500円足りない

南極熊

第1話 そこそこな男が生きるための手数料


男はあまり気に留めていなかった。


今月の1日に、身に覚えのない500円が引き落とされたと

スマホに銀行からのお知らせが届いた。


クレジットカードか何かの年会費だろう。と知らないふりをしていた。


しかしこれが今後の彼の人生を大きく変えていくのである。





男は34歳で独身の会社員。


会社員という肩書きはとても便利なもので、

もっと細かく分類すると、機械製造メーカの製造部門・組立チームのBチームリーダー補佐。


"補佐ってなんだよ"と当初は心の中で思っていたが、今となっては"サブ"って事だろうと特に気にしていない。


組み当てているこの機械は飲食物を加工する機械に使われているらしい。


自分でもよく分からないが、図面通りに組み立てる事が仕事である。


そんな男の情報はどうでもいい。


彼はそこそこお金を貯めてそこそこな人生を送ってきた。



給料は月給31万円前後、手取りで26万いくかいかないか。


月の残業は約30時間、2日程土曜出勤をしてこの額。


年齢を考えても、地方に住んでいるため高給取りではないが、この街でそこそこ生きていくにはそこそこな額である。


一体何に月々5万円も引かれているのかよく分からないで、そして調べようとも思わないで生きてきた。


そんな彼が、500円に苦しめられるとは、まだ誰も知らない。

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