NON STYLE,BE COOL

ツバキ

001

 私は『私』だけど、私じゃない。


『十七歳』

『女子高生』

『黒髪ボブ』に『膝上十センチのスカートの丈』

あと『黒のニーハイ』。


 これらは私を定義する単語。

 でもそのどれもが、私が選んだようで実はちょっと違っている……


* * *


 うだるような暑さが落ち着いた夏の終わり頃、

 高校の最寄駅のホームで、クラスメートの男子の田中が熱心に携帯のディスプレイを覗き込んでいた。


 私はたまたまそれが気になって、後ろからひょいと覗き込み、えっと心の声をあげる。


「なに、あんたメイクに興味あるの」


 口を突いて出た言葉に、田中が勢い良く振り返った。


「うわっ、いっ、 伊藤さん!?」


 田中は薄ぼんやりした奴だ。クラスにいるのかいないのか、時折忘れる。

 でも、テスト前には頼られたりして、へらへら笑ってノートを貸してたりする。

 そんな真面目でつまんない奴。


 だから、そんな彼が息を詰めてじっと見ていた動画が、まさか外国のメイク動画だとは思わなかった。アニメとかそういうのだと思ったのに。


「メイクしてあげよっか」


 気がつけば、私はそんなことを言っていた。

 なんだか意味もなくワクワクしていた。


 田中は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。


「伊藤さん、本気?」


「うん。ね、これからうち来なよ。誰にも言わないから」


「……それじゃあ、お願いします」


 私は紛れていた宇宙人を見つけたような、

 新鮮な感動と共に彼を家へと連れ帰ったのだった。


* * *

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