうし。

「今日集まってもらったのは他でもない! 文化祭に向けて我がクラスの出し物の候補の一つを試そうと思ったのであぁ~る!」

「がう」

「「「……」」」

 腕を組ながらつけ髭をつけてふんぞり返る伊鶴と、手足が伸びて人間に近い骨格になったハウラウランが同じポーズをしてる。

 一見微笑ましいけどハウラウランにあった幼さが消しとんでいかつくなったもんでナチュラルに怖いな。連中もちょっと引いてんぞ。

「今回はお試しと言うこともあり! 場所はこの運動場内のみで追いかけるのはクラス全員! 逃げるのはえんちゃん一人ということで!」

「へ!? 私!?」

 突然の名指しに驚くカナラ。

 カナラ一人が逃げ役だからクラスの連中も驚いてるな。

「聞いてへんけど!?」

「「「言ってないの!?」」」

「今言った! ザ・さぷらいず!」

 言わないように伊鶴には釘刺しといたし。

 イタズラ好きのあいつのことだから乗ると思ったし計画通りだわ。

「魔法の使用は今回は無制限! えんちゃんも殺傷力がなきゃ無制限! とりあえず十五分で捕まえてみようのコーナーってことで!」

 やることこれだけだろうが。他のコーナーは永遠に来ねぇよ。

「では始めようじゃないか!」

「……って言われても……なぁ?」

「さすがに一対二十弱は……」

「気が引けるにもほどがある……」

「紳士のやることじゃないね!」

 ん~予想通りの反応って感じかな。特にミケ。

 今のご時世男女で差別やら区別やらは少なくなっててもミケは女性には優しくを心がけてるし、そうでなくともカナラは美人だから袋叩き的なシチュに抵抗があるんだろう。

 だが男共お前ら。次の伊鶴の台詞に逆らえるか?

「なお。今回は本気の鬼ごっこだから捕まえる際のお触りに制限はなしとする! 不慮の事故でおっぱいとか触ってもかまわん! 私が許す!」

「「「……!?」」」

 最早そこに言葉はなかった。男たちは目をギラつかせグリモアを出現させ臨戦態勢を整える。

 そしてなぜか女子たちもやる気に満ち溢れ始めた。

 耳を澄ますと聞こえてくるのは嫉妬と……あ~百合的なやつだ。カナラほどにもなるとそういう対象にもなるんだな。不思議はねぇよ。

「も、もう~……勝手に話進めんでよぉ~……。私やるなんて一言も――」

「良いじゃん別に。やれよ」

「へ?」

 話を遮られて間抜けな声を出すカナラ。

 どうせ突然のことで頭追いついてないだけでちゃんと言えば特に嫌がることもなく役割をこなすんだろうが。それだとつまらないよなぁ~。

 ってことでここはちょっと発破をかけてやるよ。

「どうせ捕まらないだろ? お前、俺以外の男に体触らせんの? 

「……お、お、お、お、お、お!」

 オットセイかなにかかよお前は。

 いや、今の顔色見たらしゃべる梅干しって言ったほうがしっくりくるわ。はは。ほぼ妖怪。

「で? 触らせんの? 俺、

「……! そないなへま天地引っくり返ってもせぇへんよ。引っくり返せるけど」

「そうか。ならやってこい」

 ……二言目は聞かなかったことにしてやるから。

 本当にやれそう……っていうかやれるんだろうなぁ~。

 さすがにそこまで追い詰められることはないだろうけど。やめてくれよ? いや本当に。

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