10頁目 訓練の反省会と今後の方針
戦闘訓練を行い、新米冒険者四人の内の三人が昏倒して、最後の一人が降参したことで訓練は終了となった。
「それじゃあ、怪我人の治療をするから、気絶してる人を起こしてきてね」
「……分かった」
一足先に、左足の治療を終えたセプンは、その足で気絶した三人を起こしに草原の中を歩き回っていた。その間、私は離れた木に立てかけておいた矢の
「全員集まったぞ」
「ありがとう。それじゃあ、怪我の治療をしながら反省会をするので、固まってね」
全員が、近くに寄ったことを確認して、手短に
「嘘、短縮詠唱?」
「じゃあ、とりあえず皆、演習お疲れ様。何とか吐かずに最後までやりきることが出来たようで、良かったわ」
コールラの驚きの声を無視し、四人に
ちなみに、短縮詠唱も簡易詠唱も似たような物だ。その他にも短文詠唱や詠唱
これは本に載っていることもあまりない。
これを極めて更にもう一歩踏み出すことが出来れば、無詠唱へと辿り着くことが出来る。どちらにせよ、無詠唱を除く、他の短縮、簡易、短文、破棄のことをまとめて、短い詠唱の魔法ということで
「さて、じゃあ一人ずつ良かった点と悪かった点を挙げていこうか。と言いたかったけど、皆は多分それどころじゃなかったと思うから、今日は私が総評するわね。じゃあとりあえず座って」
木々の周辺は、草花が少なく、座ったところで草が身体を隠すこともないので問題ない。
「じゃあ、まず全体で良かった点。一日であれだけの連携に仕上げたのは
一同コクリと頷くだけ。
連携が良かったと
万年新米でいるつもりなら、話は別だが……彼らは、こんなところで足踏みをしているような器ではない。ならば、乗り越えてもらうしかない。
「セプンの奇襲の
一通り良い点を挙げて
「教官、良い点は分かったわ。じゃあ悪かった点は?」
やはり、この場で真っ先に質問をするのはコールラだった。委員長キャラっぽく挙手をしてから発言して欲しかったと思ったことは内緒だが、まぁいいかと質問に答える。
「連携の練習不足。後は体力を付けること。以上」
あまりにも簡潔過ぎて、四人とも絶句したようだ。そもそもエメルトはほとんど
「はぁ? んな訳ねーだろ! だって、あんだけ攻撃したのに、全然当たらなくて……」
「そうよ! 矢の数が一〇本しかなかったし、剣を抜いたのは最後だけってセプンが言っていたから、教官が攻撃したのは、わずか一〇回! それで
「よく見ていたわね。矢筒の矢の本数まで頭に入れていたとは。観察力も高いということで、花丸を上げるわ」
「ふざけないで!」
「ふざけてないわ。相手の得物、攻撃手段、そして弱点。少ない時間で、より多くの情報を手にしておくことは戦いの基本よ。私は木の枝……まぁ、この場合、矢と言うけど、矢の本数を制限していた。つまり、その本数をどうにか
「んなこと出来る訳が」
「出来なければ、これが実戦だったらあなた達、全員死んでいるわ」
「「「「っ!」」」」
「良い? いつでも自分達が有利な状況で戦えるとは限らない。不利だから待ってくれというのは出来ないのよ。いつでも一発勝負。だから生存率を上げる為に、少ない時間でより多くの情報を得ることが大事と言ったのよ。まぁ情報を集めるだけじゃなく、それを仲間で共有し、かつそれを生かす立ち回りをしなければ意味ないけどね」
前世の世界で言う、宝の持ち腐れというやつだ。まさに情報は宝。前世でも今でも情報はお金で買える。つまり、お金以上の価値があるのだ。
更に改善点についてもう少し補足する。
「その為には、今のままの体力や筋力では全然足りない。
何事も
良かった点と悪かった点を総評し終え、各々の能力を見た時に、やはりコールラが頭一つ抜けている印象だった。
「観察力。自身の体格を生かした武器とその立ち回り。そして多彩な攻撃手段。魔法の使い方。おそらく、この中で一番に新米を卒業出来るのはコールラかもね」
「え?」
「槍だから中衛ということに
「う、うす」
「はい」
「は、はい」
「……ん」
「じゃあ、まずは毎日走ろうか。剣術だ魔法だ
「げぇ」
「距離や速さは求めないわ。持久力を付けることが目的なのだから、その時間を走りきることを念頭に置いてね。その後に筋力強化。それから訓練よ。技術とか魔法とか。これを……そうね。三ヶ月続けてもらおうかな」
「三ヶ月……三ヶ月で、あたし達は使い物になるということ?」
「少なくとも、新米卒業が出来るくらいになるということは保証するわ」
「え! たった三ヶ月でか!」
「その間、何か依頼をこなしたりとかは?」
「ないわ。私が依頼で、訓練を見ることが出来ないことはあるかもしれないけど、
「で、でも、その、ワタシ達も、その、
「大丈夫よ。あなた達の世話係を押し付けたのはギルドよ。じゃあギルドに全部
すると、四人はそれぞれ顔を見合わせて、笑い出した。
突然のことに、思わず目を丸くしてしまう。一体どうしたというのだ。どこに笑う要素があったのか。自身の言動を振り返るが分からない。ただ、
「あんた、いや、教官。あんたとんでもない奴だったんだな。まさか俺らの生活費をギルドからぶん盗るとか」
「そうよ。訓練をやって依頼をやってじゃ効率が悪いわ。やるなら短期間でみっちり。じゃないと効果が現れないわ」
「だからと言ってもなー」
「そうね。あたし達をこんな鬼教官に押し付けたギルドに責任があるんだから、しっかり面倒見てもらわないとね。何せあたし達、新米だから」
「……うむ、異議なし」
「え、えと、訓練、頑張ります!」
流れから
とりあえず今朝の戦闘訓練で、それぞれの課題は見えたので、早速演習場に行って訓練だ。流石に、草原の中で炎や風の魔法をバンバン使わせる訳にはいかない。そう思い、所々焼け
さて、せっかく鬼教官の称号をいただいたことだし、その名に恥じぬ鬼っぷりを発揮するとしよう。エルフだけど。いやハーフエルフだけど。
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