第153話
「……?」
深夜。いわゆる丑三つ時。
部屋の外からもう鼻に馴染んだあいつの香りが漂ってくる。
気配を探ると、なんか
「坊~……。起きてる~……?」
「………………。……すぅ……すぅ」
考えた挙げ句狸寝入りを選んだ。眠らなくても良い体だけど気持ち的に深夜にめんどうなヤツと関わりたくない。面白いことするなら朝にしてくれ。頼むから。
「寝てる……ようやね……? ……よし。おじゃましま~すぅ~……」
なんでだよ。寝てるつってんだろ。帰れよ。本当なにしに来たんだよお前。
あ、もしかして夜這い? 間接キスで大げさにうろたえてた分際で? もしそうなら調子乗んなよ? ○すぞ?(不適切故自粛)
「……ふふっ。
目つぶってるだけだけどな。気づかないもんだな。案外煙魔って騙しやすいのかもしれない。からかいやすく騙しやすい。なんてチョロいんでしょう。っていうか結構ハッキリと独り言言うなお前。
う~ん。現代日本じゃ生きてけなさそう。いざとなれば力でなんとかできるだろうけどもな。力こそ正義。
「……」
「すぅ……すぅ……」
「……ふふっ」
「すぅ……すぅ……」
「ふふふっ」
眺めてるだけ……か? 特になにもされないな。すまん。俺の早とちりだった。大人しくしてるなら特に文句は――。
「もう少し近くで見たいなぁ~……」
ん? 布団に手をかけたぞ。寝顔見るだけなら必要ねぇよなそれ。
「失礼するよぉ~……」
……もぞもぞと布団に潜り込んできた。顔向かい合わせて添い寝の体勢だなこれ。
前言撤回。調子乗んなよテメェ。失礼だと思うなら今すぐ帰れ。寝かせろ。
「はぁ~……っ! 顔近い~……っ! なんやこしょばいなぁ~……」
お前が布団に潜り込んでんだろうが。そら顔も近くなるよな? だって俺も同じ布団にいるんだもん。当然だな?
「肌……すべすべやなぁ~……」
この野郎。布団に入るだけじゃ飽きたらず顔に指這わせ始めやがった。イタズラが過ぎるぞ。……俺が言えたことじゃないけど。
ん? まさか仕返しとかじゃないよな? もしそうなら俺も甘んじて受ける気持ちはある。ちょくちょくやり過ぎてる自覚はあるんで。……下心オンリーなら話は別だがな!
「……口やわこい。ここが……私のと……」
ほっぺさわさわから今度は唇に小指を。わざんざ小指ってところがなんかこう……雅ですね? 使い方間違ってるかな? どうでも良いけど。
「……」
指を離して……大人しくなったな。もう終わりかな? 帰るか?
「…………………………ちゅ。~~~~~~~~っ//////」
この野郎……とうとうやりやがったな? 口先がちょんっと触れる程度だけどやりやがったな?
自分でやるのは良いけど他人にやられるのはムカつく。我ながら最低だが反省するつもり皆無。
かといって、俺は一度奪っている身。なのでこの一回は借りを返したってことで許してやるとしよう。上から目線なのはご愛嬌ってことで一つよろしく。
「もう一回くらい……ええよね? 坊……寝てるし……」
よし下心しかないね。お仕置き決定だわ。二回目は許してやんねぇぞ。リリンとしたような濃厚なキスをしてやる。
「ごくっ。……それじゃあもう一回――んむっ!?」
唇が触れた瞬間。煙魔を抱き寄せて口の中に舌を滑り込ませる。
激しくは動かさない。唇を押し付けてねっとりゆっくり舌を動かす。あんまり激しくやると起きてることバレるからな。あくまで俺は寝てる体は崩さない。
「んふぅ……はむ……。ぷは……っ。ぼ、坊……? ……あっ。……ちゅむ。……起ひ……へる……? ……うみゅ」
「……れろ。じゅる」
「……ぁむ。……寝へ……るん? なら……。もう少し……」
「……」
「……は……れ?」
なんか煙魔のノッて来た空気を感じたから舌を戻す。
喜ばせるためにヤったわけじゃないからな。男の布団に潜り込んで思わせ振りなことすると危ないぞってこじらせ処女に教えてやるつもりの行為だった……んだけど。
な~んか俺がまだ寝てるって思った途端向こうからも舌を絡めようとしてきた。つまり嫌じゃない。むしろウェルカムってことだろ? じゃあ続ける理由はないね。
予定では恥ずかしがるなり怖がるなりして思い知らせてやろう。って感じだったが、気分がノッたところでやめるという。いわゆる生殺しのまま放置に変更。悶々とした夜を過ごすが良い。
「……坊~? 続きしてもええんよぉ~? って、聞こえてへんか……。……ま、また、口付けたら……するかも……? ……んっ。……んむぅ」
「……」
必死に唇を押し付けてくるが、俺。無反応を決め込む。もうしてやんねぇよ。ざまぁみろ。
ただ、あれだな……。相手にバレてないって思い込んでると人って大胆になるんだね。こいつは鬼だけど。いや、角ないし……人? いやでも……。あ~もう。ややこしいな。
「……あ、あかん。……もうしてくれへん。……うぅ~。せ、折角勇気出してこんなことしてるのに。……こんなんあんまりやぁ~」
だから独り言デケェよ。起こしたいのか? バレても良いのか? 絶対お前困るだろ。そしてのたうち回るだろ。だったら起こさないように声抑えて気を付けろよ。こっちがモヤモヤするわ。
「……で、でも。口付けるだけでも、気持ちええし……。さ、最後にも、もう一度――ひゃっ!?」
だから声デカいわ。まぁ、驚いたんだろうから仕方ないけども。
煙魔が驚いたのは俺に抱きつかれたから。さっきは抱き寄せてキスをしたわけだが、今度はさせないように俺の頭を煙魔の胸のほうへ寄せる形だ。このまま抱き枕にしちまえば無理に引き剥がさないとできないだろ。
にしても。うん。やはり良い乳だ。ものすごい柔らかい。例えようのない柔らかさに煙魔の匂いも相まって普通の人間なら陶酔感で気が触れてたかもしれない。よかった~。人間やめてて。人間のままならこの極上の感触を冷静に味わう前に昇天してたよ。
……別におっぱいを存分に楽しむために人間やめたわけじゃないんだけどな。なんか悲しくなってきた。
「んむぅ~……」
「ぼ、坊……?」
「すぅ……すぅ……」
「はぁ~ん……っ! かあい~……っ! こっから見る坊かあい~……っ!」
……なんか。胸に顔を埋めた途端またテンション上がってないか? というか今一番上機嫌になってない? さっきまでキス途中でやめて残念そうだったのに。急にどうした? 情緒不安定なのか?
「寝ながらそない強く抱きついてきてぇ~。甘えん坊やなぁ~♪」
声が弾ませながら頭を抱き締めてきた……。こ、これは……まさか。
「よ~しよし。おっぱい恋しいんやねぇ~。親元離れてるもんなぁ~? 寂しいなぁ~? いっぱい甘えてええよぉ~。あ、さっきのもおっぱいと思ってしゃぶっとんたんかねぇ~? ふふっ♪
あ~……母性スイッチか。
そういやこいつ世話焼きだったもんな。そっちの気はあったわけか。
「坊~♪ 坊~♪」
だからって顕著にもほどがある。こんな分かりやすくスイッチ入るもんなの? こんなきっちり入るものなの?
「ふふっ♪ ほんま可愛いなぁ~♪」
はぁ~……。なんか……どうでも良いや。好きにさせとこ。幸せそうだし。この状態なら愛でる以外することないだろ。またなんかアクション起こして、それで変に振りきってガチの夜這いとかされたら困るしな。このあたりが妥協点だろ。
さて、もう俺は寝る。全力で寝にかかる。ちょうど極上のおっぱい枕もあるしな。よーく寝れそうだよ本当。
「坊~♪ よーちよち♪」
……好きにさせるつったけど。赤ちゃん言葉だけはやめてほしい。腹立つから。
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