第十四話:鍵と魔法陣
弓の罠部屋から出た俺たちは、次の区画を探索する事にした。
盗賊の迷宮の地下一階は礼拝堂の他にも墓守の詰所、そして墓が立ち並ぶ小部屋がある。
地図を見ると、入口付近に墓守の詰所及び宿泊所がある。
墓守は仕事する時は一日ここに詰めては墓の手入れや修復、死体の運び入れなどを行っていたようだ。
通路をさらに進むと左に礼拝堂、右に行くと地下二階に通じる魔法陣のある罠部屋、そして墓が立ち並ぶ小部屋が連なる区画がある。
ここにはサルヴィの普通の人々が埋葬されている。
俺たちは墓地の区画へと足を踏み入れた。
サルヴィの民衆が埋葬されている墓は、思いの外荒らされてはいなかった。
埋まっていた宝自体も大したものが無かったのか、荒らされていた墓の中身も手を付けられていない。或いは盗賊たちにも多少の分別はあったのか。
しかし、埋葬されている人々は思わぬ形で目を覚ます事になる。
「やっぱり出てきますよねぇ、そりゃ」
先ほど襲われた記憶がよみがえったのか、身震いするアーダル。
墓からは古い方法で埋葬された死体、
それ以外にも乾いた肉体すら無くした
「臆するなよ。恐怖に屈した瞬間に死ぬ。気を強く持て」
「わかってます」
アーダルは手斧をブンと振り回し、気合を入れ直すかのように深呼吸する。
魔物と成り果てた人々を斬るのは少しばかり忍びないが、俺たちにも目的がある。
心の中で念仏を唱えながら俺は刀を振るった。
魔物を二人で片づけた後に、墓をひとつひとつ調べてみる。
「墓荒らしをすることになるとは思いませんでしたよ」
「そう愚痴るなよ。宝があると知ったら生きている人間の懐だろうが、死体の懐だろうが漁るのが盗賊というものだろう」
「僕は盗賊というのはトレジャーハンター的なものを考えていたんですよ! あまりにもこれは違いすぎますよ」
「現実は得てしてそんなもんだ。受け入れた方がいいぞ」
しょぼくれて文句を言いながらも、アーダルの仕事は手早い。
この小部屋には墓は六つあったが、どれも目的となる鍵は無かった。薬草や毒消しの丸薬くらいしかなかったが、それは有難く懐に入れる。
「次の部屋に行こう」
次の小部屋に行く扉を開くと、同じように魔物がまた起き上がり襲い掛かってくる。
それを捌き、片付け、調べるを何度か繰り返した。
やはり鍵は見つからない。
「そもそも一般人に鍵を持たせるものでしょうか。大事な罠部屋の鍵を」
「それもそうだな。となると墓守が持っているか、あるいは誰かが鍵を持ち出したかだな」
墓地区画を念入りに調べて地図に全て記したものの、鍵は最後まで出てこなかった。
俺が知っている盗賊の迷宮の地下一階は礼拝堂、墓守の詰所、墓地区画以外には知らない。これで次の階層に行くための手がかりは無くなったかに思えた。
墓地区画を出て通路に戻り、一応地図上では行き止まりとなっている所まで歩いてみる。
すると、地図には記載されていない領域が俺の目の前に現れた。
「おや?」
行き止まりとなっていた壁は崩れており、その先には洞窟の内部のような、岩がむき出しになっている箇所が姿を現していた。
人が作った通路と部屋ではない、乱暴にくりぬいただけの坑道のような道は更に奥へと続いている。
「ミフネさん。ここは行き止まりのはずでしたよね?」
「地図ではそうだが、恐らくは何かが壁を崩して拡張したか、迷宮が成長したかだな」
迷宮は時折、地形を変化させる。
自然の洞窟のような場所、サルヴィの迷宮地下四階のような階層であれば鎧ゴキブリのような魔物が壁や地面を掘ったりするのでそれで変わる事はある。或いは崩落による自然変化も。
それ以外にも、まるで迷宮自体が自我を持ったかのように大幅に変貌するときもある。
そのせいで描いた地図が役に立たなくなったと嘆く冒険者も数知れず。
故に地図屋という商売も地味ながらずっと成り立っているのだ。
盗賊の迷宮には地面や壁を掘削するような魔物は居た記憶がないので、迷宮が自ら地形を変化させたとみるべきだろう。主が復活して魔素が迷宮に溢れている為だろうか。
新たに出来た通路に入る。
墓のなんとも言えないすえた匂いとは違う、湿気を含んだ匂いが鼻につく。
道の幅も人間が三人くらい横に並んでやっと通れるくらいの狭さだ。
ここに出てくる魔物は不死系から
どの魔物も初心冒険者でもなんとか倒せる程度の強さでしかない。
人食い枯木だけは油断すると痛い目を見るので二人がかりで倒すが、それ以外はアーダルに倒させて経験を積ませていた。
アーダルも骨人や木乃伊の相手をして戦いに慣れたのか、もはや人捕り草や緑粘菌程度であれば一息で倒せるようになっている。
斧を振るう姿もだいぶ板についてきた。盗賊としての体の動かし方をようやくつかんできたのか、軽快に身を翻す動きが様になっている。
洞窟部分の探索もほぼ終えたが、特に見るべき所は無かった。
いよいよもって鍵が無い場合の事を考えなければならないか?
洞窟の終わりの部分である、多少広い空間に出た。
ここに魔物はおらず、中央にぽつんと死体だけがある。
身なりから恐らく盗賊と思われる。魔物に肉でも食われたのか骨だけになっている。
衣類も肉と一緒に齧られたかでボロ布のようになってしまっている。
死体に近づき、何かを持っていないかを探る。
「ん? 手に何か握っているな」
骨の手を開くと、その中には鍵があった。
錆びた鉄で出来た、装飾も何もない簡素な造りだ。
「鉄格子の鍵ですかね?」
「そうだと思いたい。戻ってみよう」
死体に拝み、俺たちは罠部屋に戻って鉄格子に鍵を差し込んでみた。
一回転ほど捻ると、がちりと重い音がして鍵が外れた。
「やった!」
俺は壁に設置されているボタンを押す。
すると先ほどまでうるさいほどに飛び交っていた弓矢の音が消えた。
これでようやく先に進める。
次の階層へ進む魔法陣に近づく。
魔法陣は、見た事もない紋様で描かれている。古い時代に遺されたもので、今でも転送の魔法が作動するというのは驚きだ。
魔法陣は近づくほどに鈍く輝き、俺たちを次の階層へと誘おうとしていた。
「じゃあ、行くとしようか」
俺たちは魔法陣へと一歩、足を踏み出した。
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