第54話 勇者と騎士

コンコン





「銀次だ。入るがいいか?」





部屋の扉をノックして返事を待つ。俺は仮眠の後ライーザさんが眠っているという部屋を訪れた。もう一度ライーザさんに魔力を贈ろうと思ったのだ。


返事がなければそのまま入ってもいいだろう。





「ギンジさんですか?しばしお待ちを。」





中から声が聞こえてきた。誰かがライーザさんを見ていてくれたのだろう。





「お待たせしました。すみません。今お体を拭いていたものですから。」





ガチャリとドアを開けながらそう言ったのはサルパに使えている侍女のハナちゃんだった。





「ハナちゃんだったか。気にしないでくれ。というかハナちゃんが看病していてくれたのか?気を失っているとはいえ人間だぞ?」





「先程までカオリさんが看ていてくれたようですがお疲れの様でしたのでお風呂をおススメしました。確かに人間は好きではありませんがギンジさんのお仲間でしたら安心ですから。」





西城もヴァルハートから逃げてきて疲れもたまっているだろうが・・・





「仲間、か。以前はそうだったかもしれないな。今の俺はハナちゃんたち獣人の方が信頼しているんだがな。ま、それに獣老の称号を貰ったが俺も人間だけど。」





「うふふ。警戒心が鳥一倍強いぴーちゃんが初見で、それも人間を背中に乗せるんですもの。絶対悪い人ではありませんよ。」





そうか。ぴーちゃんに感謝だな。転移の竜言語魔法、カオスゲートを使える様になったが出来ればぴーちゃんの背中で空を飛びたいな。





「とりあえず納得しておくよ。ぴーちゃんによろしく伝えてくれ。所でハナちゃんや。あまりハビナに変な事吹き込むのはやめてくれ。いちいち疲れる。」





「まぁ。変な事とは?」





「人間の男を落とすには!みたいなシリーズだ。ずいぶん偏った知識みたいだが。」





「か、偏った・・・?あの本によればほぼ完璧、落ちない男はいないはずでは・・・!」





「本だって?本は貴重な物と聞いていたが・・・」





あの本?そんな本がこの世界にもあるのか。あっちの世界にある「絶対!この夏はボディラインを魅せつけるこのコーデで決まりっ!」みたいな根拠のない断定系の本が。





「え、ええ・・・そうなのですが・・・ここだけの話にしてくださいね?大森林の深部に極まれに誰が書いたのか分からない本が発見されるんです。古代語なのかなんて書いてあるか分からないのですが絵も描いてあって内容もなぜかなんとなく・・・」





なんだその河川敷にたまにエロ本を置いていく紳士みたいな話は・・・古代語ってこの世界の昔は俺たちの世界と似ていたのか?





「そうか・・・でその本はどこにあるんだ?」





「申し訳ないのですがなんとなく他の人に見せてはいけない気がして盗み見した後は処分を・・・」





「わかった。もし次に発見したら俺に見せてくれ。なんか気になる。」





「わ、わかりました!ですからどうかこのことはご内密に・・・!ハビナちゃんにはなんでも知ってるお姉さんキャラで通っているものですから・・・!それが本当は何も経験の無い知ったかぶりだと分かったら・・・」





ハナちゃんが泣きそうな顔で懇願してきた。





「あ、ああ。約束するよ・・・でもあんまり変な事教え込まないでくれよ。人間にそれぞれ趣向が異なるからな。俺は違うが例えばうなじが好きってやつもいるし・・・」





「なっ・・・!うなじ・・・だと・・・!?」





いや、それはもういいから。と言おうとした時に騒がしい奴らが部屋に入って来た。








「ごめんな!ハナちゃん!ライーザさんの様子はどうや?」





「ふん。あの人間の力はなかなかのものだった。ギンさんの与えた魔力もあるしくたばりはしまい。」





西城とハビナだったか。なんだか急に仲良くなった雰囲気だけど。





「あんまり五月蠅いと起きるもんも起きなくなるぞ。今からもう一度マジックギフトを使おうと思っていた所だ。」





「そうなんや。なら頼むで。ウチには何もできへん・・・須藤に頼るしかないのが現状や・・・」





「ギンさん私からも頼む。私も人間と言うものをもう少し知った方がいいような気がするんだ。母上をあんなふうに奴隷にした人間は許せない。でもギンさんの様な人間もいる。このカオリにしても伝え聞いている卑しい人間ではないように思う。」





「ハビナちゃん・・・あんた・・・」





「まあ、先程風呂で見た所では尻はギンさんを惑わす可能性がある卑しいものだったが。」





「い、卑しい尻ってなんや!ハビナちゃんの胸やって卑しすぎるやんか!」





「私はこれでギンさんを落としたんだ。これは名誉だ!」





落とされてないし。まぁなんだ。裸の付き合いをしてお互いを理解したんだろう。


元々西城は親しみやすいしハビナもしっかり話せばわかってくれる・・・はずだ。初めて会った時は問答無用だったけど。





「はぁ。もうこいつらは無視しておこう。ライーザさん、これで目を覚ましてくれないと困るぞ。・・・[差し伸べる手マジックギフト]!」





一回目よりも多くはないが決して少なくない魔力が持っていかれるな。・・・どうだ?








「・・・ギンジ殿か。とても・・・温かいものに包まれているような感覚でした・・・私は命を助けられたのですね。」





十分な魔力が行ったのだろう。生命力まで使い果たし真っ白だった顔も綺麗な肌色になってライーザさんは目を開けた。とりあえずは一安心って所か。





「まぁそうなるな。」





「!?ライーザさん!目を覚ましたんやね!よかったぁ・・・もうあんな事せんといて・・・ライーザさんまでいなくなったらウチ・・・」





「申し訳ない。カオリ殿。でももう大丈夫。これは多分ギンジ殿のおかげだろう。魔力が、自分でも怖いくらいの魔力が私のなかに生まれているのを感じる。」





「へぇ。俺の竜眼では魔力量は視えないからな。逆に自分の魔力総量もわからないし。」





(我も数値化は出来ないがな。強制回復により銀次とまではいかないが相当量の魔力を感じるな。)








ライーザさんは自分の手足の感覚を確かめると起き上がって俺に跪き頭を垂れた。





「ギンジ殿。約束通りこれより私はあなたの盾となり、剣となりましょう。あなたのめいにこのいのちを使って貰いたい。私はヴァルハート王国騎士団団長ではなく須藤銀次。あなたの騎士となります。」





「・・・俺がヴァルハートに、王女に弓を引く事になったらどうする?」





「いかようにも。ですが私はギンジ殿を信じています。」





「答えになっていないが。・・・まあいい。あんたは俺を信じると言った。ならば俺もあんたを信じよう。もしそれを違えた場合、わかるな?」





「はい。」





ライーザさんは力強い目で俺をまっすぐ見据えている。この目に裏切られたとしたら俺の見る目が無かったという事だろう。





「須藤!ウチもあんたについてくで!さっきも言ったけどウチらにはもうあんたしかおらんのや!まゆまゆを、せんせを助けたって!」





「ギンさん。カオリは私が目を光らせておく。私の目の黒いうちはギンさんに手を出させる様な事はしない!」





「わかった。西城はハビナに任せる。東雲とメーシーについては・・・期待しない方がいい。それでも構わないと言うならついてくればいい。」





「須藤・・・今はそれでええよ。でも須藤ならまゆまゆの事もせんせの事もちゃんと理解してくれるって信じとるよ。」





「・・・あいつらが俺のこの目とこの腕を見てなんて言うか見ものではあるけどな。」





俺の左目と左腕がぼうっと淡く輝いた。

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