第280話

「うわぁ~……」

「これは思ったよりも……」

「正直参加しなくて良かったです。心折れます」

「むしろ僕たちは……ねぇ?」

「うん! 是非参加したかったな!」

 鬼ごっこが始まって早三十分。カナラは一瞬たりとも休まずに追われ続けている。

 さすがに普段からサボってない真面目な俺たちが参加したらカナラもキツいだろうもけんに回ったけど。俺以外なら参加しても問題なさそうだわ。だって――。

「こ、今度こそ……っ!」

「バカ! 一人で行くな! 囲め囲め!」

「よし! これなら!」

 契約者も使って全員で円形に囲みジリジリと寄っていって円を狭めてる。

 たしかにそれ普通なら有効だけどその考えに至るまでに三十分もかけんなよ。

 まず十五分つったのに倍の時間ノンストップってことに気づけ。止めない伊鶴ほうも悪いけど。

 こいつもこいつで見てて楽しくなってて止める気ないんだよなぁ~。仕事しろ司会。

「うんうん。よぉ考えてるなぁ。これなら中々逃げるの骨折れそうやわぁ~」

 明らかカナラ余裕綽々。

 そら三十分汗一つ流さず、呼吸一つ乱さず逃げきってるくらいだしな。囲まれたところでだろうよ。

 最初からわかってたけど。やっぱ相手になんねぇな。

「追い詰めた! やっお触り解禁!」

「いけぇ! 野郎共! 公然とワイセツ行為ができるチャンスだ!」

「「「おおおおおおお!」」」

 いや、別に許されてはないよ? 伊鶴が勝手に言ってるだけで。

 もし仮にカナラが普通の女子で、セクハラされたとしたら。たぶん訴えられるぜお前ら。

 ……まぁ、触ることができればの話なんだけど。

「すぅ~……ふぅ~……」

 まず小さい煙を発生させ手を突っ込み煙管を引っ張り出す。続いて煙管をくわえると例のごとく身を覆うほどの煙を吐き出して身を包む。

「おわ!?」

「き、消えた!」

 次の瞬間には輪の中から消えて離れたところから煙と共に姿を現す。

 かぁ~大人げない。煙なんて使わなくても逃げられるだろうに。

 空中歩く方法も投影したからな。そいつら基本的に飛べないから上に逃げたら契約者にもよるけどほぼほぼなにもできねぇよ。

 って、これはこれで大人げないか。

「あ! いたぞ! 追え!」

「今度こそ捕まえるぞ!」

「ふふ♪ ほらほら。鬼さんこちら♪」

「はぅん……っ!」

 鬼はお前だ。と、言いたいところだけどヤツらそれどこじゃないみたいだな。

 カナラの煽りにイラつくどころかキュンっときちまってるわ。

 顔が良いと大概のこと許されるから良いよね~。

 あいつの場合長いこと絶世のブス扱いされてたらしいからさほどイラつかないけどな。

 もしもリリンが同じことしたら……。うん。たぶん蹴りいれるわ。想像しただけでムカつくもん。



「「「ぜぇ……ぜぇ……」」」

 結局一時間せっせこ追い回していたけど。触れること叶わず。

 いやむしろよく一時間もったと誉めるべき?

 それほどまでにカナラに触りたかったのかお前ら。スケベ共め。

「いやぁ~。思ったより夢中だったなぁ皆の衆! 最後のほうは雑念か消えて楽しそうに見えたが実際どうだいどうなんだい?」

「「「……」」」

 雑念は消えなかったようで、揃いも揃って目を逸らす。

 うん。正直で良いと思うよ? 欲望に忠実なんて実に動物っぽくてさ。

「あ、察したわ。まぁでも傍から見ると良い感じだったし。これで決まりでいんじゃね?」

「はぁ……はぁ……。た、たしかに景品によってはあり……かも?」

「現に俺らは血眼になっちゃってたし……」

「でも普通の人がほしがるような賞品とか、私たちが用意できるとは思えない……」

「そこはまた追々考えるとしよう! 皆満身創痍でこれ以上話し合うのキツそうだしね」

「たった一時間走ってただけでバテるのは情けないと思うけど。ま、私らと違って授業サボってるから仕方ないよねぇ~」

「「「う……っ」」」

 多美が思いっきり痛いところえぐっていったね今?

 事実だから全員反論できないけど。

「坊~♪」

 痛いところを疲れたのと心肺への負担で胸を押さえながら帰っていく中で向かってくるのが一人。言わずもがなカナラである。

「見てた? ちゃんと誰にも触らせへんかったよ♪」

 良くできたから誉めてと言わんばかりにやや期待混じりの目。

 俺からしたらむしろお前がヤツらに捕まる光景ヴィジョンが見えないってお話なんだけど。

「ドキドキ……」

 でもここまで期待の眼差しを向けられたら応えなくちゃな。

「なぁカナラ」

「う、うん……」

「実は俺、ちっちゃくなってたときのこと覚えてんだよね」

 期待通りの言葉とは限らないけどな!

「う――ん~?」

 思ってたのと違うもんで頭にハテナ浮かべてやがる。

 とぼけた面してられるのも今のうちだぞ。すぐにお前の顔色変えてやるわ。

「お前が俺にした数々のこと。覚えてるんだけど」

「……」

 追いかけ回されたときは汗一つかかなかったのにあら不思議。今は滝のように冷や汗が。

「//////」

 顔も赤くなってきてその場にしゃがみこんでプルプル震え始めた。

 カナラ、思い出し悶えなう。

「なぁカナラ。とりあえずここじゃなんだし。部屋に戻ろうか?」

「……」

 コクりとうなずき、立ち上がる。そして。

「……っ!」

 走って先に帰っていった。

 このあとのあいつのやることが楽しみで仕方ないわ。

 じゃ、俺も帰るとするかな。

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