第50話 勇者情勢
須藤銀次side
「・・・と、こういう訳でなんとか大森林まで逃げて来たって事や。」
「体力と魔力の限界だった私たちは大森林に入ってすぐに獣人たちに捕えられて今に至る訳です。」
「須藤に放り出せって言われた後このサルパのおじいちゃんに会えなかったらうちらもう終わりだったかもしれんで。ホンマにありがとう。」
「ほっほっほ。礼ならギンジ殿に言うんじゃな。ギンジ殿がその場で殺せと言っておったら儂と出会う事もなかったろうて。」
「・・・・・」
西城とライーザさんの話を聞いていて俺は考え込んでいた。何か引っかかる部分がいくつかある。確認しておく必要があるな。
「二人にいくつか質問させて貰う。正直に答えてくれ。」
「ええで。」
「まずヴァルハートについてだが帝国と同盟を結んだらしいが属国になった訳じゃないんだよな?」
「一応表向きはそうやと思う。町の人もあんまり実感はなさそうやな。」
「だが内部はそうでもありません。帝国軍の立ち位置が強く、要職も少しずつ王国民から帝国へシフトさせているようです。」
「王女様と帝国のお偉いさんの政略結婚の話も上がってるみたいや。少し前にせんせが言ってた。」
・・・王女か。国の上層部同士の政略結婚はつきものだがあの国に王子はいた記憶がないな。
王女が帝国の人間と結婚するとなればヴァルハートの立場はさらに弱くなっていくだろう。そんな事もわからない愚王だったのか?それともわかっていて・・・?
「なるほどな。その言うなれば帝国軍ヴァルハート支部の大将に勇人と亮汰がついた、と。」
「加瀬はなんやよく分からんうちにそうなってたけど神宮寺は帝国軍が王国へ来た時に合同でやった勝ち抜き試合で優勝した結果で総帥ってのになったみたいやな。」
「試合だと?他の勇者やギャレス、ましてやライーザさん、あんたが勇人に後れを取ったというのか?」
勇者補正があったとしてもまだレベルの低い勇者たちがライーザさんに勝てるとは到底思えない。ああ、現状の二人のステータスをさっき確認した。
カオリ・サイジョウ
人間 女性
レベル 27
物攻 180
魔攻 110
防 100
敏 190
スキル 重力ナイフ 分身 幻影斬
称号 転移者 勇者
ライーザ・キューラック
レベル 40
物攻 270
魔攻 200
防 150
敏 180
スキル ライトニングセイバー トールハンマー 海鳴
称号 騎士団団長 頭領
西城についてはここ最近五大獣老やハビナのステータスを見てきた側とすれば物足りない様に感じるがレベル27でこの数値と言うのはやはり高スペックなんだろう。
単純にレオンやガジュージたちと同じ50前後になれば総合的に西城の方が強くなると思う。スキルに分身と幻影斬というのがあるがなんとなく想像はつく。西城らしいスキルだ。
ライーザさんは・・・レベル40か。勇者補正なしでここまでの値は流石の一言だ。
勇者以外がどの程度でレベルが上がるか知らないがこれもレベルが揃えば獣老と並ぶ強さだ。
スキルの海鳴ってのは全く想像出来ないな。称号の・・・頭領ってなんだ?
「いや、私も参加するはずだったのですが突然外敵襲来の知らせが届き一部隊を連れて急遽討伐へ向かいました。」
「うちもまゆまゆに付いていたかったから出るの遠慮したわ。そんなんなりたくないし。」
「・・・王国一の使い手がいないまま同盟軍のトップを決めたのか・・・マッチポンプも疑いたくなる話だな。それともう一つ、さっきの話でお前たち二人を襲った被り物の集団。なんだか五月蠅い鞭女は姫崎で間違いないとしてリーダー格と言っていた男・・・それは本当にギャレスだったのか?」
「恐らく間違い無いかと。先程も申し上げましたが王国で私と対等に戦えるのはギャレスぐらいです。剣筋もヴァルハート騎士団の剣筋でした。帝国の荒い剣とは違っていた。」
ふむ。だが俺がギャレスだとして本気で二人を殺そうとするなら・・・
「そいつは市街地で乱戦になっていた時、
「うちは杏奈ちゃん・・・鞭女の攻撃を避けるのでいっぱいだったから何とも言えへんけど・・・あん時はじっとしてたような気がする。」
「確かに。ギャレスのスキルは乱戦の時こそより効果を発揮する。あの時、気配断ちを使われていたら私でも防げたかどうか・・・逆に最後、追い詰められたときは気配断ちを使いながらも正面から攻撃してきた・・・背後からではなく。だから気配で察知出来た。でもなぜ・・・?」
やはり。そいつは二人を追い詰めながらも殺すつもりは無かったのでは?理由は分からない。でも話からは二人を逃がすような・・・少なくとも殺意が伝わってこない。
「なんでかは俺には分からない。もし殺すつもりがなかったのなら最後にメーシーが体を張ったのもどうだったのかと思ってな。」
「!?」
「!?ギンジ殿と言えどもそれは!」
パァン!!
突然西城のビンタが飛んできた。
「このドアホ!せんせは必至にうちらを逃がしてくれたんや!この国を頼むって!あんな顔演技で出来るか!」
そうか。俺は心まで嫌な奴になっていたようだ。
「すまない。失言だった。だが俺がされた事を思えば何にでも疑ってかかるのは当然だ。俺だって彼女は、メーシーは友達だと思っていた。だがなぜ彼女はあんなにあの遺跡に行くことにこだわったんだ?そうまでしていかなければならない理由があったのか?全ては俺を嵌める為・・・そう思ってもおかしくはないだろう!?」
「そ、それは・・・でもせんせは!」
「私も外交問題、それと勇者様方の戦力アップだと聞いていました。もし他の理由があったとしてもあいつは、メーシー・ローイングは口は悪いが人を売る、嵌める様な奴ではありません!私の騎士の誇りに賭けて誓いましょう!」
西城とライーザさんが目の涙を浮かべながらそれでも奥の方に力強い光を宿しながらそう言った。そんな目・・・今の俺に出来るだろうか。他人を心から信じられるような目が。今の俺が信じられるのは自分と契約者のリオウ、隷属関係にある二人。それだけなのか。
「わかった。その話は後だ。最後にもう一つ。あと一人の勇者、東雲真弓は今どうなっている?話を聞く限りでは何か様子がおかしいようだが・・・」
「・・・・」
西城は下を向き唇を噛んでいる。
「カオリ殿・・・心中お察しします。では私から・・・」
「ううん。うちから話すよ。まゆまゆはあの日、須藤を誤って打った日から心が壊れてしまったみたいなんや。」
「心が壊れた?」
「そうや。だいたいぼーっとしててご飯もほとんど口をつけへん。ウチが無理やり食べさせればなんとか食べるけど・・・ウチが言っても小さな声でごめんなさいしか言わへん。」
味方、俺を誤射した事が原因で?俺を焼いた事は本意では無かった?だが・・・
「誤って、だと?じゃあ聞くが彼女が今まで誤射したり回復と攻撃の弓を間違えたのを見た事があるか?少なくとも俺は無い。あの日に限ってなぜミスをした?そのせいで俺は!」
「・・・それはウチにはわからん。でもさっき話したの試合の時みたいに外敵が出たりどっかで魔獣が出たりってなるとフラフラの身体でも討伐に行こうとするんや。ウチが止めても聞かないからウチも付いて行ってる。」
「そんな状態でもシノノメ殿は一度も弓を外していません。もの凄い技のキレです。魔力の残りも気にしないような状態で何度も魔力枯渇状態に陥っています。まるで死に場所を探しているかの様に・・・それでも行こうとするので正直恐ろしいと思う事もあります・・・」
「なんでそんな事を・・・」
「わからんけど、贖罪、やないかな?須藤を打ってしまった事に対する。」
「・・・・」
「頼む!須藤!まゆまゆに一度会って須藤が生きてるって教えたってくれへんか!?そうすればまゆまゆだって・・・!」
「私からもお願いします!ギンジ殿!今王国は帝国の脅威に晒されています!現国王を退かせ王女様をトップに据えなければギンジ殿の言った通り他国を蹂躙、鎮圧する帝国の属国になってしまう!」
「俺は・・・」
「さっきから黙って聞いていれば!貴様らがギンさんをお荷物扱いして邪魔だと切り捨てておいて今度は困ったから助けろだと!?そんな事が通ると本気で思っているのか!?」
「まぁ都合がいいわね~とは思うわよ~。」
「僕も概ね同意だな。」
「それが人間って生き物だからな!」
「皆の者厳しいのう。じゃが確かにの。」
「あたちはご主人様のいるところにいるだけなのです!ワンワン!」
静かに俺たちの話を聞いていた獣人たちは口を揃えてそう言った。こいつら・・・そうだな。ハビナの言う事も最もだ。
「そう言う事だ。俺は逆襲の対象者の為に動くお人よしでもないし国の政治にも興味は無い。東雲が壊れたと言うならその矛先を勇人や他の連中に向けるだけだ。」
「須藤!だからまゆまゆの事は誤解やって!」
「誤解だって言う証拠がどこにある!どうしてもと言うのなら力づくで俺を連れて行ったらどうだ?」
「そんな!仲間に、須藤にそんな事出来る訳ない!」
「・・・・」
西城は悲痛な顔をしてうなだれている。対してライーザさんは静かに目を閉じていて・・・やがてその目をカッと開き意を決した表情をしている。
「ギンジ殿。私と勝負して下さい。私が勝ったらこちらに協力して貰いたい!」
「ライーザさん!ホンマにそれでええんか?力で・・・」
「カオリ殿。こうするしかないのです。その為にはギンジ殿に恨まれても構わない!」
「そうか・・・わかった。いいだろう。逆に俺が勝ったらそっちはどうする?」
「あなたに忠誠を誓いましょう。目障りだから死ねと言われればそうします。」
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