第5話 高速バスターミナル零番乗り場
ビール500mlを4本、ウイスキー180mlを日本酒に換算すると、約7合……あと3合で一升瓶を飲み干したのとほぼ同じ量になる。
それを短時間で呑んだら、普通の人は急性アルコール中毒になりかねない。繰り返すが、無謀な飲酒は絶対してはいけない。
閑話休題……
勝間田が高速バスターミナルのベンチで意識を失ってからどれくらいの時間が……いや、厳密には彼の時計は止まっているので、時間は進んでいないが……
不意に季節外れの爽やかな風が高速バスターミナル内を吹き抜け、何故か桜の花びらがヒラヒラと舞う。その風に乗るように1台の高速バスが現れる。その時のターミナルに漂う何とも言えない違和感が彼の意識を呼び戻した。
意識が戻った勝間田が周囲を見回すと、空になったウイスキーの瓶がベンチの下に落ちている。この瓶を見たことで、彼は少しずつ自分の置かれた状況を思い出す。
終電に乗り遅れ、ウイスキーを呑んで……懐かしいあの子に会って……って、あれ!?その時、ずっとあの子と会っていたくて、一気に呑み干したら意識が……でも、悪酔い特有の頭痛や吐き気は消えている。ただ少しだけ頭が重く、体も少しだるい程度……
「只今零番乗り場では、01:23発、……行き改札を行っています」
高速バスターミナルに響き渡った案内放送で、勝間田は我に返る。肝心な部分は聞き取れなかったが、彼はなぜか直感的に『このバスに乗らなければ!』と感じ、改札中の運転士に声を掛けた。
運転士は驚く様子も無く、
「ご予約のカツマダ様ですね。座席は1番前の左、通路側『1B』です」
あっさり片道乗車券を渡してくる。
勝間田はいろいろ気になることは山ほど……なぜ『零番乗り場』なのか、そもそもこんな時間にこのバスはどこから来たのか、どこ行きなのか?等々、ただ、考えても答えが出るわけでもなく、やはりこれも悪夢の中のエピソードの1つと思い込むことにして、運賃も気にせず運転士に言われた席に座る。
その直後、運転士は高速バスターミナルの引き戸を閉め、運転席に滑り込むとエンジンを始動させる。
同時に手際良く帽子を被り、乗降扉を閉めた。ピーというブザー音とともに
「発車します、ご注意ください」
と、自動放送が作動し、乗車しやすいようやや左に傾いていた車体が元の高さに戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます