カード・トリック4(会計詐欺)

@stdnt

第1話

年も押し迫った12月31日の夜。

街の片隅で一人の手品師が見世物小屋をたてていました。

「さあさあ、みなさん、不思議なカードの時間ですよ。」

とはいったものの、お客はカップル一組です。

「これから、消失トランプのマジックをしますからね。」

おもむろに取り出したのはボロボロのトランプ。

「今から10枚、取り出しますからね。よく見ててくださいね。

そして、このマジックにひっかかったら、お気持ちをくださいませ。」

そういって、手品師は一枚ずつ、トランプをテーブルに重ね始めました。

「1枚、2枚、3枚・・・」

4枚目まで重ねたところで、突然、年明けのカウントダウンがどこかで始まりました。

「5!」「4!」「3!」・・・

突然のことだったので、カップルはビックリして周りを見回しました。

手品師はカードを重ね続けています。

「6枚、7枚、8枚、・・・」

10枚まで数えてから、いいました。

「さあお客さん、この10枚のトランプにおまじないをかけますよ。」

怪しげな手つきを見せて、言いました。

「トランプを数えてみてください。1枚だけ消えているはずです。」

カップルは数えてみて、顔を見合わせました。

確かにカードは9枚しかなかったのです。


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時は江戸時代。


夜泣きそばの会計での話。落語の「時そば」である。


お客は、

「おそば屋さん、すまねえが、こまい銭しかないんだ。ちょっと手ぇ出しとくれ。」

と言って、そば屋の手に小銭をのせていく。


「一(ひい)、二(ふう)、三(みい)、四(よう)、五(いつ)、

六(むう)、七(なな)、八(やあ)」

八枚まで手にのせたところで、


「ところで、今、何時(なんどき)だい?」と時刻をきいた。

そば屋が「今は、九(ここの)つだよ」とこたえると、お客はすぐさま続けて、


「十(とう)、十一、十二、十三、十四、十五、十六。」

と、合計15枚をのせて言った。


「ごちそうさん。」

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