第88話

 コロナの実力を測り始めて五日目。もう明日には憐名との演習というところまで来てしまった。あれから色々試した結果。とりあえず形にはなりつつある。そうさな……例えば。

「おわ!? あっぶな!」

「ガルゥ……」

 多美とクテラが作り出した氷の壁を砕いたりと攻撃に転じれるようにもなった。ただし、俺の許容限界のマナをぶちこんでやっとだけどな。

 コロナの見えない鎧は注ぐマナの量で徐々に見えるようになり、射程範囲も伸びるようだ。だから攻撃するときは腕はうっすら見えてるからバレてしまうが、破壊力はこの通り。さすが巨人が着るような鎧だよ。サイズに見合った働きするわ。問題は俺の集中力が切れると防御すら危うくなるとこだな。……これはどっちかっていうと俺の問題か。

「オラオラァ! 集中切らしてんなよさっちゃん! マナ切らしてマイエンジェルコロナたんに傷をつけたら私が貴様を汚してやんぞ!」

 爆炎放射しながら怖いこと言ってんじゃねぇ! ただでさえ憐名に狙われてるっぽいのになんでお前にまでそっちの心配せなイカンのだ! それに、言われなくてもコロナへのマナ供給は切らさねぇよ! なにせ切らしたらコロナだけじゃなく俺もお前の爆破に巻き込まれるからな! 安全エリアはないしコロナは俺が近くにいないと愚図るから離れることもできねぇんだ。切らせるわけねぇだろ!?

「伊鶴だけに気を取られちゃダメだかんね。クテラさっきのお返ししてやんな」

「ガウ!」

 うお!? いつの間にか背後に回り込んでいたクテラからの礫乱射。伊鶴も未だ攻撃を続けている。ちょっとこれ不味い……!?

「ん……!」

 不意をつかれて危ないと思ったが、コロナは伊鶴への防御を最低限の具現化で阻み、腕をもう一本具現化させてクテラの攻撃を防いだ。俺なんかよりもずっと冷静だなお前。なにげにすごいぞ。両腕ともなるとさすがに元々不完全な具現化がさらに曖昧になってるが……。このあたりは俺の頑張りどころだな……。明日までにちょっとはコロナへのマナ供給マシにできると良いんだが。あと一日でどうにかできることじゃねぇぞ。

「ん~。やるねぇ。さすが絶世の美幼女。だがおねえちゃんも負けてられない! 姉は妹より強いモノなのだ! ふぉおおおおおお!」

「っ」

「時間だ。帰れ」

「おっと。あいあーい。おつかれっした~」

 小咲野先生からの授業終了の合図で一瞬わけのわからん気合いの入れ方をした伊鶴のやる気が散った。あの状態で大規模な爆発されたらマジで死ぬ気がしたから助かったわ……。

 ……にしても。姉妹あねいもうとうんぬんって言ったときに、見学してた夕美斗がピクリと反応してたのはなんだったんかね? 姉か妹でもいんのかな?



「……ふぅ」

 コロナの実力測定を始めた日から日課になってる人域魔法の練習。理由としてはまぁ。少しでもマナの扱いが上手くなればなぁ~っていう。やらないよりマシだろって感覚でやってんだけどな。

「……」

 いつも憐名と鉢合わせたあの場所でやってるんだがヤツとはロッテとコロナと出かけた日から顔を合わせてない。この場所にももちろん来ていない。俺的には会わない方が断然良いんだが、なんにもないならないで逆に不安……だったんだが。今日になって誰かが覗いているみたいだな。とうとう待ちきれずアクションを起こしたか? と、思ったが見ているだけで特になにもしてこないな。見られてるだけだとそれはそれで落ち着かないけど。う~ん。いっそ声かけるか。変なことしてきたら逃げりゃ良いしな。

「……見られてると集中できないんだが?」

「……っ!? す、すまない」

 意外なことに、暗がりから現れたのは夕美斗。どうしよう。盛大に勘違いしてた恥ずかしいわ~。そして夕美斗にストーキング(?)されてたようで軽いパニック。そういうことしそうなヤツじゃなかったから結構驚いてる。

「その……たまたま外に出るのが見えて……つい後をつけてしまったんだ。趣味の悪いことをしたと反省してる。許してほしい」

 あ、たまたま目に入って気になったパターンね。ちょっと覗かれてたくらいなら特に目くじら立てることもないしな。良かったよ他意がなくて。

「別に怒ってねぇよ」

「そ、そうか……。なら良かった」

「……」

「……」

 会話が途切れてしまった。いやまぁ話があったわけじゃないし。突然のことだったから当たり前なんだが……。気まずいな。声かけないほうが良かったんじゃないかとちょっと後悔。

「……さっきの人域魔法か?」

「ん? あ、あぁ」

 夕美斗から話題を振ってきた。うん。下手な沈黙よりそっちのが今はありがたい。人域魔法についてはあんまり触れてほしくないが。気恥ずかしいだけだし。気まずいのよかマシだ。

「すごいな。いつの間に使えるようになったんだ?」

「使えるように……って。あのくらいならお前もできるんじゃないか? 初心者用どころか子供用のだぞ?」

「いや……私は人域魔法全般からっきしでな。辛うじてマナを出す程度しかできない。それも細かい制御はまだ少し難しいかな」

 運動とか体の扱いは長けてるけどマナ方面は完全にダメなのか。俺も少し前までちょっと人域魔法使ったら出血するくらいダメダメだったから人のこ言えないけど。

「それでも先生に用意してもらった合宿でニスニルとの訓練のお陰で大分マシになった。私にとっては大きな進歩だよ」

「いや大きすぎる進歩だろ。そういやお前この前の日にち合わせた演習でとんでもないことしてたじゃん。あれ、人域魔法じゃないのか?」

 服脱いでアクロバティックな動きしながら相手の人形みたいなの破壊してたよな素手で。バイオレンスな光景だったから思い出しただけでチビりそうなんだが。

「あれはニスニルと能力だよ。マナを送ってそのぶんニスニルが私の手足に風や空気の膜を纏わせてくれていたんだ。制御は完全に向こう任せで私はただ体を動かすだけで良かったから楽なものだよ」

 いやいや……。普通の人間あんな動きなかなかできません……。少なくとも元の身体能力がなきゃ多少補助を受けても意味ないだろうからな。

「いつかは自分の力だけでも戦えるようになりたいと思ってる。ニスニルの力を借りることを恥とは思わないが。依存しすぎるのも良くないからな」

「ほぉ~ん。ご立派なことで」

「そんなことないさ。うちの妹のほうがよっぽどすごい」

「……妹がいるのか」

 やっぱり。姉妹がいるとは思ったが案の定だな。にしても妹ね。偶然だな。うちにもいる。

「……私の妹は天才なんだ。少し武術の稽古をつけたらすぐに私よりも強くなってしまった。当時はまだ私も小学生だったから余計にショックだったよ」

 これまた偶然。うちの妹も天才なんだぜ? 俺はコンプレックス感じたことはないけど。自覚がないだけかもしれないけど。少なくとも特に目の敵にしてたり、劣等感を感じたことはない。ただまぁうちのクソ親父の期待とか全部背負わされてんのが申し訳ないなぁとは思ってるけど。

「それだけじゃない。妹は武道だけじゃなく魔法の才能もあった。本気の妹を見たとき次元の違いに恐怖を覚えたよ。人域魔法の使い手や魔帝の戦いも見たことはあるが……正直妹が戦って彼らに負ける光景が浮かばない」

 そこまでか。それただの化け物じゃね? 人の妹に言うには失礼すぎるから口にはしないけど。

「でも私はその妹に勝ちたいんだ。一度で良いから勝ちたい。そのためにはニスニルに頼るだけじゃなく自分も強くならないとって思う」

「なるほど……」

 いや~人には人の事情ってのがあるもんだね。うんうん。話題には困ってたけどなに自分語り始めてんだこいつって思ったけど。なかなか興味深い話だったよ。特に天才の妹がいるってのがね。ちょっと共感シンパシー

「だから才君。今度人域魔法のコツとか教えてくれないか?」

 あ、そういう流れね。つっても人に教えれるほど俺も扱えてないんだがな。どうしたものか。

「はは……。困った顔してるね? 無理もない。明日は大事な試合だものな。余計なことを考えてる暇はないか。返事は終わってからで良いから。私は邪魔だろうからもう帰るよ。またな」

「お、おう。また」

 夕美斗は踵を返し去っていく。

 たまに思うけどあいつってなかなかおしゃべりだよな。色々コンプレックスがあるみたいだから口に出したいのかね? ま、今回はそれでヒント得られたから良いけどさ。夕美斗の戦闘スタイルに契約者の能力。そして今の俺の状況。……もしも上手くいけば俺は少しだけ理想リリンに近づけるかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る