第40話
「なるほど。確かに理に適ってる。わかりました。貴方のその案に乗ります」
「フン。ボウズには丁度良いね。この子のマナの巡りは悪くないんだが、いまいち感覚を掴めて無いようだし。無理矢理にでもわからせたいと常々思っていたところさ。これでなんとかなるならやっとこのイライラとヤキモキから解放されるってもんだよ」
「ジゼル……。お願いだから僕の事はミケって……」
「フン。半人前のボウズには名なんて大層なもんはいらないよ。このオバサンに言う事聞かせたきゃ強い雄になるこったよ」
「相変わらず手厳しいなぁ。マイレディは」
「あんたも他人にあれこれ言う前にマイレディってのやめな。あたしゃあんたの雌じゃないよ。フン!」
鼻息をフンフン鳴らしイライラを表現するジゼルに、マイクは肩を竦めるしかできない。
「グルゥ! ギャオギャオ!」
「はいはい。ありがとねぇ」
クテラはやる気を体で表現する。グリモアの力で言葉はわかるが、まだ子供なので言語などが曖昧故にこうするしかできない。
「ぐぅ~……ケケッ……」
「お~い。お話聞いてましたかぁ~? あだっ!」
「だから何したいのあんたらは……」
ハウラウランに至っては寝てしまっている。伊鶴はそんなハウラウランのお腹をつついていると尻尾で手を叩かれ反撃を受けていた。
「……」
「何も言ってくれないんだ……」
「……」
「痛い!」
八千葉は憐れにもセッコから返事をもらえなかった。
(何が強くなるだ。小娘は小娘らしく震えていれば良いものを。何のために俺が傍にいると思っているんだかな)
しかしセッコはセッコで思うところがあるようだ。決して八千葉に興味がないわけではない様子。
「各々方ご理解頂けた様子なんで。早速始めましょうかね。最初に――」
ド・ニーロはまずグループを分けた。マナの扱いがわかっている様子のニスニル、ジゼル、セッコはそれぞれに任せる事に。セッコが少し心配だが、八千葉が本気で困るような事はしないだろう。続いてクテラとハウラウランは感覚では理解しているだろうが、循環という幼い故の未経験のマナ操作となると危険極まりない。なので才がネスにやってもらったようにド・ニーロが手助けをする事にした。
(特にこの伊鶴お嬢さんのマナは膨大過ぎる。こんなのを送り込まれたらこの竜の赤ん坊の爆発はさっきの比じゃないだろうね。家を壊されるのだけはごめんだよ。いや本当)
我が家を壊されたくないのは、どの世界でも共通のようだ。
「ボウズ。全然マナが送られて来ないよ。こっちから送ってばかりじゃ循環とは言わないよ」
「ご、ごめん」
「繋がりがあるんだからそこに通すイメージだけすりゃいい。調節なんてのは後で覚えな。まずは流すことに集中」
「わかった……」
「……よしよし。少しずつ送られてきてる。フン。まったくなんで戦闘の時は雑でもできてるのにこういう時はポンコツタヌキなのかね」
「僕どちらかというと本番に強いからね」
「フン。自分で言う事かい」
(間違ってはないけどね。でもいざって時だけじゃダメだよボウズ。いつでも好きな時に日常としてできてこそ意味があるんだ。その重要性に早く気づきなよ)
脳筋なミケも体を動かすとは勝手が違うのがなかなかコツが掴めない。だがそれにはもう一つ大きな理由があるのだが、ジゼルはまだ知らない。
……。
「夕美斗。私が無理矢理循環させるから、気分が悪くなったらすぐに言って。その都度調節していくから」
「わ、わかった。よろしくお願いします!」
「じゃあまずは……このくらいを」
「……っ!?」
ガクンと夕美斗の膝が折れる。知覚してないとはいえ許容量以上のマナの循環に体がついていけなかったようだ。
「ごめんなさい。多かったようね。量を半分にするわ」
「い、いや。そのままで頼む」
「でも貴女耐えきれてないわよ」
「意識は残っている。筋トレも限界までやってこそより強い体を作る。だったら意識が飛ぶ手前くらいで良いと思う」
「……貴女やっぱり焦っているのね。無理しないで良いのよ? 貴女は……」
「頼む……。私はすぐに結果がほしいんだ……。じゃないと……」
「いつもよりも強情ね。わかった。でも量は減らす」
「ニスニル……」
「貴女が立っていられる量。それが妥協できる範囲。急いで結果を望むなら意識を保ちつつ立ったままでいてみなさい」
「あぁ。ありがとうニスニル」
「良いのよ。じゃあ再開するわ」
「く……っ!」
少し膝が揺れるがなんとか踏み留まる。
「ギリギリだけど耐えられたようね。じゃあ慣れるまではこの量で」
「すぅー……はぁー……すぅー……はぁー」
(返事する余裕はないか。でもさっきとあまり量は変わってないのによく耐えたわね。偉いわよ夕美斗)
……。
「……」
「……」
「あの……」
「……」
「えっと……」
「……」
「で、できてます……かぁ~……?」
「……zzz」
「寝ないでぇ~……」
マナの循環に入ってからもセッコは八千葉を相手にしていない……ように見える。だが実は。
(この小娘。量も密度も大したことないがスムーズに循環を行いやがる。俺の手助けなしで。これは別の意味で訓練いらないんじゃないか?)
「え、えっとえっと。とりあえず量? 増やしてみるね」
「zzz」
「だから寝ないでぇ~……」
(量は増えた。が、こんな微量の変化わかりづらすぎる……。チッ。こちらから増やしてみるか)
(あ、なんかちょっと変わった……? え……っと。このくらい)
(……送った分キッチリ返すか。さすが俺の見込んだ小娘ってところか。叩けば響くのは少し面白いな。暇潰しにもう少し付き合ってやるか)
(あ、また変わった? じゃあ、こんな感じで……)
マナの制御は頭一つ抜けている八千葉。目立たない彼女であるが次のステップに真っ先に進めそうなのは間違いなく八千葉だろう。
「セッコ? どう? 上手くできてる?」
「……」
「痛い! 爪立てないでぇ」
端から見ると苦戦しているようだが、ある意味一番スムーズなコンビであった。
……。
(ヒャヒャホホ。あっちは時間の問題かな。やっぱり問題は……)
「ギャン!?」
「あ、ごめん! 量多かった?」
「グルゥ……」
「本当ごめん。くぅ~……普段ならそのまま受け取った分放出するだけだから。こっちに送られた分送り返すとなると神経使うのかな……?」
「その通りだよ。こういうのは自分の感覚で理解しないといけないからね。余程慣れてないと難しいね。だからせめて送る量をブレさせないのが最初に意識することかな。さっきワシを経由した循環の感覚をよーく思い出して何度も挑戦してみなさい」
「は、はい……」
ド・ニーロに言われた通り何度も何度も繰り返す多美。トライする度に謝っているが、多美もクテラも諦めず続ける。
(こっちは時間がかかりそうだけど。まぁ根気よくやってるようだしコツと感覚を掴んでしまえばすぐかな。一番の問題は……)
「クケ!」
「芸術は爆発的なぁ!?」
皆とは少し離れたところにある平野から爆発が起こる。原因はもちろん伊鶴とハウラウランである。
「おーい。お嬢さん。いい加減爆発をやめてくれないか? さっきみたく家側にぶっぱなされると心臓に悪い」
「ご、ごめんなさい……」
「クケ」
爆発で吹き飛ば転がされた状態で謝る伊鶴と気にせず顎をかくハウラウラン。その様子を見て、ド・ニーロはため息をつく。
「……はぁ。こりゃ少し荒療治が必要かな?」
「怖いのは断固お断りです」
「そう言われてもね……。送られたマナを送り返すんじゃなくて爆発で消費しちゃってるからこの子」
「……デスナ」
「お嬢さんが嘗められてるのもあるし、君の存在の重要性も理解してないよこの子。いようがいまいがどうでも良いって思ってるよ絶対。いやまず存在を意識すらしてないんじゃないかな?」
「悲しくなるようなことをつらつらと並べるのやめてもらえませんかねぇ!? 辛くて心の抉れる音が聞こえるよ!」
「お嬢さんがこの子と信頼関係築いてたらこんな事言わないよ」
「ごもっとも!」
「そういうことだからお嬢さんだけ特別メニューね。ものすごく辛いけど死なないでね」
「やっぱ命関わるんですか? 怖いのは嫌ですよ!?」
「怖いというか痛いかな。うん。かなり」
「もっと嫌だな!?」
伊鶴は抗議するがまったく聞く耳を持ってもらえない。それを見て渋々立ち上がり説明を求める事にした。
「で、何をするんですか?」
「ヒャヒャホホ。な~にやる事自体は難しくないよ。すごく単純明快痛快至極。ワシと、戦うだけ」
「はへ?」
「善は急げ。早速始めようか」
「クケ!」
呆けた伊鶴を前に臨戦態勢を取るハウラウラン。何故こういう時だけは話を聞いているのか。そしてやる気満々なのか。
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