16頁目 試験終了と旅立ち
無事
「お疲れ様。二人共ちゃんと出来たみたいで良かったわ」
「よく言うぜ。俺達が戦っている間、本広げてたの知ってるんだぜ」
「
「
「はいはい。チャロンも良くやったわ」
「は、はい! ありがとうございます」
セプンと軽口を叩き合いしつつ、チャロンにも労いの言葉を
「とんでもない冒険者が現れたわね」
「はい、そうですね。『
「それも良いわね。ふふふ、早速二つ名でも考えようかしら?」
後ろでギルド職員が、何やら怪しい相談をしているが、とりあえず卒業試験の結果は無事卒業ということで良いらしい。
二つ名などに関して私は関わらない。ただ、本人が
この世界に来て、冒険者生活もそこそこの期間活動していた訳だが、この二つ名というのは、どういった理由や経緯、また、どんな名が付けられるか未だに分からない。私の場合は、友人であるジルが別れ際に贈ったと、本人から衝撃の告白を受けた。他の人もそうなのだろうか? ジルの二つ名『
「まだ、ようやく新米を卒業しただけよ。それにあなた達も散々言っていたでしょ? 彼らは、まだ依頼を何もこなしていない。ここからはあなた達の仕事よ。ここから育つか
「分かってるわよ」
目の前では、四人の駆け出し冒険者がお互いに、初めての
「私はもうこんなのゴメンよ。せっかく自分自身を
「えーでも、この短期間で新米を卒業まで持って行くことが出来た
「思わないわ。私は早く旅に出たかった。だから、裏技のような手を使って、
経験に
「だから、ここからは、あなた達の仕事なのよ」
「……分かったわよ。これ以上は背負わせないわ」
「元より背負うつもりもないわ。私の背にあるのは、大事な物が詰まった背負い袋だけで十分よ」
「強情ね」
「あなたのせいよ。二度と友人である私を失望させないで。道は示したわ。訓練の仕方
そう言い残して、四人の元へ歩く。
「さぁまだ終わってないわよ。
「はい教官」
「おう!」
「は、はい」
「……心得ている」
その後は、彼らが
剥ぎ取りが終わってからは待機していた馬車にまで戻り、ルックカへと帰ることとなった。その道中、新米を卒業したばかりの駆け出し冒険者四人は緊張が解けたのか、疲労を自覚してか激しい揺れの中、身を寄せ合って眠りに付いていた。
これから彼らが歩む道が、平坦な物か苦難な物になるかは分からないが、後悔することのない道を選んで欲しい。
しばらく揺られていると、ルックカの北門が見えてきた。ただぼんやりと座っていると長い時間に感じたが、寝ている彼らからするとほんの
「それじゃあ、私達はギルドに戻るわ。あなた達は、明日ギルドまで来なさい。新米を卒業したことを証明した新しいタグを
「あ……」
そういえば忘れていた。
「シア? どうかした?」
「いや、私、タグまだもらってなかった」
「……え?」
冒険者再登録の為にギルド行ったら、あれよあれよという内に教育係に任命されてしまい、以後も無免許のまま指導をしていた。
訓練の合間に、依頼受注などの冒険者業務もしていたが、通常なら本人であることを証明する為に木札と共にタグを出すものだ。しかし、一〇年のブランクかそれをすっかり忘れており、またいずれの依頼受注の際も職員はタグの確認を指示せず、全て顔パスで行っていたので気付かないまま三ヶ月が経過していた。
タグとは、冒険者登録を行った者が、ギルドから支給される身分証明書のような物だ。薄い金属の板に、所属ギルドと種族、名前が
前世でも、軍隊に所属する人が身に付けている物で、
理由として、戦死や、負傷して動けないなど、自力での帰還が困難もしくは不可能の場合に、仲間の兵士が二枚の内一枚を持って上官へ報告する。つまり認識票が一枚しかない場合は、既に報告へ動き、対応をしている、もしくは対応を
この世界ではタグと呼ばれ、二枚一組で支給され、同じような使われ方をしている。冒険者を引退する際は、所属のギルドまで戻り
忘れていた私も悪いが、それに誰も気付かずまた受付の際に確認を怠ったギルドも悪い。ということで、今回はお
「じゃあ、私も明日ギルドへ行くから用意をお願いね」
「大丈夫よ。今からでも」
「……何で?」
「あなたのタグ、残してあるから」
「……何で?」
「いつか復帰すると思って」
「復帰して欲しいという願いじゃなくて?」
「どっちでも良いのよ。こうして戻ってきたんだから」
「それで渡し忘れるってどうなの、ギルド長」
「うっかりよ、うっかり」
「はいはい、じゃあ今から行くわ。では解散よ。今日はお疲れ様。ゆっくり休んで明日に備えてね。ここからが、本当の冒険者生活なんだから、最初から
ここで言葉を切り、少し
「明日は私も立ち会うから、ちゃんと起きなさいよ?」
「「「「はい!」」」」
去って行く四人の背中をしばらく見つめた後、私はジルとイユさんと一緒にギルドへと向かった。
ギルドに着いた後にジルはそのままギルドの奥、
「何でこんな
「あなたがいつ戻ってくるか分からないでしょ。だから何十年でも状態が変わらないようにして保管していたのよ。もちろん、保管前にはしっかり職人さんに
「手を掛けすぎよ……」
本当にこの友人は、変なところでいつも全力なのだから。
タグを受け取った私は、その足で宿屋へ戻った。そして、荷物をまとめ、不要となったライトメタルや小飛竜の防具を残して部屋を出る。
一階の食堂へと降りると、まだ夕方前ということもあり、客はまばらであった。私は店主へ声を掛けて宿を出ることを伝える。
「そうか、行くのか」
「はい、短い間でしたが、お世話になりました」
「分かった。約三ヶ月分の宿泊費だな。四.一七ロカンだ」
「一泊で一キユですか。安くないですか?」
銅貨のトルマが一枚当たり五〇円だから、それが三〇枚分の銀貨一枚、一キユは一五〇〇円分となる。食事は別料金だからあくまで泊まりのみの値段であるが、それでも随分と安いと思う。しかし店主は首を振って口を開いた。
「いんや、一キユで良い。こちらも色々と楽しかったしな。その礼だ」
「お礼は言葉だけで良いですよ。はい」
そう言って、入道店主のゴツい手にお金を置く。
「おい、これ六ロカンあるぞ」
「チップ代わりです。それが嫌でしたら、伝言と
「……何だ?」
「明日、私の元教え子達がここを訪れるかもしれません。その時に、私の泊まっていた部屋に、私が昔使っていた防具が置いてあります。まだ新米を卒業したばかりの彼らでは、満足に防具を
「おい、まさか、あいつらには……」
「急ぎますね。門が閉じてしまうと、今日中に出発出来なくなりますので」
「お、おい! フレ吉!」
「フレンシアです♪」
笑顔で言葉を残し、固まる店主を置いて宿を出た。
民族衣装に身を包み、その上には父の形見の
門の前に到着すると、今まさに閉じられようとしているところであった。
「すみません! 出ます!」
「お? 何だ、エルフの
「いえ、王都に行こうと思いまして」
「もう暗くなって危険だぞ?」
「大丈夫ですよ。なんて言ったって私は『迅雷』ですからね」
「そうだったな。嬢ちゃんなら大丈夫か。じゃあ、気を付けてな」
「はい、ありがとうございました!」
そして、門を潜ろうとしたその瞬間、後ろから「教官!」と叫ぶ声が遠くから聞こえた。
突然のその声に思わず足が止まりそうになったが、私はそれをグッと
門を
次の目的地はここから東のキダチの森を抜けて、いくつかの村々を通り過ぎた先の王都。一〇年前まで私が主な活動の
ちらりと後ろに視線をやる。次にここに戻ってくる時は、また引退を決めた時だと思う。
「さようなら」
その
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