第195話
「クハハハハ! 久方振りに面白い畜生がいたなぁ? 今日は外に出て正解だなぁ?」
「密閉空間で大声出すんじゃねぇ」
「ふんふん!」
「……」
海水の壁に腕を突っ込んで遊んでたコロナは鼻息で抗議。ロッテは耳を塞ぐ。二人も俺と同じ気持ちか。心強いぞ。
「おう。それは災難だったな」
謝れよ。まずはよ。
アレクサンドラ曰く即席小型潜水艦をマナ酔いしないように改良してくれたのはありがたいが、それとこれとは話が別だからな。うるせぇもんはうるせぇ。
「で? 普段引きこもりがたまに外出たら良いことあったみたいだが? なにがそんなにお前をご機嫌にさせてんの?」
結構明るい性格っていうか? 暗い空気を出したことが一度もないヤツだけど。なんなら大体のことを笑って受け入れるヤツだけど。今回はなにがそんなに嬉しいのか。
「なぁに。お前があの畜生から何かしら影響を受けたのはわかっていたんだがな。ここまで器用な事をするとは思わなんだ。マナの量も他よりかは多いしな」
夜にちょっとマナで体いじってたから。まぁ、リリンなら気づくか。
なるほど。それで興味が湧いてついてきたわけね。
「お前ももう知っての通り。我らはマナさえあればいくらか力は増す。元々マナは力の塊だしな」
原理は未だ不明だが、マナそのものは色んなことに使われてるからな。俺含めリリンたちはマナを知覚して糧にしてるから。あればあるほど強いことになる。
「しかして、面白味がない。馬鹿の一つ覚えの如く。マナ=強さとなっている。詰まらん事この上ない」
簡単なのは良いことだがリリンには物足りないんだろうな。縛りプレイとか結構好きだし。……エッチなやつではなく。あ、いや。こいつのことだから実際やったら楽しみそう。
……なんてこと考えてんだろ俺。
「あれが見せたのは実に参考になる。人域魔法は目にする機会がなかったからな。なるほど。これは面白い」
「そりゃ良かったな」
とにもかくにも。ご機嫌ならそれに越したことはないわな。良かったですねー。
「そう実に面白い。何せ我が学べば更なる高みへ至るだろうからなぁ~?」
「……!」
たしかに……そうか。そうだな。そういうことか。
元々優れた肉体にマナでの身体強化や固有の能力。それが選血者。ようは生まれながら天才で、才能だけで生きてる連中。
つまりは学ぶ余地もあればのびしろもあると。それはリリンも例外じゃないと。そういうわけだわな。
とんでもねぇことに気づきやがってこの野郎。もう少し才能に溺れろっての。そのがまだ可愛いげあるわ。これ以上強くなろうとすんじゃねぇよ。
「クハハ。おいおい。お前何か勘違いしているんじゃないか?」
「……なにが」
化物がさらなる化物になろうとしてるとこになんの勘違いがあるのか。是非知りたいもんだわ。
「そこの犬と阿呆も我程でないにしろマナを知覚し扱っているだろう? であれば同じ事が成り立つ」
「あ」
なる……ほど。たしかにリリンにしか注目してなかったわ。この二人も大分ヤバイ次元だけどもっと強くなるのか……。
コロナとの戦いは当時学園内で俺もマナをあまり多く使えなかったからリリンはかなり制限を食らってた。
とはいえ、あのリリンを追い詰めるのはそれなりに逸脱した戦力がないと無理だろう。
最近は意図的にマナを込めて噛んできたりするし、可能性はありまくる。
ロッテはさらにヤバイ。俺の影響での弱体化もあっただろうし、なによりも規模を抑えて戦っていたリリンだが、それ以外は全力のリリンの体をズタボロにしてる。
物理的な威力をほぼ無意味にする影も一瞬で対応した直感力もさることながら。規模こそ小さいとはいえマナの扱いもできてやがるしなこいつ。のびしろの話をしたらリリンよりありそうだぞ。
「っ! ふがぁ!」
「マナを込めて蹴るな。追い出すぞ」
「ふんふん!」
最近一段とアクティブなコロナがアホ扱いされて怒ってる。言ったそばからマナ込めてゲシゲシしてるわ。
最近は俺の口から聞いたモノじゃない言葉の意味もかなり正確に把握するようになって嬉しいんだけど。それはそれとしてこいつの将来が別の意味で心配になってきた。
俺の記憶というか視た光景が正しければ、こいつ星一個焼き尽くしてるからなぁ~……。
その力を制御するようになったら……おおう。おそろしやおそろしや。
「マナの扱い……か。体に巡らせ、時に体外に放つ程度ならできるが。このように繊細な真似は儂にはできんぞ」
「そこはそれ。才がなんとかするだろうよ」
「なんで俺だよ。俺もまだ学ぶ側なんだけど?」
具体的にどう覚えるかって言われたらわからないけど。少なくともまだ人に教えられる段階じゃないっての。自分のことで精一杯なんですぅ~。
「クハ。簡単ではないか。見せれば良いだけだ。我らならば見れば済む。それが出来る事ならば行使する。出来なければ知識として蓄える。それだけだ」
……説得力すっげぇわ~。ついさっきやったばかりだもの。
「今夜だ。今夜我らの見ていない時に学んだモノを見せてみろ。ついでにどれ程変わったかも我が直接見定めてやる」
思い立ったが吉日を地でいくなお前は。しかもその言い方は……まぁ良い。
「わかったよ。お前の望み通りやってやる」
「ここ程。相応しい場所もないな」
「そらな」
夜。適当な理由をつけて部屋に戻り、俺たちが来たのはリリンの世界。
空気中に濃いマナはあるが、それ以外な~んにもない場所。ここなら多少派手にやっても問題はないわな。
「お~い……。やるなら早くしてくれ~……」
「……へぶちっ」
コロナを抱えながら気分が悪そうに鼻をヒクつかせるロッテ。そういやお前ここの空気苦手だったな。
無理せず帰れ……って言いたいところだけど。今回は見てなくちゃいけないからそうも行かない。耐えろ。
「はぶちしゅっ! ……ずずぅ」
……砂のせいかコロナも頻繁にくしゃみしてるし。早く済まそ。
「では始めよう。お前がどれ程我に近づいたか正確に測ってくれる」
「そらどうも。そのうっぺらい胸を借りさせてもらうわ」
「ん? 性的な意味でか?」
「んなわけ………………ねぇだろ!」
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