いっしょにあそぼう

一話 いっしょにあそぼう

「プルミエル、アインツ! ごはんの時間だよ、いっしょに食べよう!」

 直次の声を聞いて、ぼくたちは直次のところまで走った。

 この声が聞こえたらぼくたちは、かけっこをはじめる。

 それがぼくたちクロネコ二匹の兄弟の決まりだ。

 となりを走るアインツとは、今日もきょうそうになる。

 とうぜん、ぼくが勝つけどね。

 だって、ぼくは兄ちゃんだからな!

「いっちばーん! いただきます!」

「兄ちゃん早い! でも次はボクも負けニャいもん! いただきまーす!」

 ぼくたちは、なかよく皿の中のごはんを食べた。

 カリコリと歯ごたえのあるごはんは、まるで小魚をまるごと食べてるみたいで、おいしい。

 と言っても、ぼくたちは小魚をほとんど食べない。

 小魚はおやつの時に、たまに出されるくらいだからな。

 ごはんと言えばコレだ。

 この、いろんな形をした、茶色いやつに赤や緑がまじってるやつ。

 キャットフードって言うみたい。

 ごはんは、おいしい。

 食べ終わったら、ぼくたちは好きなように、あそぶ。

 まどの横で、おひるねしたり。

 たなの上まで、ピョンと飛びのったり。

 キッチンにある銀色の曲がったツツから、ぽたぽた出てくる水をなめたり。

 アインツと二ひきで追いかけっこしたり。

 直次とあそんだり。

 そして夜になったら、家から飛び出して、外を旅する。

 外はおもしろい。

 いろんな物があるし、いろんなヤツがいる。

 アインツはとくに、いろんなヤツと会うのが好きだ。

 ごはんをよこどりした話。

 高い木にのぼって、飛んでる虫をつかまえた話。

 ケンカで勝った話。

 そのケンカで、できたケガの話。

 アインツは、そんな話を聞いて、すごいと言うだけ。

 話を聞くだけでまんぞくするらしい。

 でもぼくは、ちがう。

 そんな話を聞くたびに、ぼくもやってみたい、と思う。

 やってみて、できたらうれしい。

 できなかったら、くやしい。

 だってバカにされるから。

 外のネコたちは、じぶんだけのイチバンなところを、何かひとつ持っている。

 体がイチバン丸いとか、頭がイチバンかしこいとか。

 でも、ぼくのイチバンは何もない。

 そのせいで、ぼくにイヤな事を言うネコもいるんだ。

 この前なんて、イチバン頭がかしこいネコに、

「プルミエル、お前のいちばんは何なんだ? 弟のアインツは、あんなにキレイなクロネコなのに、お前は白い点のまじったブサイクネコじゃないか。アインツは、おれたちの中でいちばんキレイだけど、お前はおれたちの中で何か、いちばんなところ、あるのか?」

 ケタケタ、ケタケタ、笑われる。

 くやしくて、そいつとケンカして、でもあと少しってところで、いつも負けて。

 アインツに、だいじょうぶ? って、しんぱいされながら。

 ケガしたところの、イタイのをがまんして、いっしょにかえる。

 くやしい。

 家にかえってくると直次が、ざんねんそうにマユをさげる。

 すこしだけ口のはしを上げながら、またケンカしたんだな、ってぼくに言うんだ。

 ぼくをだっこして、ケガしたところをてあて、してくれて、やさしく頭をなでてくれる。

「プルミエル、次は勝つんだぞ。プルミエルはいちばん、負けずぎらい、になるんだ。あきらめちゃだめだ」

 もちろん、ぼくはいつだって、負けるつもりなんか、ない。

 あきらめよう、とも思わない、でも。

 いつもあと少しで、負けてしまう。

 アインツが、ぼくに体をこすりつけて言った。

「兄ちゃん、もうやめようよ。ボクは兄ちゃんがケガするところ、見たくニャい。だって、こわいんだもん。兄ちゃんはブサイクなんかじゃないよ。なんでみんな、そんニャこと言うの? ボクと兄ちゃんは、こんなにソックリなのに」

 外のネコたちもアインツも知らないけど、ぼくたちは、さいしょ四匹のきょうだいネコだった。

 でもぼくとアインツだけ、直次にもらわれて。

 ほかの兄弟とお母さんとは、べつべつの家にすんでいる。

 そのことは、とくに何とも思ってない。

 ぼくもアインツも、直次といっしょにいられて楽しいからな。

 四匹の兄弟で、アインツはいちばんさいごに生まれた。

 だから知らないんだ。

 兄弟みんなキレイなクロネコなのに、ぼくだけが、白のまじったネコだってこと。

 アインツはきっと、じぶんのことをぼくと同じ、白い点まじりのクロネコだ、と思ってる。

 アインツは、ぼくたちが直次にもらわれて、この家に来たことだって、知らないんだろう。

 でも、ぼくは知ってる。

 みんなの、あの黒い毛が、うらやましい。

 たまに、アインツがどこか、とおくへ行ってくれたらいいのに、と思う。

 そしたらきっとぼくは、外のネコたちに、くらべられたりしない。

 外のネコたちに、バカにされることもないのに、って。

 こわがりなアインツとはちがって、ぼくはいろんなことができる。

 ネコのくせに、高い木にのぼったら、おりられなくなるアインツとは、ちがうんだから。


 だからって、ほんとうにアインツが、いなくなってしまうなんて、ぼくは思ってなかった。

 ぼくが、またケンカしてたあの時。

 いつも聞こえるアインツの「兄ちゃん、もうやめて」って声が聞こえなかった。

 その日ぼくは、はじめて勝った。

 勝って、まわりを見たら。

 そこにアインツは、いなかったんだ。

 どこにも、いなくなっちゃったんだ。

 それから何日かがすぎてから、直次が言う。

 夜空の星をいっしょに見上げながら。

「アインツは、とおくへ行っちゃったんだ」

 あんな高いところに、一匹で?

 そう考えたらぼくは、たすけなきゃ、と思った。

 アインツは木にだって、のぼったらおりられない。

 夜空なんて高いところは、アインツはもっとおりられないはずだ。

 きっと、いまもおりられなくて、こまってる。

 だったら、ぼくが行って、たすけてあげなくちゃ。

 ぼくは兄ちゃんなんだから。

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