第148話

「あ~……。良いねぇ~……」

 ここ数日の話。煙魔含めて鬼たちは静か。元人間の女中さんたちはその介抱に忙しいから俺の世話は最低限。

 つまり俺は超暇を持て余してる。暇潰し相手の煙魔が潰れてるから本当に暇。んで、今なにしているかというと。

「かぽーん……」※セルフ効果音

 朝風呂してます。良いご身分だな?

 ここの風呂ってやっっっっっったら広いし、つか温泉だよ温泉。しかも露天風呂。あとなぜかお湯にマナが少しだけど溶け込んでるんだよな。だからめっちゃ心地良い。

 全員ケガしてるからそもそも風呂に入れないしな。朝だろうが夜だろうが基本的に独り占めだよ。女中さんたちは完全に時間決められてるから鉢合わせることもないし。安心して風呂を楽しめるよ。

「はぁ~……。うん?」

 と、思ったんだがなんか気配がするな……。誰か脱衣所にいんのか?

 だがしか~し問題ない。誰か風呂に入っている時は入浴中の札を下げるのが決まり。俺が来てからは男子入浴中の札を作ってくれて、今それを下げている。つまり中までは誰も入って来ないのだ。

「フゥ~……。久々のお風呂やわ~……。やっとは入れる……」

 ってあ~れ~? ふっつうに入って来てるんですがこれはどういうことでしょう?

 この声は……煙魔だな。なんで入ってきてるんだ? いつの間にそんな大胆になりやがったよ。こじらせ処女。

「ふんふ~ん♪」

 おいおい、かけ湯の音まで聞こえてきましたぞ。鼻唄混じりで。

 様子がおかしいな。仮にわかってたらもっと緊張しているはず。基本奥手っぽいからなあいつ。

 ……まさかとは思うけど。気づいてないのか? いやいやそんなまさか……な。



 数分前の事。

「……ったく。もう良い言うとるが、よぉ~構いおって。寝てばっかりいたら余計鈍るもんがや」

 まだ完治はしてないものの、歩ける程度には回復した瑪頭飢。

 今は娘達にまだ安静にしていろと言われているのに、出歩いている最中。

「おっとと!?」

 足元がおぼつかず、ふらついてぶつかってしまう。

「……いかんいかん。まだ余所見できる程ではないがや。ちゃんと足元は見んとな。……っと、札が落ちとるがや」

 落ちている札を戸の横にある入れ物に戻す。戸にかけてあった物を間違えて入れ物に戻したのだ。あとはお察しである。

 となればこの後何が起こるかといえば。



「……」

「……」

 良い体してんなぁ~。

 鉢合わせて頭がフリーズしている煙魔には悪いが、最初に思ったことがこれですごめんなさい。

 いやだってさ? DかEくらいのほどよく大きな胸で、しかもロッテやコロナみたく張りのある感じじゃなくてちょっと重力にそったような? 柔らかさを主張するような? きれ~いな形に加えて、くびれた腰と細い手足。そんで病的なまでに白いリリンとは違う健康的な美白の肌。仮面はつけたまんまだけど中身知ってるし。余計に体の良さが際立ってるわ。

 率直に言って、めっちゃエロいぞこいつ。性的な魅力で言えば今まで見た中でダントツです。リリンは……強制的な発情促してるようなもんだし。ノーカンでお願いします。

 あ、ついでに煙魔さん。生えてませんでした。つんつるてんです。俺が見る裸体ってことごとくつるつるなんだけど。これは呪いか何かだろうか?

「……」

 ん? こいつまだフリーズしてやがるな。ふむ。どうしたものか。

 ……あ、『心から思った事』なら口にしても良いんだよな? ではちょうど良いのでお望み通りにしてやろう。

「お前、良い体してるな。めちゃめちゃ触りたい」

「は、え? あれ? 坊、何でここに? いやそんな事より……え? 触りた……って…………~~~~っ/////」

 おうおう白い肌が今度は全身真っ赤っか。わっかりやすいなぁ~お前。この様子じゃ本当に俺の存在にも気づいてなかったんだろうな。

「あ、あかん! い、今裸やないの! こ、こっち見んといて!」

 そりゃ裸だろうな。風呂だもの。服着て風呂入ってたら大したもんですよ。

「あわわわわ! 待ってやぁ~!」

 口元を隠す仕草の拍子に仮面に手をぶつけてあらぬ方向に滑っていく。角折れてるから支えがねぇんだな。そもそも仮面してるのに口元隠す必要ねぇだろって話けども。

「慌てても良いことないぞぉ~。落ち着けぇ~?」

「むしろ何で坊はそんな落ち着いてるん!? まったりしすぎやろ!?」

 そりゃあまぁ生女体は初めてじゃないし。あと健全な男子ではあるが人間やめちゃったもので。理性が強くなってしまったんですぅ~。だから狼狽えたくとも冷静なままなんですぅ~。

 でもさ。これでも興奮はしてるんだぜ? 面に出してないだけで。男って体の一部のせいで一発でそういう気持ちになってるってバレちまうから困ったもんだよな~。

「うぅ~……ほんまなんでおんのよ……。せめて札かけといてや……」

「か~け~て~ま~し~た~。見逃したんじゃないのか? それにかけてなくてもお前なら気配たどれば俺のことくらいわかんだろ。別に特別抑えてないぞ」

「そ、それは……えっと……ボーッとしてて……」

 口ごもる煙魔。仮面取るのも忘れてへたりこんで石床に『の』の字書いてるわ。あざといな。

「と、とにかく! い、一旦私は出るわ! ごゆっく――」

「ひっさびさの風呂じゃあ~! やっとお許しじゃあ~」

「怪我でずっと伏せてたかんなぁ~。さっぱりしてぇわ~。風呂のありがたみをはよ味わいたいわ~」

「!?」

「あちゃ~……」

 俺の知らない声が二つ。今日はやたら客が多いな。それに煙魔以外が入ってきたって事は誰か札片付けやがったな? 誰だよくだらねぇイタズラしやがって。

「ぁゎゎゎゎゎゎゎゎ……っ!」

 煙魔今日一番のパニック。仮面つけてないからかな? 身内にすら顔隠してるし。

「ど、どないしよどないしよ!」

 風呂から出ていこうか仮面取りに行こうか迷ってるっぽいな。俺に裸を見られたままか身内に顔を晒すか究極の二択的な?

 ……え、男に裸見られるのと身内(女)に顔見られるのって迷うの? そんなに顔見られるの嫌かお前。

「はぁ~……」

 仕方ないな。助け船を出してやるか。世話になってるし。このくらいはしてやるよ。

「煙魔」

「え?」

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