第55話 報告と疑念

「さて、思いのほか時間がかかったな。あいつらの所へ行くとするか。」





他の獣老たちに今までの事、そしてこれからの事を話に客間へと向かった。





俺たちが客間につくとすでに揃っているようで皆思い思いにくつろいでいるようだ。





「待たせたか?すまなかった。」





「ほっほっほ。気にしないでおくれ。ほとんど皆今しがた来た所じゃ。」





サルパが髭を撫でながら返事をした。おや?顔が腫れていない。絶対に露天風呂を覗きに行くと思ったが・・・ばれなかったのか?まあどっちでもいいか。





「おう!久しぶりにサルパ老の所の露天風呂に入ったがやはり広さといい別格だな!」





「やはり天然で源泉が湧いてくる所は強い。僕の所にも湧いてほしいものだ。」





「あら~。私もハビナちゃんとカオリちゃんと一緒に入らせて貰ったけどずっとサルパおじいちゃんの気配を探ってたから却って疲れちゃったかも。露天風呂が最高なのは認めるけど~。」





「あたちもいっぱい泳げて楽しかったのです!ワンワン!」





レオンやガジュージ、ミズホにスララもそれなりに露天風呂を堪能したようだ。ミズホはご苦労さんだったみたいだけど。


サルパのホームで湯けむり乱舞を使われたらなかなか大変だろうからな。





「各獣老の皆様。その説はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。特にサルパ様、私たちを拾って頂きギンジ殿に引き合わせてくれなければ今頃は・・・」





「そうやで!ハビナちゃんみたいな素敵な友達も出来たしホンマにありがとうな!」





「なっ・・・!友達だと!?・・・ふ、ふん!カオリがどうしてもと言うのならなってやらないでもないが。」





「どうしてもや!」





「ッッ!全くこれだから人間は・・・ブツブツ」





ライーザさんと西城は獣人たちに向けて頭を下げた。西城とハビナは友人関係を築けた様だな。その様子をみて獣老たちは無言でうなずいている。





「ギンジ殿に続いて二人も人間が大森林に入ってくるとはな!これも精霊の導きという事か・・・して、ギンジ殿、ハビナよ。遅くなってしまったが異変についての報告を聞かせ貰おうか。」





「それについては俺から話そう。」





レオンたちに大森林で起こった異変、具体的には新たに現れた湖から溢れた元リオウの魔力が周囲の魔獣に作用し(蝕)という状態になっていた事。


そいつらとの戦いでハビナが死にかけ俺のスキルで強化&隷属になった事。


湖にはリオウの「時」の力が封印されていてその守護者たる聖獣を倒したらスララが出てきた事。


スララはリオウの敵の使役する聖獣だったが契約を強制解除されて今はハビナ同様俺に隷属している状態になっている事などを伝えた。





「・・・・」





レオンは黙って腕を組んで目をつぶっている。サルパは髭を触りながら考え事をしているようだ。確かにこの短い時間だったが色々起こったからな・・・





「ち、父上・・・私は・・・」





「ギンジ殿!!」





ハビナがレオンに話しかけようとした時、ハビナの言葉を遮るようにレオンが吼えるような大きな声を出した。


やはり自分の娘が勝手に隷属などさせられて怒っているのかもしれない。自分の妻も奴隷として捕まっているのだ。似た様なものと思ってもおかしくは無い。





「なんだ?」





「ハビナが強化され隷属となっていると言うのは本当か!!?」





「ああ。レオン、勝手にスキルを使った事は申し訳なかった。だが使わなければハビナの命は・・・それも俺の落ち度だ。すまない。ただ隷属と言っても強制力はないんだ。」





「そんな事はどうでもよい!」





どうでもいいとは?





「今のハビナの強さはどのくらい・・・いや、今のハビナは俺より強いのか!?」





レオンは興奮を抑えきれないかの様に顔を近づけ俺に聞いてきた。なんだ?何が言いたい?ちょっと暑苦しいんだが・・・





「経験則、というものがどの程度作用するか分からないが俺の見た限りではハビナに分があると思う。」





「・・・そうか!よし!ハビナ!俺と勝負だ!」





「なっ・・・!父上!?なぜ急に勝負などと!?」





「話は後だ!さあ表へ出ろ!」





レオンはおよそ父親とは思えない発言でハビナに勝負をしかけている。何か考えがあっての事だと思うが・・・





「儂はこの子犬の事が気になるのう。ギンジ殿の力でこの子も隷属という形になっておるようじゃが元はリオウ殿の宿敵の子飼いだったのじゃろう?間者、とういう線は残っておるのじゃないかの?」





「あ、あたちはご主人様を裏切る様な事は決してしないのです!信じて、という他はありませんけど・・・クゥン・・・」





サルパはスララが気にかかるようだな。確かに元は敵で実際俺たちとも戦った。だがこいつも俺と同じく信じていたやつに裏切られたと言った。


俺はそんなやつが手を差し伸べてきた時に振り払う事が出来なかった。俺も同じ思いをしたのだから。


ライーザさんや西城にしたってただ助けてくれと言われただけでは俺は一蹴していたかもしれない。





「こいつの処遇については俺が責任を取る。不満だと言うなら俺は好きにやらせて貰う。その時は俺たちに絡んで来なければ危害を加える事は無いから安心してくれ。これでもあんたたちには感謝してるんだ。それでもちょっかい出してくるなら・・・」





「・・・承知した。スララちゃんや。いじわる言って悪かったのう。ちと確かめたかっただけじゃよ。許しておくれ。」





「猿のおじいちゃん・・・ワン!許してあげるのです!ご主人様!ありがとう!大好きなのです!ワンワン!」





スララはしっぽをブンブン振りながら俺の頭の上にぴょーんと乗ってきた。


全く、今だけだからな。





「ええ話やなー・・・ってふつーに聞いてしまったけど何で犬がしゃべってんねん!皆も受け入れてるみたいやけどおかしいやろ?可愛いけど!」





西城が華麗なツッコミを入れると俺の頭の上にいるスララはふぅ、とため息の様なものを出してから答えた。





「もう、この尻がデッカイ人は・・・あたちは犬じゃなくて聖獣なのです!普通の犬と一緒にして貰っては困ります!ワンワン!」





何か悪口言いだしたぞ。その答えは少し前に俺に言ったセリフと同じだが答えになってないよな。ワンワンって言ってるし。





「まだそのネタ引っ張るん!?はぁ・・ハビナちゃんに胸分けて貰うかミズホさんにウチの尻あげたいわ・・・」








「話は終わったな!!さあハビナよ!勝負だ!その後の話はそれからだ!いいな!?」





「レオン。それはどうしても必要な事なのか?」





俺はレオンに問いかけてみた。父と娘が戦わなければならない理由が本当にあるのか?と。





「そうだ!いくらギンジ殿といえこれは通させて貰いたい!」





「・・・わかった。ハビナ、覚悟を決めろ。レオンは本気だ。」





「ぎ、ギンさん・・・わかった。父上は言い出したら聞かないからな。」





「よし!ガジュージよ!お前が立会人を務めよ!」





「僕が・・・レオンさんとハビナちゃんの立会人を?・・・わかりました!存分に互いの想いをぶつけて下さい。」





そういいながら三人は外に出て行った。俺たちはどうしようか。


・・・レオンがなぜこだわるのかも気になる所だしあいつらの戦いを見に行くか。

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