第4話 鬼、悪魔

この日の12時30分、この国の政府は金融リセットを決めた。


それに伴い、全国の預貯金は封鎖され、何人も引き落とすことが出来なくなった。


男はこの事を銀行で隣のATMにいた女性がスマホで調べてくれて、初めて知った。


そんな事が起こるのかと驚いていたが、それなら支払いも不可能だと諦め、カード会社に連絡した。


お客様カスタマーセンターのお姉さんにこの事を伝えたのだが、


”何が何でも本日中に支払いして頂きます”と、爽やかに返された。


事情なら知っているだろうに、なんて意地悪なんだ。


いくら言っても不可能なのに、なんて無理を言いやがる。


押し問答の末、電話を切った。




会社に戻ると、昼休みにテレビを見ていた他の社員達も金融リセットの話で持ちっきり。


今後の生活はどうなるのか、お金の価値はどうなるのか、仕事をする意味はあるのかなどパニック状態だった。


しかし、この日はとりあえず最後まで仕事をする事になった。


17時12分にタイムカードを切った時に、同僚に飲みに誘われた。


ニュースを見てないのかと呆れそうになったが、それらを何も言わないで断った。


また、別の同僚からは"先日貸した500円を今返してくれ"とせがまれた。


こちらの方が正常な反応だろうと財布から500円玉を取り出してその同僚に渡した。




自宅に帰ると、郵便受けに見たことのある封筒が。


中には例のカード会社から前回と違い、

"本日中に支払いをする様に、取り立てのモノが本日21時に自宅へ向かう"

と、真っ赤な請求書が不気味に届いていた。


現在、17時45分、本日も残り3時間と少し、


男は慌てて自室に入り、ありったけのお金を集めた。


・財布の中には2万8493円… 普段から多めに入れている。


・自宅預金として10万9986円…来月友人の結婚式が2件あるから多めに用意していた。


・ベットの下などから11円…なんでこんな所に??


これらを合わせて138,490円。


・・・


138,990までちょうど500円足りない!!!!!


今日に限って、ちょうど500円を返したし、


昨日の夜にスーパーで買い物しなけれがこのお金もどうにかなっていた。


そもそも毎日120円の缶コーヒーなんか飲まなければ・・・


こんな事を考えながら、男は部屋で立ち尽くし、

この状況への不安感から、”鬼、悪魔”と半笑いで呟いた。




500円に困る男、この男が困っているのか今回だけではない。


先日引き落とされていた500円が影響してくるのはもっと後になってから。

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