第23話
「バルゥ。お迎えにあがりました」
「フム。ルィーズか。てっきりグリセリが来るかと思っていたが」
「……実はついさっき母ちゃんの近くで爆発しちまいましてな。それで今謹慎中なんですわ。そうでなくともホイホイと外に出せるヤツじゃございやせんがね」
「クハハ。なるほどな。たしかにヤツが
家畜場とリリンの庭を管理していたらしい男が死んだあと。その部下らしき男たちも処理していたところに先程のルィーズというブルドッグ頭のおっさんが迎えに来た。
初っぱなの爆発しましたなるほどなの意味はわからないが、そんな大規模爆発をポンポン起こしそうなのが来なくて良かったよ。いや本当。
「そいでどうしますか? まだご用がおありならエイツのところで待っておりますが」
「いや、構わん。もうやることは終わった」
「さいですか。じゃあ行きましょう」
「すまんな」
八頭車の中で突然謝罪してきた。お前が謝るなんて珍しいな。だが謝るにしても前置きがないからなんのこっちゃわからんぞ。
「なにが?」
「本来ならばお前に畜生をくれてやろうと思っていたのだがな。全部汚れていているわ疲弊してるわで使えそうなのがいなかった。だからすまん」
「いや、別に謝んなくて良いわ……」
家畜……つか俺から見たら奴隷って感じか。そんなもんあてがわれても困るっつの。むしろあの惨状を見せたことを謝れ。トラウマもんだぞボケ。今だってぐったりしちまってるわ。
「そうか。お前にくれてやれるモノがそれしかないと思っていたので心苦しいんだがな」
「俺はお前に心があったことにビックリだよ」
「何を言っている? 当然ある。でなければ暇だの面白いだのといったことも感じまいよ」
「……それもそうか」
でなけりゃお菓子食いながらゲームとかやらんわな。あと発情したりもしないか。あれ? いっそ心を無くしてくれたほうが俺的には平和なのではないだろうか?
「……それにしても本当に仲がよろしいようで」
「はい?」
恐らく俺とリリンのことを言ってると思うんだが、ルィーズさんどこをどう見たら仲良しに見えるのかな? 僕わかんない。
「姫さんに向かってそんな態度を取っていて生きている生物を見るのは初ですしな。にも関わらず、失礼ですが戦力が高いとも思えませんで。こちらからしたら不思議なこととしか言えませなんだ」
「そんなこと言われても最初っからこんな感じだしなぁ~……。俺からしたらこれが普通と言うかなんというか」
「それがまた異常ですな。姫さんを前に平然としてられるのは母ちゃんくらいかと思ってましたし。案外坊っちゃんは大物なのかもしれませんなぁ~」
坊っちゃんって……。まぁ良いけど。
「勘違いするな。そいつは我の力量をまったく測れてないだけだぞ。加えて見た目で判断してしまうからな」
「いやなんかスゴいのはわかってたぞ?」
試験の時魔法師をあっさり縛り上げるの見たら強いことくらいわかる。細かいことはいまいちピンと来ないしあのときは特に現実感もなかったけど。
「漠然とだろう? その後の態度も変わらんかったしな」
「……なんだよ。お前俺にへりくだってほしいのか? 気にしてないように思ってたんだけど」
今さら態度変えるつもりもないけどな。
「フム。我はそもそも態度で判断せんよ。気に入ったか否か。好きか嫌いかと言ったところだな。お前の態度は新鮮ではあったが、マナの方が我にとっては重要であるし」
「マナですかい? 出ている量が少なすぎて生きてるかも疑問だったんですが」
酷い言われよう。へぇへぇどうせおいらぁ落ちこぼれでございますよぉーだ。
「クハハ。まぁ嗅ぐことしかできん貴様ではそうだろうな。視れたり触れたりできればこいつの存在の歪さはよくわかるぞ」
こっちはこっちでまた酷いな。泣くぞコラ。いやお前からしたら誉めてるんだろうけどさ。
「まぁそのあたりはヤツと会ってからだな。そのために連れてきたのだし」
「バルゥ。なるほどなるほど。話が見えて来ましたな。たしかにそういう意味なら母ちゃんの訪ねる理由もわかるってもんですわ。……ただ、姫さんが興味を持つどころか気に入るレベルとなると母ちゃんが暴走しないか心配ですな」
「そうなれば我が止める。貴様らでは瞬きすら許されんだろうしな」
「おっしゃる通りで。あの屋敷での一番の珍獣猛獣ですからな母ちゃん。一番外に出しちゃいけねぇ生物ですわ」
「クハハ! 違いない。我とて油断すればいつ喰われるかわからんようなヤツだ。まぁまだ至らんだろうが、同時に楽しみではあるな」
あのさ。なーんでちょくちょくそう不安になるようなこと言うのさ。
お前がこの世界でも油断できないってそれこそ世界滅ぼせる可能性ある人ってことだろ? お前が油断とは縁遠いことは知ってるが俺を脅すようなことを言うのはいい加減やめてくれ。
「やぁやぁ。いらはいいらはい。我が屋敷へようそこいらっしゃいましたリリンちゃん」
八頭車から降りると出迎えたのは古くさいファンタジーに出てきそうな魔女だった。
ボロボロの赤黒いローブにエナンだったか? 黒いとんがり帽を被ってる。赤い髪は腰ほどまでありウェーブがかかってるのかそれともボサボサなのかわからない流れ方をしている。
このテンプレ魔女がリリンたちの言ってた人……なのか? 思ったよりも普通に見えるが……っといけないいけない。見た目で判断してたらまたリリンにバカにされるわ。珍獣共から母と呼ばれてるヤツがまともなわけねぇ。しっかりしろ俺。吐き気と戦って疲れてても頑張れ俺。
「いや本当に久しぶり。会いたかったんだよ? ねぇいい加減その体いじらせてくれない? どうせ痛覚ないんだし。ね? 良いでしょ?」
早速狂ったこと言い出した。なんで正面からそんなこと言えんの。了承するわけないじゃんバカじゃないの?
「前々から言ってるが力ずくでやれ。我を屈伏させることができれば好きにして構わん」
「意地悪ぅ~。私がリリンちゃんに勝てるわけないじゃん。ケチなこと言わないでさ。血とか少し分けてくれるだけでも良いんだよ? リリンちゃんの濃厚なマナを含んだ血が一滴でもあれば私の存在の格は三つは上がるんだよぉ~。ねぇねぇ、お~ね~が~い~」
パッと見妙齢の女性が幼女におねだりするのはなんとも言えない気持ちになるな……。リリンのが年上らしいけど。
「まぁそれはそれとして。この子はどなた様? なんかすごいそそるマナをしてるんだけど」
お辞儀の状態から無理矢理上を向いたような姿勢で見上げてくる。目がかっぴらいててさらに帽子で影になってるせいでめちゃめちゃ怖い。
「フム。そのことについて貴様を訪ねたのだ。少しばかりこいつを視てほし――」
「へぇへぇ! 良いね! 良いよこの子! なんだこのふざけたマナの密度にグチャグチャな
「は? いや、あの。嫌です」
「ど~う~し~て~!!?」
そんな悲壮感たっぷりの顔されても……。手足爆散させろと言われてはいわかりましたと受け入れられるわけねぇだろ。やっぱバカだろこの人。
……ただ、ちょっとジロジロ体を見回しただけで俺のこと言い当ててるみたいだ。リリンの言う通り魔法の専門家というのもあながち間違いではなさそう。少なくとも地球の魔法学なんかよりもずっとずっと先を進んでいるはずだ。そうでないとマナを視るなんて芸当できるわけない。
「フム……。言われずとも興味を示したのは良いが、落ち着け。焦らずとも貴様には色々やってもらいたいとは思っている」
「え? この子いじらせてくれるってこと? バラして良いの? あ、安心して。殺しはしないから。場合によって麻酔とか痛覚遮断しないで中身かき回すから死にたくなるくらい痛いかもだけど絶対死なせないから。よし。今すぐ始めようか」
「ふざけんな。絶対嫌だわ」
「な~ん~で~!!?」
なんではこっちが言いたいわ。あんたの言ってることってつまり生き地獄じゃねぇか。容認できるかバカ。
「バラさせるつもりはないが。とりあえずこいつのラビリンスはいじってもらいたいとは思ってるぞ。マナを使えるようになってもらわんと色々不便でな」
「むぅ~ふぅ~♪ 良いよ良いよ~。それだけでも十分そそる案件だよ~。あ~興奮してきた! やる気とアドレナリンが溢れんばかり!」
鼻息荒く張り切りだすのは良いが大丈夫なんだろうか? 魔法師を目指してる身としてはマナ使えるようにならないといけないのは大前提だからなんとかなるならしたいけどよ。
「そうと決まれば善は急げだ! 屋敷に入ろう! あ、自己紹介がまだだったね坊や」
魔女は屋敷に向かう足を止め、踵を返して帽子を脱ぐ。よく見るとやつれてはいるが綺麗な顔をしてるな。
「私は自称魔女。自称魔法の専門家であり研究者。ここではネスと名乗らせてもらってる。それと君の世界ではかつて魔帝と呼ばれていた元魔法師さ」
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