第35話

 学園へロッテについて連絡をするとすぐに了承の返信が来た。こういうところは相変わらず本当優秀だよな。対応早すぎるわ。と、なると。買い出しに行っても良いかな。ロッテも連れてくか。たしか売店は動物も入ってよかったし。ロッテのサイズ的に狭いから店外で待ってもらうことになるけど。でも少しでも時間あるときにこっちの色んなモノ見せたほうが良いだろ。

「ロッテ。ちょっと出掛けるぞ。ついてこい」

「スンスン……。うん? あ、うん。わかった。お供しよう」

 ステステ歩いて俺の隣まで来るロッテ。うん。可愛いな。出掛ける前にちょっとだけモフっとくか。

「撫でるぞ」

「え? ふぁ!?」

 頭を撫でると驚いた声を上げる。どうしたんだ? 変なとこ触ったかな?

「どうした?」

「い、いや。こういう感覚に慣れてないだけだ」

 あ~そっか。野性動物だもんな。人に慣れてるわけないか。人間よりも頭良さそうだけど、それとこれとはまた違う話だろうし。

「そっか。すまん。次から確認取ってから触るよ」

「気にすることはないが、そうしてくれるとありがたい」

「じゃあ早速だけど。もう少し撫でて良いか?」

「う、うん……。どうぞ」

 許可を頂いたのでナデナデ。うん。ものすごく触り心地が良い。仲良くなったら抱き締めさせてもらおう。俺はそう決心したぞ。

「我と比べて随分優しい扱いをするな? 触るのが好きなら我でも良かろうよ」

「お前とロッテじゃ触り心地が違うだろ。あと意味が」

 たしかにお前はお前で気持ちいいけどな! スベスベだしやわやわだしぷにぷにだし。だが絶対性的な意味が出てくるから極力お前に触りたくない。その点ロッテはそういう意味がまったくないただただ癒されるだけだから良いわぁ。安心のモフモフ。

「フム。羨ましいな。我も触られたい。遠慮するな。どこでも触って良いぞ」

「断る。お前にそういうことするのがもうグレーゾーンなんだよ」

 つかどこでもってなんだよ。他意はないとしても不穏な発言だぞやめろ。

「まぁ、端から期待していないがな」

「さ、才殿は儂が良いようなのだ。諦めるが良いぞ。えへへ」

 尻尾をブンブン振り回しちゃってまぁ。そんなに撫でられるの気持ちいいのか? もう犬が板につき始めてるよこの子ったら。

 さて、撫でるのはこのくらいにして買い出しに行かないとな。

「じゃ、いくぞ」

「あ……。うん……」

 名残惜しそうにしゅんとする。よし後でまたナデナデしてやるからな。覚悟しておけよ。



「おや? 久しぶりだね少年」

「そう……っすね。久しぶりっす」

 少なくとも病院で一週間。さらに五月の頭の長期休みもほぼ全部あっちにいたから二週間は来てないんだな。

「今日はまた違った女性レディを連れているね。始めまして麗しい君」

「……グルゥ」

「……ええ。最近契約したんです」

 最近つかついさっきだけどな。つか威嚇するんじゃないの。いくら知らない動物だからってダメでしょ。頭を横から俺のほうに寄せて腰と手で挟んだら唸るの止めたからまだ良いけどさ。

「今日はいつものとは別にこいつの食える物も調べようと思って」

「そうかい。とはいっても……」

「あ、店の外に待たせとくんで。良いよな? ロッテ」

「子供扱いか? 儂とて長いこと生きている。大人しく待てんほど小娘ではないぞ」

「そらそうか。いらない心配だったな。ってわけなんで適当に選んで後で部屋で色々試す予定っすわ。無理そうなのはリリンにでも食わせりゃ良いし」

「はっはっは。あの女性レディなら喜んで処理するだろうね。おっとまた失礼な発言だったかな? 年を取るといけないね」

「あいつにその手の気遣いは必要ないですけどね。ある意味女らしさのないヤツなんで」

「はっはっは。いやこれは私の問題だよ。女性相手への気遣いは忘れたくないんだ」

「そっすか」

 じゃあこれ以上はなにも言うまい。

 さて、それじゃ俺は買い物を済ませるとするかな。ロッテは犬だしチョコとかは少な目にしとこうかな? 代わりにサラミとかソーセージとか買うか。あ、ソーセージってオニオンエキスとか入ってたっけ? となると……。

「わ~! おっきなわんちゃん! か~わ~い~。毛もキラキラしてるぅ~。誰かの契約者かな?」

 商品を物色していると知らん女子に絡まれてる。動物好きなのかね? だとしたらまぁロッテの見た目じゃ絡まれて当然か。

「……フン」

「ツンっとしちゃってこれがまたかわいい! 触っても良いかな? 良いよねぇ~♪ ほらわんちゃんこっちおいで~。おねえちゃんがナデナデしてあげまちゅよ~」

「ちょっとアンタやめなって。危ないよ」

「大丈夫大丈夫。私ん家犬飼ってたし。私のナデナデにかかればどんなわんちゃんだってイチコロ――」

「……っ。気安く触れるなっ!」

「え?」

 ロッテが背筋が凍るほどの圧力プレッシャーを放つ。縮んでもこの殺気は変わらないな! クソ。あの女子共なんで目の前で受けても平然としてるんだよ!?

「ロッテ! 止まれ!」

「グルァ! ……!?」

 ロッテは慌てて距離を取る。俺の制止の声を聞いたからじゃない。間に割って入ったヤツがいたからだ。

「やれやれ。随分と気の荒い女性レディのようだね? こちらではもう少し落ち着いた方が良いと思うよ」

 割って入ったのは売店の店主。あ、あれ? さっきまでレジのほうにいなかったっけ?

「寅次さん? いつの間に目の前に?」

「君も。不用意に異界の者に触れようとしてはいけないよ。触れることが侮辱で殺されて当然という世界もあるんだ。召喚魔法に関わるならこの程度の注意は基礎の基礎だよ」

「ご、ごめんなさい」

「ほらだからやめなって言ったでしょ。行こ」

「うん……」

 女子生徒と連れは注意されるとその場を去っていく。だがロッテと寅次(今名前初めて知った)さんの間には未だに緊張感が流れている。むしろロッテは圧力を増しているぞ。

「やはりお主その手の者か。上手く力を隠しているな。底がまったく視えん」

「君もね女性レディ。……そう殺気立たないでくれないか? もう彼女達は行ってしまったし。怒りの矛先をこちらに向けないでくれ」

「戯れ言を。儂が怒りを向けていると本気で思っているのか?」

「いいや。得体の知れない相手に警戒してるんだろう? それくらいはわかるさ」

「お主……。わかっていて言ったのか?」

「おっと怒らせてしまったかな? だがそれでも収めてくれ。こんなところで暴れたら君の契約者に迷惑がかかるよ」

「ぬ……」

 チラリと俺に目線を向けるロッテ。俺の表情が険しかったのを見て圧力と臨戦態勢を解いた。良かった。見た目に寄らず理性的なヤツで。

「ロッテ。すぐ助け入らなくて悪かったよ。俺がすぐに声かけたら良かったな。このおやっさんも別に悪い人じゃないから警戒しなくていいぞ」

「……主がそう言うなら。儂もすまない。先のことを考えずに動こうとした反省する」

 しゅんっとするので頭を撫でてやる。控えめだが尻尾がパタパタ振られているので機嫌はある程度直ったようだな。

「えっと。寅次さん? もすみません。騒がせちゃって」

「いいや。こちらに来たばかりでは仕方ないさ。彼女達も一ヶ月学園にいるのに注意力が足りなかった。それに、彼女にも触られたくない理由があったんじゃないかな?」

「……っ! よ、余計な事を……!」

「おっと。それよりも買い物は良いのかい?」

 ロッテが動揺したところを考えると図星か。でも知られたくはないと。それを察した寅次さんが話題をズラしたって感じか。スゲェなダンディ紳士。一瞬で気を回しすぎだぞ。口を滑らせたのは如何なものと思うがね。あと今さらだけどロッテって雌なんだな。どっちか判別ついてなかったけど女性呼ばわりされても否定しないし。今のうちに知れて良かったな。後々異性にやってはならないことをする前で。犬だからあんま気にしなくて良かったかもだけど。



「だぁ~。ぢがれだぁ~……。おがじ~……。おがじをめぐんでぐれぇ~……」

「……気持ちはわかるけど。隣で変な声出すのやめてくんない? 正直ウザい」

「酷いなタミー! 同じ地獄を味わった仲じゃないか!?」

「だから気持ちはわかるけどって前置きしたじゃん。もう良いから黙れ。黙って買ってこい」

「ヾ(@゜×゜@)ノ……ってあれ? やっほーさっちん。おひさ~」

 買い物を済ませたら賀古治と宍戸司に遭遇する。宍戸司はともかく賀古治は面倒だな……。

「露骨に嫌そうな顔するなよマイフレンド。久々に会ったんだ熱いハグを交わそうぜ?」

「断る」

「チッ。やっぱりかペド野郎。やっぱりちっぱいが良いのか。あぁん?」

 誰がペド野郎だ。胸は……たしかにお前そこそこあるけど。平均からしたら背はちっちぇじゃねぇかこのちんちくりん。リリンは雰囲気は大人だから総合的にどっこいだからなお前。

「グルル……」

 またロッテったら威嚇して。人見知りの激しい犬か。……犬か。

「どわぁ!? ビックリしたぁ!? なんでこんなところにお犬様がいらっしゃる!?」

「いやいやなんで驚いてんのよ。目に入らない方が無理な話でしょ」

 ロッテ大きいからな。これでも大分こじんまりしたけど。本当なんでそんなに驚けるんだよお前。相変わらず騒がしいヤツだわ。

「でも本当にどうしたの? 新しい契約者?」

「あぁ。休みの間にちょっとな」

「ふ~ん。どうも。宍戸司多美です」

 ペコリとお辞儀をして挨拶をする宍戸司。見た目に反して礼儀正しい。さすがのロッテも礼には礼を返すがごとく挨拶をする。

「才殿の同胞か。儂はロゥテシア。ただの森犬だ」

「じゃあろっちんだね! ろっちん!」

「気安く変な名前で呼ぶな!」

「ご、ごめんって~……」

 怒られて宍戸司の後ろに隠れる賀古治。名前もじられるの嫌なのか。なんか立場を利用して悪いことしてたみたいだ。

「なぁ。俺も名前ちゃんと呼んだほうが……」

「お、お主は良いのだ! お主は儂よりも明確に上位者なわけだし。それに。それに……」

「でもよ……」

「い・い・の!」

「お、おう。そうか」

 本人が言うなら良いか。俺は短いほうが呼びやすいし。

「へぇ~。休み中に契約したにしては仲良いんだね」

「ケッ。ロリの次は獣かよ。歪んだ性癖してんなド変態め」

「儂の前で才殿を侮辱とは良い度胸をしているな小猿。その喧しい減らず口、薙ぎ取ってやろうか?」

「ごめんって~……」

「ま、まぁ落ち着けよ。あいつも本気で言ってるわけじゃないから……」

「儂も本気では言っておらんよ。……半分は」

 半分本気でどのあたりまでやるか気になるようなならないような。……うん。気にしない方向で行こう。

「冗談は置いといてさ? 今夜の夕食また集まらない? 休みの間何してたとか色々気になるし。ミケちゃんも寂しがってたしさ」

 めんどくさいって思ったけど。ミケか。そういやメール来てたけどまだ見てねぇや。あまりにも量が多くて。直接顔会わせたらあれ読まなくても良いかも?

「わかった。じゃあ俺買い物終わらせたいから」

「うぃ~。私らもつまめるもの買ったら一度部屋に戻るから。また後でね」

「じゃね。天良寺」

 さて、一度部屋に戻って荷物置いたら食堂に向かうか。このまま行っても別に良いけど。リリンも連れていかないとだし。あいつがいるだけで会話の矛先変えたり帰る理由作ったりできるからな。滅多に分かれて食事はしないが、今回はその滅多がないように絶対引っ張ってくぞ。

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