第194話

「うぉおおおお! すげぇ! 丈夫な水泡の中にいるとかまるで摩訶不思議ですなアドベンチャー!」

「たしかにこれは壮観。足の感覚も変な感じだし」

「水に立つのが異常だからな。ニスニルに空気を纏わせてもらう事はあるが、それとはまた違った感覚で新鮮だ」

「これだけでも良い経験だよ」

「あまり深く海の中に入るのは怖いですけどね……。私泳ぐの苦手で……」

 近代科学において、クリアな景色はさほど難しくない。たとえそれが深海であろうと例外ではない。

 しかし、それはあくまでガラスやセラミック板、カメラのレンズなどの透明度の話。現在の科学力でも全素材透明の乗り物は存在しない。

 故に、水で作られた乗り物は魔法以外で作る事は叶わないし、それが出来るのは魔帝またはそれに準ずる実力者のみ。

 となれば魔法の発展した世界であっても、アレクサンドラの行ったは必然的に非日常。驚くのも当然である。

「うんうん。喜んでもらえて何よりだ」

(これものすごい疲れるからなぁ~。これで楽しんでもらえなきゃ犬死にだぜ)

 常時マナを放出し、制御する。知覚する器官があると言っても人間のはなんとなくとかモヤッとなど曖昧な感覚でしかない。

 その曖昧なモノを操る事がもう常人のそれじゃない。

 そもそも。海の中を見るだけならばこの魔法を使う必要はない。アレクサンドラの財力ならばダイビングくらいさせる事は容易い。

 それでも彼女はあえてこの方法を選んだ。将来有望な魔法師達の為に。



「そういえば、あのプリチーガール。彼の契約者だよね? 彼女について聞きたいんだが良いかな?」

 海の中の景色を楽しんでいる時。ついアレクサンドラは尋ねてしまった。

 異界の探索経験のある彼女だ。どこかの世界にはマナの扱いに長けた生物がいる事も理解できよう。

 それでも尚。リリンに興味を抱いた。きっと直感的にリリンの存在の異質さを感じ取ったからだろう。

 現役時代でも感じなかった怪物の気配を感じ取ったからだろう。

「リリンちゃん? リリンちゃんはね~可愛いよね~。可愛いのにセクシーっていうかさ」

「伊鶴、たぶんそういうことじゃない……」

「え? 他になにか聞くことがあるの?」

「ものすごい純粋な目で言いますね」

「恐らく、彼女が魔法を再現したけれどどれ程実力があるのか気になったんじゃないかな?」

「僕たちは慣れてるけど。ミスサンディは初めてだし。気になったんじゃないかな?」

「まぁね。そういうことさ」

(初めて見た時は私も可愛いとしか思わなかったけどな。でも、魔法を使った瞬間背筋が凍る程恐ろしくなった。魔法を使って初めて私の危機感センサーを刺激したんだ。結構この辺の感覚自信あったからショックだぜ。ちょっとでも納得できる材料がほしいとこだよ)

「あ~ね。ん~。リリンちゃんはあれ。化物」

「ハッハッハ! ドストレートすぎて笑いが止まらねぇぜ!」

 もちろんこの後他の皆がフォローした。

 リリンと才達がこの数ヵ月目に見えるところで何をして来たのかを聞く。

 その中でも一番アレクサンドラの琴線に触れたのはリリンが現れた時、警報が鳴ったという話。

 マナ量過多による警報は一種類しかないからだ。

 世界を滅ぼせる程の力を持った存在が現れた時しか起こり得ない事だからだ。

「ジーザス。オーマイゴッドネス。ハハハ。彼にお手本を見せたのは余計なお世話だったかもなぁ~」

「なんの話ですか?」

「ん~ふ~♪ なんでもないさマイク。年を取るとお節介になるもんだなって思っただけ」

(まさかワールドエンドと縁があるとは……。世界は広いね~。限りなく)

「水を指して悪いなチルドレン! こっからは飽きるまで海の旅を楽しんでくれたまえ!」

(この分だと。コロナやロゥテシアも気づいてないだけでとんだ怪物かもしれないなぁ~。その片鱗が明日見られると良いんだけど)

 何かを企むアレクサンドラ。それに気づくものはその場には一人もいなかった。

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