第261話
「ところで後輩全然しゃべらないけど……まさか試合のときみたいに中身もスッカラカンになったのかな?」
「……」
ぶん殴ってやりたいけどここは無言で返答。俺は記憶も失ってるという体を貫きたいからな。
さっきの反応からして、この珍獣になまじ記憶残ってると知れたらどんな無茶ぶりをされるかわかったもんじゃない。
まだただの子供ってほうが気を遣う……はず。と、信じたい。
というのとで適当に誤魔化せ御伽。
「そんな感じで……す」
「なるほもなるほも。んじゃ後輩のために服を見繕うとするかね~」
本当に適当だな? 別に良いけども。先輩服取り行ってくれたし。
いや~あとはもう運だね。先輩がふざけたもん持ってきても抵抗できないいたいけな子供を演じなきゃだから変な服持ってこられても文句も言えねぇ。
神様仏様。どうか先輩が血迷った服を持ってきませんようにおなしゃす。
「……」
ん? うさぎが一羽ソワソワしながらこちらを見つめている。
ちょっとなんですかカナラさん。先輩が興奮してるときに似た目をして。嫌な予感しかしないぞ?
「どうかしました……か?」
「へ? あ、えっと……。その……」
御伽に話しかけられてわかりやすくうろたえる。
おいおいなんだよ。まさか浮気かぁ~?
「坊……抱っこしてもええかな?」
「あ、どう……ぞ」
「じゃ、じゃあ失礼して……えへへ」
あ、違った。疑ってすまん。
たとえ俺がちっちゃくなってもお前は一途に愛してくれるんだね。嬉しいよ。キリッ。
「フー……ッ! フー……ッ!」
でもその荒い鼻息と血走った目はどうにかしてもらえないだろうか? 俺ちょっとチビりそうッス。
「ぅむぎゅ」
しかして我幼き童はうさぎの妖怪に捕まってしまった。
う~む。素晴らしき桃の香り。そして相変わらずの美乳はこの小さくなった体だと相対的に巨乳になってしまったぜ。元々大きめではあったけどさらにってな。
「んふふ~♪
「……」
めっちゃ恍惚とした顔ですね。いつもとは違う赤面の仕方だわ。新たな一面が見れて嬉しいわー。
ただお前気道塞ぐのはイカンだろ。普通の人間なら死の危険を感じて暴れてるとこだぞー。
「は! あかんあかん。ごめんね? 苦しかった? 大丈夫ぅ?」
「……」
「あ、まだちゃあんとお口利けへんのかな? そっかそっか」
勝手な解釈どうも。その調子で勘違いしといてくれ。
「ふぅ~ん……。そうなると色々お世話大変やなぁ~。女の子は何度か世話した事あるんやけど……
「……」
「……坊と間にデキたらこないな可愛い子生まれてくれるかな?」
本気のトーンで言うな。少なくとも人前で言うな。
切なげな声と顔だからほれ。後ろのオタク共が悶えて
「大人しい子だ……し。大丈夫じゃないか……な?」
「あ、そうやねぇ~。流石坊やわぁ~。ええ子やなぁ~。たぁんと誉めてやらんとねぇ~。ええ子ええ子♪」
「……」
ナイスフォローだけどテメェバカにしてねぇだろうな? お前ちょくちょく口から出る言葉引っかかるぞ?
あとカナラ。母性を出すな。俺は悪くない気分だが後ろのカナラ耐性がない連中とうとう動かなくなったぞ。このままでは呼吸も止めてしまいそうだ。幸せそうだけどやめてあげて。
「あ、こうしちゃおれへんわ。坊がこんなんなってしもたし、はよ着替えてお部屋戻らな。ころちゃ~ん! 先に着替えるから坊の事見ててもらえる~?」
「……? ……! にゃーにゃ――にゃーにゃー?」
やっと気づいたコロナが起き上がり駆け寄ってきた。
今の俺を見て超疑問顔になっちゃってちょっとウケる。
「ころちゃん。もっかい言うけど坊ころちゃんよりちっちゃくなってもうたんよ。せやからちょっとお世話お願いしてい~い?」
そう言って俺をコロナの目の前に下ろす。
「「……」」
お互い無言。コロナはたぶんまだ困惑してるだけなんだろうが、俺はちょっと違う。
「……ゴクリ」
俺は今、目の前の乳に気圧されている。
コロナも決して身長は高くない。故にあの豊満なおっぱいがちょっと見上げるだけで至近距離。大迫力。
忘れがちだけど何気にこいつカナラよりカップ数あるからや……。それで低身長なもんだから困ったヤツだよ。
「……」
で、お前はいつまで見て――。
「にゃーにゃー!」
「ふぎゅ……っ!」
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!
バカ! マナ垂れ流しにしたまま加減なしで抱きつきやがったなテメェ!?
顔面はおっぱいクッションで無事だが首がヤバイ! 頚椎が! 俺の脊髄が! 大ダメージだ!
俺のことを認識してくれたのは良いけどよ! だけどこれは割りに合わないかなって! 思うかな!?
「ただいまぁ~。次はころちゃんのお着替え――ってころちゃん!? 坊がプルプルしとるよ!? それあかんやつちゃうん!?」
よ、良かった……。カナラが戻ってきた……。
で、でも俺。ちょっと意識がぁ~……ガクッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます